
初共演は16年前。以来親交を深めてきた堤真一と中村倫也が、初めて一対一で舞台で向き合う。
先輩後輩というより親子のようなイメージで
──稽古が始まって3週間ほどが過ぎました。どんな手応えを感じておられますか。
中村 もうそんなに経つんですね。場面転換の段取りも多いのでちょっとずつ進んで、今ちょうど2周目に入ったところですけど、手応え、どうですか?
堤 どうだろう。場面数が多くてそれぞれが短いので、つながってみて初めてわかるような気がするし。とにかく段取りが多いので、ひとつずつ整理しつつやっていると、「これ意外と本番までもう時間ないぞ」と思ってきた。焦りはしてないけれども。
中村 でも、面白くなるんじゃないかなと思ってはいます。もともと初めて台本を読んだときから「いい作品だな」と思っていて。最初に思った通り本に力があるので、いかに無駄なことをせず、余計なことをせず、必要なところは“日本ナイズド”して、日本のお客様が親身に感じられるように、というところを今はやっている感じですね。

──その日本ナイズドに必要なのはどんなことなんでしょう。
中村 そこまで大げさに決めたわけではなく、ちょっとしたニュアンスなんですけど。
堤 翻訳劇はやっぱり言葉とか習慣の違いがあるからしょうがないんですよね。たとえば、たたりを避ける魔除けのまじないの儀式をするシーンがあるんですけど、そういうのは日本のお客様にはわからないと思うし。日本でも劇場に入って神棚に柏手を打つ人もいればしない人もいるし。ロバートとジョンの先輩・後輩の上下関係についても、日本だったら先輩には丁寧な言葉遣いをするもので、わざと無礼な言葉にするところなんかは失礼すぎないかと思うけど、本来の英語のセリフではどういうニュアンスになっているのかとか、一つひとつチェックしながらやっていて。それで、「じゃあ言い方を変えよう」となることもあれば、「このままでいったほうがいいか」となる場合もあるということですね。

──ロバートとジョンの上下関係でいくと、「ここで先輩のロバートはジョンにマウントを取っているのか?」とか、「後輩のジョンのこのセリフはロバートへのお世辞なのか?」とか、台本を読むだけではわからないところが多々あったので、どう演じられるのか、興味津々です。
中村 それこそ、どこまで日本ナイズドするかにつながるところなんですけど、僕個人的には、そのニュアンスをわかりやすくやろうとするほど、この作品はつまらなくなる気がしていて。もちろん先輩・後輩の関係でスタートするんですけど、途中でロバートが「親子のようだと言えなくもない」というようなセリフも言うので、そっちの親子のラインを重視したほうが面白い気はしているんですね。親子って、親が子に教え、子が親の背中を見て育ちますけど、あるときから子どもは親も人間だということに気づいて、親の人としての弱さも見えるようになるもので。さらには子のほうが親の生きる目的を作ってあげたり、もっといくと介護をしたり看取ったりということになっていくわけですから。
堤 そもそも人間って、同じ行動でもそれをどういう思いでやっているのか真意が違ったりするから、ロバートがジョンに対してやっていることも、悪意があるのか親切でやっているのか、観る方が「あれは絶対ロバートがジョンにいけずしてる」と思えばそれでいいし。そこをはっきりさせすぎると、後半の物語が活きてこないと思うんですよね。ま、ロバートはどこかにジョンへの嫉妬があるだろうけど、その行動の発端が嫉妬だとしても、自分ではそうじゃないと思おうとするのが人間だし。そのあたりの人間的な部分がロバートにはあるので。先輩であるロバートのほうが自分のやっていることが見えてなくて、むしろ、若いジョンのほうが客観的に見ているのかなという気はするんですよね。

中村 最初はジョンもロバートのことを、人とは違う哲学を持っていて学びがあるなと思って見ているでしょうし。ロバートの変なところもどこかわかっていて面白がっている節もあると思うんですよね。でもそれがだんだんと、それこそ親子のように鬱陶しくなってきたり、だけど深いところで大切に思っていることに気づいたり、そういういろいろなものを経ていく時間のような気がします。
堤 ロバートのほうはやっぱり、ジョンの才能は絶対的に自分と違うということを感じるんですよね。そして、それを応援するとともに、自分ももっと売れたいと変な対抗意識を持ったりする。歳を取っても。
自分の芝居で相手をみせる、二人芝居の難しさ
──ちなみに堤さんは、‘97年のこの作品の日本初演でジョンを演じられています。そのときロバート役だったのが石橋蓮司さん。今ご自分がロバートを演じられていて、当時の石橋さんのことを思い出したりされますか。

堤 蓮司さんの姿はすごく思い出します。自分が何をやっていたのか、どうやって場面転換してたのか、まったく覚えていないんですけど(笑)、蓮司さんのことは覚えているんですよ。でも、蓮司さんは立っているだけで面白い人なので自分は同じようにはできないですし。やっぱり自分なりのものを作っていかないといけないので記憶を払拭しようとはしています。ただ、セリフを覚えながらやっている段階だとどうしても前のイメージが出てくるんですよね。セリフが自分の中に入って倫也とちゃんと交わせるようになると全部消えると思うので、早くそこへいきたいです。
──二人芝居だから覚えなければいけないセリフも多くて大変ですよね。

