生乳流通の革新で食品業界に新風を吹き込む マリンフード、エムケーフーズをグループに迎え乳製品事業を強化


大阪の老舗食品メーカーであるマリンフード株式会社(大阪府豊中市)が、生乳の自主流通で急成長を遂げる株式会社エムケーフーズ(大阪市城東区)を子会社化した。工場を持たない独自のビジネスモデルで年間2万5000トンの生乳を扱うエムケーフーズと、チーズ・バターなど乳製品加工で70年の歴史を持つマリンフードの融合は、日本の乳製品業界に新たな可能性をもたらす。

食品業界における戦略的M&Aの成功事例として、M&Aへの道のりと今後の展望に迫る。

生乳流通の革新で食品業界に新風を吹き込む マリンフード、エムケーフーズをグループに迎え乳製品事業を強化
株式会社 エムケーフーズ 代表取締役 増永 浩二氏
株式会社 エムケーフーズ 代表取締役 増永 浩二氏

エムケーフーズの独自戦略とは?

増永:私どもは2004年に有限会社アール・ピー・ケーを設立し、2016年に株式会社エムケーフーズに社名変更しました。最初の15年間は牛乳の仕入れ販売という問屋業でしたが、2019年に大きな転機を迎えました。自主流通というチャレンジを始めたんです。

北海道の生乳を直接買い付けて、委託工場で製品化する。年間1,000トンからスタートして、現在では2万5000トンまで拡大しています。2021年に2社目、2023年に3社目の委託製造先を確保し、今年4月には4社目も加わりました。

私たちの特徴は「工場を持たない」ことです。土地も設備も持たず、徹底的に固定費を削減してきました。もともと私はサラリーマンでしたから、お金がない中で会社を作りました。最初の15年間は本当に苦しかったですが、その経験があったからこそ、無駄のない経営ができているんです。

なぜ自主流通に踏み切ったのか?

増永:従来の大手乳業メーカーは農協から牛乳を仕入れていますが、私たちは生産者から直接仕入れる「自主流通」を選びました。これは簡単なことではありません。生乳の流通には独特な仕組みがあり、通常は指定団体(農協系統)を通じて乳業メーカーに供給されます。

しかし、私たちは「メーカーポジション」を目指し、自らリスクを取って直接取引の道を選んだんです。

関東では農協がしっかりと流通を押さえているため、なかなか委託工場が見つからない。この4~5年間、関東の工場には全部断られてきました。それでも諦めずに、老朽化して経営が厳しい工場に設備投資をして協力関係を築く。そういった地道な努力を続けています。

70年の歴史を持つマリンフードが見出した新たな成長戦略

バター不足の危機から生まれた変革

生乳流通の革新で食品業界に新風を吹き込む マリンフード、エムケーフーズをグループに迎え乳製品事業を強化
マリンフード株式会社 代表取締役社長 吉村 直樹氏
マリンフード株式会社 代表取締役社長 吉村 直樹氏

吉村:私どもは昭和32年(1957年)に父が創業した会社です。私が30歳の時に父が亡くなり、それから45年間社長を務めています。現在の主力商品はチーズが55%、チーズ代替品が25%で、合わせて80%。残りはバターとホットケーキなどです。

10年前、日本でバター不足が深刻化した時期がありました。それまで100%国産バターを使っていたのに、国内のバターメーカーから1キロも供給してもらえなくなった。「これでどうしたものか」と途方に暮れましたが、農林水産省が輸入バターを毎月入札で放出していることを知り、そこに参加するようになりました。

最初は門外漢扱いでしたが、今では入札で落とすバターの量がナンバーワンになり、農水省から「最近の状況を教えてほしい」と聞かれるような関係になりました。

世の中が変わったというより、私たちが生きていくために変わらざるを得なかった。毎月の入札は本当に大変です。落とせなければゼロですから、どうしても高めに入札せざるを得ない。でも高すぎたら製品が売れない。このバランス感覚は本当に難しいですね。

M&Aで新たな視野を開く

吉村:正直に言って、私はM&Aについてあまりよく分かっていませんでした。5~6年前に初めて経験して、それも行きがかり上そうなってしまったという感じです。でも、エムケーフーズさんの資料を見せていただいたら、非常に面白いビジネス展開をされている。ビジネスモデルも面白いし、成績も非常に良い。

工場を持たないビジネスモデルには本当に目が覚めるような思いでした。「これだけの人数でやれるんだ」と。うちなら、従業員を3分の1ぐらいにできるなと思ったぐらいです(笑)。でも、そこにM&Aの真の面白さがあるんじゃないでしょうか。

違う集団、違う組織を取り込んで、その特性を従来の会社に植え込んでいく。ネスレのような世界的企業も、M&Aを繰り返して成長してきました。

超長期投資で企業価値を最大化するミダスキャピタルの戦略

なぜエムケーフーズに注目したのか?

