
注文住宅大手の住友林業<1911>が、長期ビジョン「Mission TREEING 2030」の最終年に当たる2030年12月期の経常利益目標を1000億円多い3500億円に引き上げた。
中期経営計画 「Mission TREEING 2030 Phase 1」(2022年12月期~2024年12月期)最終年の2024年12月期の経常利益が当初計画を大きく上回り、次の経営計画「Mission TREEING 2030 Phase 2」(2025年12月期~2027年12月期)の経常利益目標を高めに設定したためで、2027年12月期の目標達成に向け早くも2件のM&Aに踏み切るなど施策が進んでいる。
すでに2件のM&Aを実施
「Mission TREEING 2030 Phase 1」では、2024年12月期に経常利益1730億円を見込んでいたが、実績は1980億円となり、目標を250億円上回った。
米国のフロリダ州で戸建分譲住宅事業を展開するBiscayne Homesの事業を譲り受けたほか、オーストラリアでも同国最大手の住宅会社Metriconグループを買収したことなどから、2024年12月期の売上高が目標を2837億円上回る2兆537億円と大きく伸びたのが要因だ。
米国では2030年までに年間2万3000戸の住宅供給を目標に掲げており、今後も新規M&Aも視野に入れ、同州での供給戸数を現在の年間約700戸から同5000戸体制に拡大するとしている。
一方、オーストラリアではMetriconの子会社化で、住宅着工戸数は年間7000戸以上の規模となり、オーストラリア国内で1位相当になるという。
この他にも「Mission TREEING 2030 Phase 1」の期間中には、住宅メーカー向けにコンポーネント事業を展開する米国Structuralの子会社化、戸建賃貸住宅事業の米国Southern Impression Homesの子会社化、集合住宅開発の米国JPIグループの子会社化などのM&Aを実施したことなども、2024年12月期の売り上げ、経常利益がともに目標を大きく上回る結果に結びついた。
こうした状況を踏まえ2027年12月期は、売上高3兆2200億円(2024年12月期比56.7%増)、経常利益2800億円(同41.4%増)と高めの目標を設定したのに伴い、2030年12月期については経常利益目標を当初の2500億円から3500億円に引き上げた。
2027年12月期については、目標達成に向けすでに2件のM&Aを実施した。1件は賃貸マンション開発で土地の仕入れから開発、賃貸サポート、販売までの一貫体制に強みを持つLeTech<3497>の子会社化で、同社を傘下に取り込むことで賃貸住宅の事業拡大につなげる。
もう1件は、製材業と構造用製材などの木材製材品の販売を手がける米国のTeal Jones Louisiana Holdings(ルイジアナ州)の子会社化で、同社を傘下に収めることで、米国で展開している住宅、不動産事業への安定した資材供給体制を整える。
海外事業などが全社の60%ほどに
住友林業は、1691年に開坑した別子銅山(愛媛県新居浜市)で銅の製錬に必要な薪炭用の木材や、坑道の坑木、採掘・製錬従事者用住宅の建築用木材などを調達する「銅山備林」の経営がスタート。
1955年に四国林業と東邦農林が合併し住友林業となり、1964年に分譲住宅事業に進出、1975年に本格的に木造注文住宅事業に乗り出した。
海外の住宅や不動産事業は、2003年の米国シアトルでの分譲住宅の販売事業が始まりで、2008年にオーストラリアで住宅事業に進出、2016年にはニュージーランドで山林を取得した。
また事業の多角を目的に、2007年に介護事業に参入したほか、2011年には木質バイオマス発電事業を始めた。
自社で森林を保有し、植林、伐採、流通、加工、住宅建築までを一貫して行う体制を持つのが同社の強みで、現在は、建築・不動産事業(海外の分譲住宅などの販売、戸建住宅の建築工事の請負、国内の中大規模建築工事の請負など)が事業の柱となっており、全社売り上げの60%ほどを占める。
このほか住宅事業(国内の戸建住宅、集合住宅などの建築工事の請負、分譲住宅の販売、不動産の賃貸、管理など)が全社売り上げの25%ほどを、木材建材事業(木材、建材の仕入、製造、加工、販売など)が同12%ほどを占める。
さらに資源環境事業(再生可能エネルギー事業、森林資源事業など)と、その他事業(有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅の運営事業など)はそれぞれ全社売上高の1%強の構成となっている。

続く海外企業の買収
日本の戸建て住宅市場は人口の減少により新築住宅の需要が減少傾向にあり、木材などの原材料価格や人件費の高騰、さらには人手不足などの課題を抱えている。
矢野経済研究所が2025年4月に発表した戸建住宅市場に関する調査によると、2030年度の新設戸建住宅着工戸数は2023年度比約1割減の32万1000戸の見込み。
同研究所では人口の減少に加えて、建設費や住宅ローン金利が上昇傾向にあるため、新設戸建住宅着工戸数は減少傾向で推移するとしている。
このため、住宅業界では医療介護施設や高齢者住宅などへの事業領域の拡大や、リフォーム事業の強化、海外事業の拡充などの動きが見られる。
そうした状況の中、住友林業はオーストラリアと米国の住宅市場を重要な市場と捉えて、事業拡大に力を入れている。
オーストラリアの住宅市場は、移民による人口増加などで安定した成長が続いており、同社が木造住宅事業で培ってきた生産効率の向上、コスト削減、デザイン性の向上といった経験と知見を、住宅の大半が木造であるオーストラリアの住宅市場で活かせると判断した。
米国では、住宅ローン金利が高水準で推移しており住宅販売は低迷しているものの、移民などによる人口増加やリーマンショック後の建設不況の影響などによって供給不足が生じており、住宅に対する潜在的な需要は強く、成長の可能性が高いと見る。
また住友林業をはじめとする日本の住宅は耐震性や耐久性をはじめ高断熱、高気密住宅などのエネルギー効率の面でも優れているほか、現地企業の買収などで、現地の気候や文化などに合った住宅を供給していることなどが強みとなっている。
住友林業による海外企業の買収に、ブレーキがかかることはなさそうだ。
関連記事はこちら
・事業規模を7倍に「住友林業」米フロリダで住宅事業を譲受
・「積水化学」首都圏の狭小地住宅で攻勢 ベンハウス買収で
文:M&A Online記者 松本亮一
【M&A Online 無料会員登録のご案内】
6000本超のM&A関連コラム読み放題!! M&Aデータベースが使い放題!!
登録無料、会員登録はここをクリック