
不動産大手の三菱地所<8802>は2025年6月12日に、英国の不動産ファンド運用会社のPatron Capital Partners(ロンドン)を子会社化することを決めた。
同社ではPatronの買収で、欧州での不動産投資マネジメント事業をさらに強化し、同事業のグローバルプラットフォーム(基盤)の発展を目指すとしている。
不動産投資事業のグローバルプラットフォームに
Patronは、英国をはじめとする欧州各国で、不動産会社などを投資対象とするファンドを運用しており、これまでに17カ国で、200取引、累計900万平方メートルの物件に投資し、2024年12月末時点の運用資産残高は46億ユーロ(約7590億円)に達している。
三菱地所は1986年に英国に進出したあと、2010年に英国のファンド運用会社Europa Capital(ロンドン)を買収し、オフィスビルを中心とした不動産賃貸、開発事業を進めてきた。
不動産投資事業のグローバルプラットフォーム(基盤)の整備を進めており、日本(三菱地所投資顧問、ジャパンリアルエステイトアセットマネジメント)をはじめ、米国(TA Realty)、欧州(Europa Capital)、アジア(MEC Global Partners Asia)で事業を展開している。
Patronを傘下に収めることで、世界各国の機関投資家のグローバルな不動産投資のサポートを強化するとともに、日系投資家を含む投資家層を拡大し、欧州投資マネジメント事業を拡大する計画だ。
Patronに次ぐM&Aも
日本の不動産業界は少子高齢化などの影響で、将来、市場の縮小が見込まれていることもあって、海外展開を強化する企業が少なくない。
三菱地所は2020年に策定した「長期経営計画2030」の中で、成長戦略の一つとして「成長する海外マーケットへの展開」を掲げており、その中で欧州での開発事業の強化と収益基盤の拡充の方針を打ち出していた。
2031年3月期に運用資産残高10兆円の目標を掲げており、Patronの買収で運用資産残高は約6兆8000億円となる。
同社では「不動産投資マネジメント領域でグローバルトッププレーヤーを目指す」としており、Patronに次ぐM&Aの可能性もありそうだ。
マイノリティ出資からM&Aに
これまでの主なM&Aとしては、2008年に住宅分譲事業を手がける藤和不動産と、複合ビル事業のサンシャインシティを子会社化し、翌年の2009年にアウトレット経営のチェルシージャパンを子会社化した。
その後2015年に米国の投資マネジメント事業を展開するTA Realtyを買収したあと、2016年に物流施設運営の東京流通センターを、2018年に老舗ホテルの丸ノ内ホテルと、不動産賃貸会社のアーバンライフを、2022年にレンタルオフィス運営の日本リージャスホールディングスを傘下に収めた。
また2024年に子会社化したエレベーター内の広告事業を手がける「株式会社東京(現 GRAND)」は、三菱地所がマイノリティ出資したあと、2019年に三菱地所と合弁で、プロジェクターを用いてエレベーター内に映像を投影する事業を展開するspacemotionを設立。
さらに2025年4月にspacemotionを吸収合併し、三菱地所のメディア開発室と連携して視聴者や不動産事業者、広告主に有益なメディア・ソリューションを提供している。
三菱地所はスタートアップへの出資に積極的で、2016年から国内外のスタートアップやベンチャーキャピタルなどに対し、2022年までに累計約200億円を出資し、新事業案件の発掘や既存事業とのシナジー創出に取り組んできた。
さらに2022年には社会課題の解決や産業構造の転換など中長期的な社会インパクトの創出に挑むスタートアップに投資するファンド「BRICKS FUND TOKYO by Mitsubishi Estate」をスタート。2027年までの5年間に、国内外のスタートアップに100億円程度の出資を行う計画だ。
三菱地所は、出資したスタートアップの技術やサービスの社会実装を支援し、成長産業の共創を目指すとしており、GRANDのようにマイノリティ出資から始まり、M&Aに発展する可能性もありそうだ
2期連続の増収営業増益に
三菱地所では「超長期視点でのまちづくりと時代を先取りするDNA」「膨大なエンドユーザーとの接点と膨大な不動産への関与」を自社の強みとして分析しており、海外事業の強化のほかにも「強みに磨きをかけさらに強固なものへとする」ための国内既存事業の強化策や、「環境変化や次の時代を見据えた新たなチャレンジを行う」ための新規事業の開拓などを進めている。
現在の事業構成は、全売上高の3分の1ほどを占めるオフィスビルや商業施設、物流施設、ホテル、空港などの開発や賃貸、運営、管理などを行う「コマーシャル不動産事業」と、それぞれ同4分1ほどを占める丸の内オフィスの運営、管理などを行う「丸の内事業」、マンションや戸建て住宅などの建設、販売、賃貸などのほか、ニュータウンの開発、ゴルフ場の経営など行う「住宅事業」が中核。
このほかに、同10%ほどの海外の不動産開発事業、不動産賃貸事業を行う「海外事業」、同5%ほどの建築、土木工事の設計監理、建築工事・内装工事の請負などを行う「設計監理・不動産サービス事業」、同2%強の不動産投資に関する総合的サービスの提供を行う「投資マネジメント事業」などからなる。
2025年3月期の売上高は1兆5798億1200万円(前年度比5.0%増)、営業利益3092億3200万円(同11.0%増)で、2026年3月期は17.1%の増収、5.1%の営業増益と、2期連続の増収営業増益を見込んでいる。

文:M&A Online記者 松本亮一
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