毎年大人気の尾上右近『研の會』、今年は中村種之助らを迎え意外な演目で開催! 来年の第十回でひと区切りに
左から)中村種之助、尾上右近

華も実力も併せ持つ歌舞伎界の若手人気俳優・尾上右近の自主公演として、毎年話題を呼んでいる「研の會」。「その時々に自分がやりたいことを全力でやっている」(右近)というだけに、毎回歌舞伎の有名作を臆さず選び、情熱をもって取り組んできた本公演。

第九回となる今年は中村種之助と中村亀鶴、さらに新派から春本由香もゲスト出演し、約40年ぶりの上演となる『盲目の弟』と、華やかで楽しい舞踊『弥生の花浅草祭』の2本立てだ。5月18日に行われた記者発表会に足を運んだ。



『盲目の弟』は、『女の一生』や『路傍の石』で知られる小説家・劇作家の山本有三による作品。幼い頃に兄・角蔵(右近)はひょんなことから弟・準吉(種之助)の目を怪我させてしまう。準吉が盲目となったことから、角蔵は「一生弟の杖になって暮らすつもり」で生きるようになり、峠の宿屋で準吉が尺八を吹き、角蔵が客から投げ銭を受け取ることで糊口をしのぐ日々だ。そんなある日、インバネスを着た客(亀鶴)が角蔵に渡した投げ銭の額を偽ったことから、事態はあらぬ方向へと展開して……。



毎年大人気の尾上右近『研の會』、今年は中村種之助らを迎え意外な演目で開催! 来年の第十回でひと区切りに

記者発表会に出席し、演目への思いを語る尾上右近

右近は「種之助さんとは(学年が同じで)“同期の桜”といいますか、子どもの頃から踊りの稽古が一緒だったり、大人になってからも毎日のように食事に行ったり、そういう仲なんです。僕が六代目尾上菊五郎(右近の曽祖父)の写真集でこの作品を知って種之助さんに話した時も、ふたりで松竹の資料室に閉じこもって古い舞台映像を片っ端から観ていた頃だったので、松本白鸚さんと中村吉右衛門さんが演じられた映像(1982年)を観て本当に感動して。種之助さんとも『いつかやりたいね』と話していたので、それが今回実現する形になりました」と本作を選んだ理由を話す。



毎年大人気の尾上右近『研の會』、今年は中村種之助らを迎え意外な演目で開催! 来年の第十回でひと区切りに

尾上右近自主公演 第九回「研の會」記者発表会より、尾上右近

元々は、山本が翻訳したアルトゥル・シュニッツラーの短編小説「盲目のジェロニモとその兄」に感銘を受けた六代目が、山本に依頼して完成したという本作。初演は1930年で、六代目の角蔵と、のちの十四代目守田勘彌の準吉で上演された。この演目を選んだのは六代目を敬愛する右近にとって自然な選択だったということだろう。


「“暗い”お話ではあるのですが、罪悪感によって罪を犯してしまうというのは、ある意味、すごく愛に溢れたお話ではないかと。世間一般での常識から見たらまた違うかもしれないけれど、愛情も正義も基準ひとつではないですから、僕はこれを愛に溢れた物語だと感じたんです」と右近は語る。



毎年大人気の尾上右近『研の會』、今年は中村種之助らを迎え意外な演目で開催! 来年の第十回でひと区切りに

尾上右近自主公演 第九回「研の會」チラシ

抒情性が漂う本作は、新派の作品とも似た味わいだ。宿屋で働くお琴を演じる春本は、その新派に所属。こちらも高校の同級生で、春本の兄は尾上松也ということから家族ぐるみの付き合いなのだとか。
「真由香さん(春本の本名)は5月上旬にお子さんを出産したばかりで、まだ細かいことは話せていませんが、この役はピッタリだなと思ってお願いしました。依頼の電話は臨月の頃だったのですが、即決していただいてありがたい限りです(笑)」と右近。
本作に挑むことについては、「六代目は新しい演劇寄りの作品をたくさん作り出していて、歌舞伎俳優にとって型は大切だけれど、根底にある人間のリアルなお芝居もきちっと出来るべきだと考えていたようなんです。『研の會』では、後で恥ずかしいと思うかもしれないけれど、今やりたいと思うことをやってしまおうということで演目を選んでいます。今回も“世話物”を飛び越えて演劇的な歌舞伎の作品になりますが、六代目が残した作品に素直に取り組んで、人間描写や心情表現というものを探っていきたいです」と意気込んだ。



