マレリ買収で注目のマザーサンとは?インド部品大手のM&A戦略

マザーサン・グループのインド自動車部品大手、Samvardhana Motherson International Limited(SAMIL)は、経営再建中のマレリホールディングス(旧カルソニックカンセイ)の買収に向けて動き出した。マザーサンは、米投資ファンドのKKRが保有するマレリの株式と、みずほ銀行や国際協力銀行(JBIC)、海外ファンドなど約10社が保有するすべての債権の買い取りを調整しているという。

マザーサンとは、どのような企業なのか?

住友電装との合弁で飛躍、M&Aでグローバル展開

マザーサン・グループは、1975年にヴィヴェク・チャンド・セーガル会長によって設立され、1977年に最初のワイヤーハーネス工場を稼働させた。1986年には住友電装と合弁で「Motherson Sumi Systems Limited(MSSL)」を設立し、これが大きな転機となる。これにより、日本の自動車メーカーとの取引が実現し、日本の高い品質技術も導入されたことで、成長著しいインド自動車市場で競争力を大きく高めた。

1993年にはインド証券取引所に上場し、資金調達力を強化。業績の拡大とともにM&Aを積極化させ、2009年には英国のヴィジオコープ(Visiocorp)のミラー事業、2011年にはドイツのペグフォーム(Peguform)の内装樹脂部品・モジュール事業を買収し、欧州市場へ本格進出した。2023年の主な取引先には、メルセデス・ベンツ(売上比率11%)、アウディ(同9%)、フォルクスワーゲン(同)など、欧州の主要自動車メーカーが名を連ねる。

グループ再編で効率化を推進

マザーサンは2022年、グローバル展開の効率化を目的にグループ再編を実施。自動車部品関連事業をSAMILに集約し、海外事業はオランダの完全子会社であるSamvardhana Motherson Automotive Systems Group B.V.(SMRP BV)が担当する体制とした。

一方、インド国内のワイヤーハーネス事業は、住友電装との合弁で設立された「Motherson Sumi Wiring India Limited(MSWIL)」が担い、国内外での明確な棲み分けにより、効率的な事業運営を目指している。

「M&A巧者」としての強み

多額の資金を要するM&Aを、過去20年間で43件実施してきたマザーサンだが、2024年の売上高は前期比25%増の9,869億インドルピーと好調を維持。企業の有利子負債を本業のキャッシュフロー(EBITDA)で割った「純有利子負債/EBITDA比率」は長年1.5倍前後で推移し、2024年3月期は1.4倍だった。

業種や企業規模により異なるものの、一般的に7~10倍程度が健全な目安とされていることを踏まえると、買収先企業の多くが高収益を上げていることがうかがえる。これは、同社が「M&A巧者」であることの証左だ。

すでにマザーサンの製造拠点は世界44カ国に拡大しており、自動車メーカーのグローバルなニーズに迅速に対応できる体制を構築。M&Aを通じたグローバル展開のみならず、製品ポートフォリオの分散も進めている。

同社は、特定の国・顧客・製品のいずれも売上の10%を超えないことを目指す「3CX10戦略」を掲げ、国・顧客・製品のリスク分散を徹底している。現在は、モジュール&ポリマー(売上高比率43%)、ワイヤーハーネス(同27%)、ビジョンシステム(同17%)、新興ビジネス(同7%)、統合アッセンブリー(同6%)の5部門を柱に、M&Aによる多角化を推進している。

日本市場への進出を加速

SAMILは近年、日本のサプライヤーへの関心を強めている。2023年にはホンダ系の八千代工業から燃料タンク・サンルーフ事業を、市光工業からミラー事業を買収し、日本の自動車メーカーとの取引を拡大した。マレリの買収が成功すれば、日本の自動車部品業界における存在感はさらに高まるだろう。

仮に買収が成立しなくても、再編を模索する国産サプライヤーは少なくなく、自動車メーカーによる「救済」の打診を含め、買収案件は今後も続くとみられる。いまや、インド企業が“買い手”として日本の自動車部品業界に参入する時代となった。

世界の自動車部品業界で「台風の目」として注目されるマザーサン。トランプ政権下の関税政策で混乱が続く自動車業界とサプライヤーを相手に、どのような「再編地図」を描くのだろうか?

文:糸永正行編集委員

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