生乳流通の革新で食品業界に新風を吹き込む マリンフード、エムケーフーズをグループに迎え乳製品事業を強化
株式会社ミダスキャピタル 投資本部ディレクター 田中 菖平氏
株式会社ミダスキャピタル 投資本部ディレクター 田中 菖平氏

田中:マリンフードの筆頭株主(ファンド運営会社)として、今回の取引に関わりました。私どもミダスキャピタルは2017年設立のプライベートエクイティファンドです。通常のファンドとは異なり、外部資本を集めておらず、原則としてミダスキャピタル関係者のみが出資可能なファンドを運営しています。そのため超長期での投資が可能で、現在15社に投資し、時価総額の合計は約4,500億円です。

エムケーフーズに興味を持った理由は、非常にユニークなビジネスモデルを有し、急成長を遂げていた点にあります。一方で、その高い成長性の背景には、自主流通というリスクの高い事業を展開されていることもありました。なぜそのようなリスクを取って成長を追及されているのか、経営者の方にお会いして話を伺いたいと思いました。

実際にお会いしてみると、増永社長は非常にエネルギッシュで、会社を成長させてきた実行力がある。そして何より、明確なビジョンを持っておられました。

シナジー効果で描く乳製品事業の未来

関東進出と新商品開発への期待

増永:マリンフードグループに入ることで、まず関東進出が加速します。私たちの売上エリアは関西から東海地区が中心でしたが、関東まで行きたいという目標がありました。マリンフードさんは関東に拠点があり、物流面でも得意先でも共通する部分が多い。

このシナジーを活かして、2年以内に関東での生産体制を確立したいと考えています。

新商品開発では、A2ミルクに注目しています。これは牛乳でお腹がゴロゴロしない次世代の牛乳で、A2遺伝子を持つ牛から搾った特別な牛乳です。通常の1.5倍の価格ですが、関東を中心に少しずつ広がっています。私たちは提携牧場を持っているので、この普及に力を入れていきたい。

また、「食のトータルコーディネーター」として、牛乳を原料にした様々な商品開発も進めています。乳飲料やプライベートブランド商品など、委託製造先を探しながら商品ラインナップを増やしていく計画です。

組織融合がもたらす化学反応

生乳流通の革新で食品業界に新風を吹き込む マリンフード、エムケーフーズをグループに迎え乳製品事業を強化
マリンフード株式会社 代表取締役社長 吉村 直樹氏(中央)、株式会社 エムケーフーズ 代表取締役 増永 浩二氏(左) 株式会社ミダスキャピタル 投資本部ディレクター 田中 菖平氏(右)
マリンフード株式会社 代表取締役社長 吉村 直樹氏(中央)、株式会社エムケーフーズ 代表取締役 増永 浩二氏(左) 、株式会社ミダスキャピタル 投資本部ディレクター 田中 菖平氏(右)

吉村:時間の経過とともに、組織には一定の傾向が出てきます。そこに全く育ちの違う組織が入ってくると、拒絶反応を示す場合と「面白い」と感じる場合がある。私は完全に後者でした。

エムケーフーズさんの徹底した固定費削減の経営は、本当に勉強になります。同時に、私たちが70年かけて培ってきた製造ノウハウや販売網も提供できる。

違う性格の組織が相互作用で大きくなっていく、そのダイナミズムは捨てがたい魅力です。

実は私の息子(吉村英毅氏、ミダスキャピタル代表パートナー、株式会社エアトリ創業者)も20歳で起業して、今では100社ぐらいM&Aをやっていると言っています。中国やイギリスの会社とも交渉しているそうで、唖然としますが(笑)、「負けてられるか」という気持ちにもなります。

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