今、多くの俳優が海外進出を視野に入れて活動している。その先鞭をつけた一人が、森崎ウィンだ。
以降、森崎にとっても世界で認められるエンターテイナーとなること。その第一歩としてアジアに活躍のフィールドを広げることは、大きな目標だった。
向井康二(Snow Man)とW主演を務める映画『(LOVE SONG)』は、まさにその重要なマイルストーンとなる1作。世界的ヒットを記録した『2gether』のチャンプ・ウィーラチット・トンジラーを監督に迎え、タイ・バンコクにてロケを敢行。日タイ共同制作によって贈る本作は、森崎のこれからのキャリアを占う試金石だ。
ミャンマーにルーツを持つ国際派は、なぜ世界に目を向けたのか。そこには、混じりけのない純度100%の冒険心があった。
タイは、ミャンマーとどこか通じるものがある
2020年。先行きの見えないコロナ禍の不安を吹き飛ばすように巻き起こった世界的なBLドラマブーム。その火付け役となったのが、タイで放送された『2gether』だった。映画『(LOVE SONG)』は、『2gether』の監督を務めたチャンプの日本デビュー作。
「“アジアから世界に”は僕がずっと掲げているモットー。日本とミャンマー以外のアジアの作品に出ていきたいと思っていたので、出演が決まったときからうれしかったし、こうして世界に広めてくださっているスタッフのみなさんには感謝しかないです」
タイは、母国ミャンマーにとっては隣国。森崎にとっても、親しみの深い国だ。
「同じ仏教国ということもあって、目上の人に対する敬い方とか精神性は通じるところがある気がします。ちょっと路地を歩くと似たような雰囲気があって、僕からすると外国って感じがしないんですよね。ナイトマーケットの屋台のごちゃっとした感じもミャンマーと通じるものがあるし、味付けも似ているので、タイ料理は全般的にどれも大好き。同じアジアの仲間として近いものを感じるのか、どこか地元みたいな空気がしました」
タイでは、多くのミャンマー人が生活しており、現地でもタイで暮らすミャンマー人が森崎を発見し、大騒ぎになったそう。
「オフのときにみんなで焼肉に行ったんですけど、そこのスタッフさんがほとんどミャンマー人だったんですね。で、僕を見て、『ウィンだ!』と気づいてくれて。タイのお店なのに、みんなのオーダーをまとめて、なぜか僕がミャンマー語で注文するという面白い経験をしました(笑)」
撮影は日本とタイの合同チームで行われた。
「タイのスタッフのみなさんは感情表現が本当に豊か。日本だと、いいシーンが撮れても『オッケー。良かったよ』ってわりと淡々としているんですけど、タイは僕たちがいいお芝居をすると、監督やスタッフさんがモニターの前で泣いていたり、エキストラの方たちまで『グッド!』って声をかけにきてくれる。最初はびっくりしましたけど、やっぱり気持ちいいですよ。おかげで常にいいテンションで臨めました」
そんなストレートな感情表現は、恋愛観にも表れているのかもしれない。日本の恋愛映画にはないロマンティックなセリフの数々も、日タイ共同制作ならではの見どころだ。
「やっぱり日本は奥ゆかしさが文化のベースにある国だから、『愛している』なんてなかなか言えないし、言うとしてもあえて別の言い方に置き換えたりする。でも、チャンプの書く台詞は詩的で夢があるんですよね。たぶん同じ台詞を日本で言ってたら、ちょっと恥ずかしかったかもしれない(笑)。タイという異国だからこそ口にできた愛の言葉がいっぱいありました」
人生は一度きり。だったら地球を隅々まで見てみたい
森崎は、日頃からアジア進出を目標として公言している。ミャンマーから日本にやってきたというバックボーンが、彼を世界へと駆り立てているのだろうか。そう尋ねると、「日本に来たのは小学4年生のとき。自分の意図したことではなかったから、そこは別かもしれない」と答える。
ならば、あえて世界という高い壁を目指し続ける理由は何か。答えは、拍子抜けするほどシンプルだった。
「単純に、見たことのない景色をもっと見てみたいんです。人生は一度きり。この広い銀河の中で、今のところ生物の存在が確認されているのは地球だけ。だったらこの地球を隅々まで全部見てみたいなって。世界のいろんな景色が見たいし、いろんな人と会ってみたい。もちろん言語や文化という壁はあります。
世界への憧れは10代の頃から胸にあった。でも当時は「もっと漠然としたものだった」と振り返る。
「憧れが明確な目標になったのは、やっぱり『レディ・プレイヤー1』から。夢が叶ったことで、より現実が見えた。また必ずハリウッドに行きたい。そのためにも、まずはアジアに出ることが僕の目標になりました」
海外の夢を忘れそうになったこともあった
だが、一度大きな夢を掴んだあとに、その成功を再現することは、もしかしたら最初に夢を掴んだときより、ずっと難しいのかもしれない。高い壁が、森崎の前に立ちはだかった。
「それからもいろいろとオーディションを受けましたが、なかなかご縁がなくて。どこに行けば次につながるのか、ルートがなかなか見えなかった。特に僕の場合は、ミャンマーでも活動をしていたのですが、クーデターが起きて情勢が不安定になってしまったことで、ミャンマーでのお仕事も難しくなってしまった。ミャンマーのみなさんの前に立つことがモチベーションになっていたから、そこは今もずっともどかしく感じているし。
海外への足がかりを築いた同業者と話をして、引け目を感じたこともあった。「スピルバーグに認められた」という肩書きを重荷に感じることもあった。それでも、森崎ウィンはあきらめなかった。だから今こうして新たな道が開かれた。
「今回、僕に声をかけてくれたのは『レディ・プレイヤー1』のときにキャスティングを担当していた方なんです。やっぱりやってきたことはちゃんとつながっていくんだなと思いました。俳優は、オファーを受けて初めて成立する仕事。呼ばれない限りは、作品が来るかどうかもわからない。でも、一つ一つのお仕事に全力で向き合っていれば、見てくれる人が必ずいる。そう改めて実感できたので、これからも出会いとご縁を大切に、いつチャンスが来ても打席に立てるように準備を怠らずにやっていきたいです」
夢は、大きければ大きいほど、叶えることが難しい。夢なんて見なければ、傷つくことも自分が嫌になることもない。それでも、森崎ウィンは夢を見る。
「夢を見ないと、僕は腐っちゃうので(笑)。だから、死ぬまで夢を見たい。僕は決して明るい人間ではないんですけど、夢を語っている瞬間だけはキラキラしてる。夢を見ることで、生きるエネルギーをもらっているんだと思います。それに、夢を見るのは人間に与えられた特権。だったら、思う存分、夢を見ないと」
未完成の地図に、『(LOVE SONG)』という新たな地点を書き記して、森崎ウィンは次なる荒野を目指す。標識はない。方位磁石もない。それでも、彼は厭わない。なぜなら、地図を完成させることがゴールではないから。一生、未完成の地図を携え冒険し続ける。それが、森崎ウィンという生き方だ。
<作品情報>
『(LOVE SONG)』
10月31日(金) 全国ロードショー
https://movie-lovesong.jp/
©2025『(LOVE SONG)』製作委員会
配給:KADOKAWA
撮影/稲澤朝博、取材・文/福田恵子
ヘアメイク/宇田川恵司、スタイリスト/森田晃嘉

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