米プロバスケットボール(NBA)の名門ロサンゼルス・レイカーズが、米大リーグ(MLB)のロサンゼルス・ドジャースを所有するマーク・ウォルター氏に推定100億ドル(約1兆4600億円)で売却されることが2025年6月に明らかとなった。日本においても、プロバスケットボールチームの買収事例は近年増加傾向にある。
日米で「段違い」のチーム買収額
NBAでは2025年5月にボストン・セルティックスが61億ドル(約8900億円)で買収され、過去最高と話題になったばかり。その翌月に大幅な記録更新となった。NBAにおけるチームの評価額は急激に上昇している。入場料や放映権、スポンサー契約、グローバル展開、グッズ販売のいずれにおいても、NBAはグローバルでの収益モデルを確立しており、それが高い評価額に結びついている。
一方、日本のプロバスケットボールリーグ「B.LEAGUE」(Bリーグ)におけるチーム買収は、金額面で極めて少額だ。Bリーグチームの買収金額は、ほとんど非公開だ。公表された事例では、2017年にDeNAが東芝男子バスケットボール部を母体とする川崎ブレイブサンダースを買収した際の300万円だ。
ただし、これはチームのオーナー企業だった東芝が不正会計問題や米原子力子会社ウェスティングハウスの巨額損失などで経営危機に陥っていた状況下での売却であり、クラブの収益性やブランド価値は反映されていないことに留意すべきだ。Bリーグのチーム買収相場は数千万円から数億円とも言われるが、定かではない。
とはいえ、NBAとは比べ物にならないほど安いのは確かだ。なぜ、ここまで買収金額の差がつくのか。
市場規模と収益構造の差が大きい。
最大の要因は、市場規模だ。2025年に発表されたNBAの2023~2024年シーズンの総収入は113億ドル(約1兆6500億円)だったのに対し、Bリーグの同シーズンの総収入は552億円。市場規模はおよそ30分の1に留まる。
さらには収益構造の違いもある。米PE(プライベート・エクイティ)ファンドのSports Acquisition Capital, LLCによると、NBAでは放映権収入が総収入の54%を占めているという。2025~26年シーズンは、海外を除く米国内向けだけで69億ドル(約1兆円)の放送権収入を得る契約だ。
一方、Bリーグでは、スポンサー収入(約301億円)と入場料収入(約108億円)が主要な収入源で、放映権収入を含む「その他」(約142億円)全体でも25.8%を占めるに過ぎない。もちろん放送権収入に限ると、その割合はさらに少なくなる。
放映権ビジネスの差は、クラブの事業価値にも直結する。一般に放送権ビジネスではクラブ側の直接投資が不要なだけに、入場料やグッズ販売などと比べて利益率が高い。さらに放送で露出度が増せば、PR効果を期待してスポンサーの獲得にもつながる。
NBAのように、国際市場を含む巨大な視聴者ベースを持ち、メディアとの巨額契約を締結している場合、将来の収益見通しが明るく、買収価格も跳ね上がる。一方、日本では視聴者層が限定的で、企業がクラブを買収しても大きなリターンを見込むのは難しい。
「高ブランド価値」の米国と「地域密着」の日本
NBAのクラブはグローバルブランドとしての価値も高く、レイカーズのレブロン・ジェームズやゴールデンステート・ウォリアーズのステフィン・カリーといったスター選手を擁するチームは、海外市場でも高い認知度とマーケティング効果を持つ。
これに対して、Bリーグは「地域密着」型のビジネスモデルであり、クラブの経営も地元企業や地方自治体との連携が重視される。結果として、クラブが生み出すキャッシュフローは限定的で、企業価値を高めるには長期的な地域貢献やCSR活動の側面が強くなる。買収は事業拡大というより、地域貢献やブランディングの一環として行われることが多い。
ただし、Bリーグも急速に成長を遂げている。2022~23シーズンの営業収入は約415億円だったが、翌2023~24シーズンには約552億円と33.0%成長し、観客動員も452万人と過去最多を記録した。2026年からの新リーグ構想(Bプレミア)の実現に向けて、各クラブの財務基盤やガバナンス強化が進んでいる。
今後、放映権や海外展開、デジタル戦略が成功すれば、Bリーグのクラブ評価額も上昇し、買収金額にも反映されていくだろう。現時点では、日米間に大きな格差が存在するものの、その距離が縮まる可能性は十分にある。
文:糸永正行編集委員
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