毎年大人気の尾上右近『研の會』、今年は中村種之助らを迎え意外な演目で開催! 来年の第十回でひと区切りに

約40年ぶりの上演となる『盲目の弟』への思いを語る尾上右近

エネルギッシュな舞踊作品、横尾忠則のポスターにも注目

2本目の『弥生の花浅草祭』は、浅草・三社祭の山車人形が動き出す様子を表す舞踊作品。右近が武内宿禰、悪玉、国侍、獅子の精を、種之助が神功皇后、善玉、通人、獅子の精と、それぞれ4役ずつ早替りで踊り分けるのが見どころだ。


「歌舞伎の伝統的なエネルギー、エンターテインメント性といったものが存分に詰め込まれている作品。こちらはもう観て楽しんでいただける、明るい気持ちになって楽しかったねって言っていただけるような演目ですね」とアピールする右近。
舞踊は互いの呼吸がより重要となるが、「種之助さんとは歌舞伎を抜きにしてもきっと巡り合って、お互いに腹を割れる間柄になっていたんじゃないかなと思うし、そんな彼と一緒に踊れることが嬉しい。彼の汗を見て何を思うかということも活かしつつ、今の自分たちならではの部分を発揮して作っていきたいです」と話した。



毎年大人気の尾上右近『研の會』、今年は中村種之助らを迎え意外な演目で開催! 来年の第十回でひと区切りに

「研の會」について、自身の心境を率直に語る尾上右近

「研の會」は来年の第十回で終わりとなる予定。右近は「最初からそうしようと決めていました」と明かす。
「自主公演というのは自分の想いだけではできないことで、スタッフの支えやお客様がいらしてくださることで成り立つもの。スタッフには『ノンブレスで100メートルを泳いでください』と頼んでいるようなもので、これまで開催できたことを奇跡と感じています。また、12ヶ月のうちの1ヶ月を休んで自分のやりたい作品に挑んできたわけですが、ありがたいことにそれが自主公演だけではなくなってきているのを感じていて……。そういう意味でも、ここでひと区切りをつけたほうがいいのではという風に思っています」と近年の彼を取り巻く状況の変化と、それに伴う自身の心境を率直に語った。



右近に惚れ込み、前々回・前回と恒例になっている横尾忠則のビジュアルポスターは、今回も作成中だ。
「先日、横尾先生に直接お会いしてデザイン案をお話ししてきました。

毎年作っていただくポスターを見ると、自分がどういう風に変化しているのかが分かるんですよ。今回は4月が歌舞伎座の公演でいっぱいいっぱいで5月に入ってからのお願いになってしまったので、横尾先生は『引き受けなきゃよかった』って(笑)。でもお話ししているとどんどんアイデアが出てくるのが楽しくて、『すいません! お願いします!』と深々と頭を下げて承諾していただきました」と右近は茶目っ気たっぷりに話す。
合同取材の後の撮影では、毎年参加しているという三社祭で今朝いただいたばかりという祭半纏を嬉しそうに披露。早速着て「いらっしゃいませ~」と言いながら挑むなど、終始なごやかな雰囲気で行われた記者発表会。「今年もお祭り男でやらせていただきます!」という右近の言葉が頼もしく、ますます本番への期待が高まった。



毎年大人気の尾上右近『研の會』、今年は中村種之助らを迎え意外な演目で開催! 来年の第十回でひと区切りに

「今年もお祭り男でやらせていただきます!」(右近)

取材・文:藤野さくら



★尾上右近さんの歌舞伎愛をたっぷり語ってもらったロングインタビューは こちら(https://lp.p.pia.jp/article/news/418219/index.html)




<公演情報>
尾上右近自主公演 第九回「研の會」



演目:
一、 盲目の弟

角蔵:尾上右近
準吉:中村種之助
お琴:春本由香
インバネスを着た客:中村亀鶴

二、 弥生の花浅草祭

武内宿禰:尾上右近
悪玉:尾上右近
国侍:尾上右近
獅子の精:尾上右近

神功皇后:中村種之助
善玉:中村種之助
通人:中村種之助
獅子の精:中村種之助

【大阪公演】
2025年7月11日(金)・12日(土)
両日とも
昼の部11:00開演/夜の部16:00開演

会場:国立文楽劇場

【東京公演】
2025年7月15日(火)・16日(水)
両日とも
昼の部11:00開演/夜の部16:00開演

会場:浅草公会堂



チケット情報:5月25日(日)より一般発売!
https://w.pia.jp/t/onoeukon/(https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2558870&afid=P66)



尾上右近公式サイト:
https://www.onoeukon.info/



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