【2024年M&Aサマリー】1221件のM&A、17年ぶりに記録更新

2024年のM&A件数(適時開示ベース)は、前年比14%増の1221件となり、2007年の1169件を17年ぶりに記録更新した。人手不足が深刻化するなかで、人材獲得を目的にしたM&A案件が多数発生。

人口減少社会の到来を本格的に迎え、海外に活躍の場を求める動きも顕在化した。海外ファンドも意欲的な投資で、件数の底上げに一役買った。金額は10兆5397億。1兆円を超える超大型案件がなく前年比13.9%減となった。

【2024年M&Aサマリー】1221件のM&A、17年ぶりに記録更新

国内・海外別に見ると?

国内は同16.5%増の993件で金額は同45.9%減の3兆3884億円。2023年の東芝への約2兆円買収のような超大型案件はゼロで金額は前年を大きく下回った。

海外案件は同5.5%増の228件、金額も7兆1512億円で同17.2%増。このうち日本企業が買い手となるアウトバウンドは155件、海外企業が買い手となるインバウンドは73件といずれも5%強の増加となった。

国別ではトップが米国で73件。2位はシンガポールで19件、3位は中国で17件と続いた。ベインキャピタルを筆頭に、KKR、ブラックストーンなど米投資ファンドの旺盛な買い意欲が件数の増加に結び付いた。一方、長らく2位を維持していた中国は順位をダウン。日本企業による売却が優位な状況が長らく続いており、地政学上のチャイナリスクへの警戒感から脱中国の動きが継続している。

人材獲得のM&AがITで活発に、住宅メーカーは海外に活路

人材獲得を目的としたM&Aが目立ったのは、IT・ソフトウエア、陸運・倉庫。IT・ソフトウエアでは、DX(デジタルトランスフォーメーション)ニーズの増大に伴い、人手不足が深刻化している。SIer(システムインテグレーター)大手のNTTデータグループによるジャステックの子会社化、住友商事系SIerのSCSKによるネットワンシステムズの子会社化などを筆頭に多数の案件が発生した。

同様に、トラックドライバーの残業上限が規制された「物流の2024年問題」を背景に、陸運・倉庫で取引が活発化した。特に影響を受けたのは中・長距離輸送。燃料費の高止まりも要因に加わり、エスライングループ本社はMBO(経営陣による買収)を選択、物流マッチングを手がけるトランコムもベインキャピタルと組んでMBOを選ぶなど、動きがあった。

日本の市場縮小を見越して海外に活躍の場を求めた業界もある。顕著なのが住宅メーカーで、積水ハウスは米国の戸建住宅事業を展開するM.D.C Holdingsを子会社化。米国・豪州を中心に、日本の戸建てメーカーが進出している。住友林業は、オーストラリア最大手の住宅会社Metriconグループを子会社化している。

●2024年金額上位20

1 ルネサスエレクトロニクス 米国のプリント基板設計ソフトウエア企業「アルティウム」を子会社化 8897億円 2月 2 積水ハウス 戸建住宅事業を展開する米国M.D.C. Holdingsを子会社化 7718億円 1月 3 富士ソフト 米投資ファンドKKRのTOBを受け入れて株式を非公開化へ、2024年10月に米ベインキャピタルが対抗買収提案を提出。同12月19日までの予定だったTOB期間を2025年1月9日まで延長した 5582億円 8月 4 平和 米ファンド傘下でゴルフ場国内最大手のアコーディア・ゴルフを子会社化 5120億円 12月 5 日本たばこ産業 米たばこ4位のベクター・グループを子会社化 3780億円 8月 6 小野薬品工業 米バイオ医薬品開発のデシフェラ・ファーマシューティカルズを子会社化 3760億円 4月 7 SCSK ITインフラ構築のネットワンシステムズをTOBで子会社化 3574億円 11月 8 日本ペイントホールディングス 米国の化学品企業AOCを子会社化 3340億円 10月 9 インフォコム 米ブラックストーンのTOBを受け入れ 2757億円 6月 10 TOPPANホールディングス 米包装大手SONOCOから軟包装・熱成形容器事業を取得 2713億円 12月 11 ニデック 工作機械大手の牧野フライス製作所をTOBで子会社化へ 2572億円 12月 12 キリンホールディングス 健康食品・化粧品のファンケルを子会社化 2207億円 6月 13 伊藤忠商事 スポーツ衣料品大手のデサントをTOBで子会社化 1826億円 8月 14 アルプス物流 米KKR傘下のロジスティードによるTOBを受け入れ 1758億円 5月 15 旭化成 スウェーデンの製薬企業カリディタス・セラピューティクスを子会社化 1739億円 5月 16 ヒューリック 香港投資ファンド傘下で投資用不動産販売のレーサムをTOBなどで子会社化 1735億円 9月 17 日本特殊陶業 東芝傘下の東芝マテリアルを子会社化 1500億円 11月 18 セブン&アイ・ホールディングス 米スノコからコンビニ・ガソリン204店舗を取得 1457億円 1月 19 横浜ゴム 米グッドイヤーから鉱山・建設機械用タイヤ事業を取得 1424億円 7月 20 ティーガイア 米ベインキャピタルのTOBを受け入れて株式を非公開化 1392億円 9月

2025年の注目ポイント

2025年の注目は、東京証券取引所の取り組み。東証は2023年3月末、プライム上場、スタンダード上場企業に「資本コストと株価を意識した経営の実現に向けた対応」を要請。

プライム市場の約半数、スタンダード市場の約6割がPBR(株価純資産倍率)1倍割れという実態を踏まえて対策を求めた。対応を進める企業が増えるなかで、企業価値向上の手段としてM&Aの利活用が期待される。また、2022年に行われた市場区分変更に伴う経過措置期間が2025年3月から順次終了する。上場基準に満たさずに暫定的に上場が維持されてきた企業は多数あり、そうした企業を対象にしたTOB(株式公開買い付け)やMBOを模索する動きも出そうだ。

注目のニュースは、昨年末に発表されたホンダ・日産の経営統合に向けた協議・検討開始についてだ。大手自動車メーカーは、系列自動車部品メーカー、工作機械メーカー、素材取扱商社、物流、鉄鋼などさまざまな業界とも関わる。業界再編をいたるところで勃発させる”地殻変動”になりかねず、協議の行方が注視される。

文・M&A Online副編集長 大澤昌弘

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