
音楽劇『エノケン』が2025年10月7日(火)から東京・日比谷シアタークリエで上演される。7月29日、東京・東京キネマ倶楽部で製作発表会見が行われ、主演の市村正親が劇中で歌う楽曲を披露したほか、出演者らが意気込みを語った。
戦前・戦中・戦後と、昭和の日本をとびきりの笑いで照らし続け、“エノケン”の愛称で親しまれた榎本健一。

山高帽をかぶった二十歳代の頃のエノケン(写真提供・東京喜劇研究会)
東京・浅草の小さなレビュー劇団の舞台に登場し、わずか数年のうちに、座員150名、オーケストラ25名を擁する日本一大きな劇団「ピエル・ブリヤント(エノケン一座)」の座長となった。当時流行していたジャズと、スピーディーでナンセンスなギャグにあふれたその舞台は、エノケンの天賦の感性と体技、音楽性なくしては実現できない、まったく新しい喜劇だった。晩年は病魔におそわれるなど、過酷な現実に直面したが、不自由な身体をおして舞台に立ち、映画やテレビにも出演して後進の育成にも励んだ。

松竹座時代のエノケン(写真提供・東京喜劇研究会)

晩年のエノケン(写真提供・東京喜劇研究会)
本作は、そんな人生のすべてを喜劇に捧げたエノケンの波乱の人生を、お笑いコンビ「ピース」として活動する一方、2015年に小説『火花』で第153回芥川賞を受賞。芸人として初めての同賞受賞者となり、大きな注目を集めた又吉直樹が新作戯曲として書き下ろす。演出は、俳優としてデビュー後、2011年から劇作・演出を開始。若手演出家コンクールでの受賞や読売演劇大賞・杉村春子賞の受賞歴を持ち、劇団温泉ドラゴンを拠点に幅広く演出を手がけているシライケイタが務める。
脚本を手掛けた又吉は1980年生まれ。「榎本健一のことは伝説として知っているぐらい」だったというが、脚本の執筆にあたって資料や映像に触れ、「年表だけでは分からない生き様というか、芸人としての姿も含めて、どんどん魅了されていきました」と話す。特に惹かれたポイントを問われた又吉は「常人離れした動きというか、表情や声もそうですが、榎本健一さんがそこにいるだけでみんながついつい注目してしまう。誰かと同じことをやったとしても、違うように見えて、好きになってしまう。

脚本を担当した又吉直樹
榎本健一役を主演する市村は、又吉の脚本を読んで「感動しました。いい本ができました」と語り、「又吉さんは十分に責任を果たしたので、この後は僕らが作品を素晴らしいものにして皆さんにお見せしたいと思っています。」

榎本健一役の市村正親
そして「エノケンという喜劇王の役をやることは、僕の俳優人生にとっても非常にいい挑戦になるんじゃないか。舞台は毎回そうですが、新作は特に初日が開くまで戦いの連続です。苦しめば苦しむほど、絶対いい作品になるという持論があります。(又吉さんに)苦しむ材料をいっぱい与えてもらったので、後はシライさんにいっぱい苦しめてもらって......。浅利慶太、蜷川幸雄、シライケイタ。この3人にシゴかれれば、最高にいい舞台ができるのではないかと思っています」などとユーモアを交えて語った。

劇中歌「私の青空」を歌う市村正親
演出のシライは「オファーを受けたときは身が引き締まる思いがしました。演劇界の大先輩方と新しい才能とご一緒できることはワクワクしかありません」と話した上で、脚本の一節を引用し「自分は賢い人が設えるような作品は作りたくない。

演出のシライケイタ
エノケンの前妻・花島喜世子と後妻・榎本よしゑの二役を演じる松雪泰子。オファーを受けた際の心境を「飛び上がって喜びました。こんな素敵な座組に参加できることは本当に嬉しいです」と話す。又吉の脚本についても「時間軸がシームレスに展開していく構造が本当に素敵。その中で我々がどれだけエネルギーを注げるかだなと思いながら読ませていただきました」と感想を述べていた。

花島喜世子・榎本よしゑ 二役を演じる松雪泰子
エノケンの息子である榎本鍈一と、劇団員の田島太一の二役を演じる本田響矢は「父としてのエノケンさんと、大先輩のエノケンさんとふたつの視点からエノケンという大きな人物を見られるのが楽しみです。

榎本鍈一・田島太一(劇団員)二役を演じる本田響矢
脚本家、菊谷榮役の豊原功補は「菊谷という脚本家は酒場でエノケンと知り合って、信頼を得て、座付き作家となるわけですが、その後戦地に向かうんですね。今年はちょうど戦後80年となりますが、喜劇を書くということと、戦争の中にあるという、その狭間の中の人間をどう演じようかなと。又吉さんが素晴らしい本を書かれて、シライさんが演出されて、皆さんと共演する中で責任重大だなと思っています」などと役への思いを語っていた。

菊谷榮役の豊原功補
東京公演はほぼ完売状態だが、この製作発表会見の中で、10月16日(木)18時公演が追加公演として発表された。市村は「すごいですね。まだ稽古していないのに」と笑いつつ、「ありがたいですね。頑張りがいがあります!」と喜びの声。

会見の様子 左から)本田響矢、松雪泰子、市村正親、豊原功補
音楽劇『エノケン』東京公演は10月7日(火)から10月26日(日)まで。大阪公演は11月1日(土)から9日(日) COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール、佐賀公演は11月15日(土)と16日(日) に鳥栖市民文化会館大ホール、愛知公演は11月22日(土)から24日(月・祝) 名古屋文理大学文化フォーラム(稲沢市民会館)大ホール、川越公演は11月28日(金)から30日(日) ウェスタ川越大ホールで上演を予定している。

取材・文・撮影:五月女菜穂
<公演情報>
音楽劇『エノケン』
作:又吉直樹
演出:シライケイタ
キャスト:
市村正親、松雪泰子、本田響矢、小松利昌、斉藤淳、三上市朗、豊原功補
【東京公演】
2025年10月7日(火)~10月26日(日)
会場:日比谷シアタークリエ
【大阪公演】
2025年11月1日(土)~11月9日(日)
会場:COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール
【佐賀公演】
2025年11月15日(土)・16日(日)
会場:鳥栖市民文化会館 大ホール
【愛知公演】
2025年11月22日(土)~24日(月・祝)
会場:名古屋文理大学文化フォーラム(稲沢市民会館)大ホール
【川越公演】
2025年11月28日(金)~30日(日)
会場:ウェスタ川越 大ホール
チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2559082(https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2559082&afid=P66)
公式サイト:
https://enoken-stage.jp/index.html