堤 もっと長ゼリフの多い二人芝居もやってきましたけど、これはそれより疲れるんですよね。脳が疲れるんです。
中村 僕は聞き疲れしてます。ロバートが言っていることを理解しようとしてると、疲れるんです。
堤 一つひとつのセリフは短いけど、そこにいろんなことが含まれてるからね。だから言うほうも疲れるのかな。
中村 あと、芝居ってやっぱり、どう反応するか、どうセリフを言うか、どういう目線を送るか、ということで相手を紹介するところがあると思うんです。自分の芝居の仕方でその人の見え方が変わってくる。とくにこの劇の前半は、ジョンの反応の仕方で観る人もロバートの扱い方を学んでいくみたいなところがあると思うので(笑)。だから、自分のセリフを覚えるとか自分の役をどうするかということもありますけど、ロバートがどう見えるだろうということにアンテナを張っていることに疲れてますね。しかも、人数の多い芝居だと、もっと多角的にいろんな線が飛び交うことでその人が見えてくるんですけど、二人の間の一本の線だけでそれをやるしかない。

──中村さんはこれが初の二人芝居ですね。
中村 だから、やる前は、単純に二人しかいないとか、ずっと舞台に出ているということで気が抜けないのかなと思っていたんですけど、そうじゃない。
──そんなふうに二人で濃いやりとりをしていて、改めてお互いをどんな役者さんだと思われていますか。
堤 今の話からもわかるようにやっぱり頭が良いんですよね。昔からそうでしたけど、その場面で何を見せるべきか、何が重要なのかということがよくわかっている。だから教わることがあるし。今の話を聞いても、ロバートがどう見えるかをジョンがやってくれるんだから、俺、もっと勝手にやっていいのかなと思った(笑)。
中村 ハハハハハ!
堤 それだけこっちを見ていろいろ考えてくれてるんだから、逆にこっちは何も考えないでいいのかなと。たまに、これ独り言かもしれないと思う長ゼリフがあって、それを聞かされているジョンはどうリアクションしていいかわからないよね。ロバートみたいな人の扱い方は大変だろうなと思う。でも、倫也がジョンだったら変に気を遣わないでやれるし、どんどん自分のボロが出てきそうです(笑)。
舞台に立つときの“おまじない”は?
──中村さんから見た堤さんの印象は?

中村 こういうことを聞かれると、先輩のことを語るなんてと毎回困ってしまうんです。でもやっぱり、俳優という仕事や、自分の役とかセリフに対して、すごく真摯に向き合っている方だなというのは若い頃にご一緒したときに感じたんですけど、今回も改めてそう思います。
──そのお話を聞いただけでも今回のお二人の芝居が楽しみになりました。最後にひとつ、冒頭で「まじない」とか「神棚」の話が出ましたが、お二人にも舞台に立つときのおまじないみたいなものはありますか。
堤 いろんな人がいるんですよね。何時にトイレに行って何時に食事してと、楽屋に入ってから決めた通りにしないと落ち着かないという人もいるし。僕は毎回違います。たまに子どもが書いてくれた「ととおしごとがんばって」という手紙を鏡前に置いたりしますけど。
中村 本番前にやることもないんですか。
堤 ストレッチくらいかな。
中村 僕は本当に何もしないで、劇場に来て楽屋入って着替えてそのまま袖に行って舞台に出る、というのが理想です。
堤 俺、そんなの絶対無理。
中村 矢沢永吉さんのドキュメンタリーを観たら、バンドが演奏し始めて観客が歓声を上げている中、車から白いスーツで出てきてそのままステージに上がってました。この矢沢さんスタイルが理想。ノンストップで出てノンストップで帰りたい(笑)。たぶんその移動している間にスイッチを切り替えるんでしょうけど、スルスルスル、ヌルヌルヌルとやりたいです。
──そうすると、観客も肩の力を入れずに楽しく観ることができるかもしれませんね。
中村 上手くまとめてくれてありがとうございます(笑)。
堤 いや本当に楽しいと思いますよ。だって僕も、この話を聞いた瞬間に「倫也と二人芝居、楽しそう!」と思って、今本当に楽しいですから。

取材・文:大内弓子 撮影:You Ishii
ヘアメイク:(堤)奥山信次(B.sun)/(中村)Emiy
スタイリスト:(堤)中川原寛(CaNN)/(中村)戸倉祥仁 (holy.)
衣裳:(中村)Tシャツ ¥12,650 ジャケット¥51,700 パンツ¥29,700(全て LAD MUSICIAN/ STUDIO FABWORK)・その他スタイリスト私物
<公演情報>
シス・カンパニー公演
『ライフ・イン・ザ・シアター』
作:デヴィッド・マメット
翻訳:小田島恒志
演出:水田伸生
出演:堤真一 中村倫也
【東京公演】
2025年9月5日(金)~23日(火・祝)
会場:IMM THEATER
【京都公演】
2025年9月27日(土)・28日(日)
会場:京都芸術劇場 春秋座
【愛知公演】
2025年10月4日(土)~6日(月)
会場:穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
【大阪公演】
2025年10月9日(木)~14日(火)
会場:梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
【愛媛公演】
2025年10月17日(金)・18日(土)
会場:愛媛県県民文化会館 サブホール
【宮城公演】
2025年10月25日(土)・26日(日)
会場:多賀城市文化センター 大ホール(多賀城市民会館)
特設サイト:
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