日産がついに「本社ビル」を売却 、過去には電通・JTB・NECも苦渋の決断

日産自動車が横浜駅前に構える本社ビルを売却する。経営再建の一環で、手元資金を厚くして資産効率を高める狙いがある。

大手企業の本社ビルは地域のランドマーク的な役割を併せ持つだけに、売却の波紋は小さくない。

コロナ禍の渦中、電通グループ、JTBなどが本社ビルの売却に踏み切ったことが記憶に新しいが、かつては東芝やNECも同様の決断を下している。

日産、ゴーン時代に完成した本社ビルを売却

「グローバル本社」と名付けられた日産本社ビルは地上33階建てで、1~3階には日産車を展示するギャラリーがある。カルロス・ゴーン氏の社長時代の2009年に完成し、東京・銀座にあった本社を創業の地でもある横浜市に移した。

売却先は台湾の自動車部品大手、敏実集団(ミンスグループ)などが出資する特別目的会社(SPC)。土地と建物の売却金額は970億円で、2026年3月期決算で739億円の特別利益を計上する予定だ。

売却後は「セールスアンドリースバック」方式に基づく20年間の賃貸契約を結び、本社として引き続き使用する。

日産は2025年3月期に6708億円の最終赤字(前の期は4266億円の黒字)に陥った。最終赤字幅は前回の経営危機時の2000年3月期6843億円、コロナ禍の2020年3月期6712億円に次ぐ過去3番目。稼ぎ柱だった北米や中国での販売不振が響き、業績が急降下した。

これを受け、日産は国内外で7工場の閉鎖と2万人規模の削減を柱とする再建計画を発表。本社ビル売却もリストラ費用の確保に向けた方策の一つとして検討されてきた。

電通グループ、JTB…コロナが決定打に

約3年半に及んだコロナ禍の最中の2021年、3000億円規模の巨額売却で注目されたのが電通グループだ。

東京・東新橋の旧汐留貨物駅跡地の一角にそびえる電通本社ビル(2002年に完成)は地上48階建てで、ブーメランを思わせる独特の形状が人目を引く。

本社は移転せず、賃貸での利用に切り替えた。

本社ビルの売却に踏み切った理由は業績悪化。直前の2020年12月期決算は2年連続の最終赤字となり、赤字幅も1522億円と前期の2倍近くに膨らんだ。コロナの影響拡大で国内外の広告事業が大幅に落ち込んだためだ。

日産がついに「本社ビル」を売却 、過去には電通・JTB・NECも苦渋の決断
電通グループが本社を置くビル(東京・東新橋)

JTBも同じ頃、東京・天王洲にある20階建て本社ビルの売却に追い込まれ、自前から賃貸での利用に移行した。コロナの逆風で旅行需要が消失。2021年3月期決算はそれまで1兆3000億円近かった売上高が7割減の3700億円まで激減し、最終赤字も1000億円に達した。

さらにJTBは当時23億円余りだった資本金を「中小企業扱い」で優遇措置が受けられる1億円に減資。資本金は今も1億円のままとしている。

HIS、本社社屋の所有権を買い戻し

昨年10月、コロナで手放した本社社屋を買い戻したのはエイチ・アイ・エス(HIS)。旅行需要回復による業績好転を受け、三井住友ファイナンス&リースの傘下企業に2021年9月に譲渡した「東京ワールドゲート 神谷町トラストタワー」(東京・虎ノ門)の4、5階部分の信託受託権を325億円で買い戻した。ビル1棟丸ごとではないが、本社フロアの所有権を再び自社のものとしたのだ。

音楽・映像大手のエイベックスは東京・南青山の18階建て本社ビルを売却したうえで、同じ港区内の別のテナントビルに移転した。

人流制限でライブ・イベントの開催自粛を余儀なくされ、業績が急速に悪化。2017年に完成して日が浅かった本社ビルの売却という苦渋の選択を下した。旧本社ビルには人材サービス大手のパソナグループが丸ごと入居した。

東芝、NECもかつて売却で窮地をしのぐ

大手企業による本社ビルの売却は決して珍しいことではない。古くは電機大手の東芝、NECが知られる。

経営の屋台骨が揺らぐ東芝が再起を期して株式を非公開化(東証プライム上場を廃止)したのは2023年12月。昨年8月には都内から川崎市に本社を移転した。

それまで本社を置いていた東京・芝浦のビルは40階建ての「浜松町ビルディング」。元々の名称は「東芝ビルディング」で、東芝本社として1984年に完成したが、リーマンショック後の経営悪化に伴い、2008年に同ビルを所有する不動産子会社を約1500億円で売却。以降、東芝が最大テナントとなっていた。

東京・三田にそびえるNECの本社は上に行くほど細くなる3層形状の43階建てで、「ロケットビル」の異名を持つ。だが、完成から10年後の2000年に約900億円で手放した。

米国企業をめぐる大型買収の失敗や防衛庁関連の水増し請求事件などに端を発する経営の混乱が根底にあった。

日産がついに「本社ビル」を売却 、過去には電通・JTB・NECも苦渋の決断
「ロケットビル」の異名を持つNEC本社(東京・三田)

本社ビルの売却ではないが、同じ電機大手の富士通は昨年9月、東京・東新橋の超高層ビルにあった本社を、元々、登記上の「本店」である川崎工場(テクノロジーパークに改称。川崎市)に移している。

文:M&A Online

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