【レポート&インタビュー】ミュージカル『十二人の怒れる男』、五戸真理枝が掘り起こす“命”の物語
イッツフォーリーズ公演 ミュージカル『十二人の怒れる男』より

2026年2月6日(金)、東京・浅草九劇にてイッツフォーリーズ公演ミュージカル『十二人の怒れる男』が幕を開けた。作曲家・いずみたくが1977年に創設、ミュージカルを専門に上演し、数多のいずみ作品に取り組んできたイッツフォーリーズだが、今回の公演では、いずみが生前に書いた譜面をミュージカルとして甦らせるという意欲的な取り組みが話題に。

初日前日に実施されたゲネプロを取材、脚本・演出を手がけた五戸真理枝と、陪審員第八号を演じるイッツフォーリーズの神澤直也に話を聞いた。



逃げ場のない空間で、言葉と歌がぶつかる──

数年前に見つかったといういずみたくによる『十二人の怒れる男』の譜面は、1970年代に書かれた、現在は大学に統合された専門学校のためのものだという。今回脚本・演出を担うのは、文学座の五戸真理枝。初のミュージカル演出となるが、独創的なアイデアでユニークな舞台を創り上げる気鋭だけに、独自の切り口による、ミュージカルでしか表現し得ない『十二人の怒れる男』を予感させた。



【レポート&インタビュー】ミュージカル『十二人の怒れる男』、五戸真理枝が掘り起こす“命”の物語

いずみの遺産を受け継ぎつつ、かの台詞劇の名作をミュージカル化するという大仕事にあたり、最も大切にしたことは何かと尋ねると、「原作、かもしれませんね」という五戸。「レジナルド・ローズが何を書きたかったのか、そこを絶対に掴んでおかないと崩れてしまう、と思いました。その読み解きの作業に、一番気を配っていたかもしれません」。



1957年の映画をはじめ、幾度も映像化、舞台化されてきた名作だ。父親殺しの罪で起訴され、有罪の可能性が高いと見られていた少年の裁判で、12人の陪審員のうちのひとりが無罪を主張、事件の再検証を要求する。暑苦しい陪審員室の中で、陪審員たちの偏見や先入観が徐々にむき出しなっていくとともに、ひとり、またひとりと考えを改めていく様子を描く緊迫の密室劇。その密室に、12人の陪審員たちがやってきた。



演じるのは、陪審員長の沢田冬樹(文学座)をはじめ、陪審員番号順に蓮井佑麻、駒田一、納谷健、本田稔弥、おかやまはじめ(劇団ラッパ屋)、佐伯亮、神澤直也(イッツフォーリーズ)、石鍋多加史、森隆二(イッツフォーリーズ)、田上ひろし(SET)、松原剛志



【レポート&インタビュー】ミュージカル『十二人の怒れる男』、五戸真理枝が掘り起こす“命”の物語

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それぞれに強烈な個性をまとう12人だけに、価値観がまるで異なる、さまざまな出自の男たちの激しい台詞の応酬、歌にのせての強い主張のぶつかり合いが、えも言われぬ緊張感を生み出す。

役柄それぞれの考え方、また生き様が、歌で表現されることで増幅、ズンと胸に響いてくる。そこで滲み出てくる意地悪さ、狡さは、どこか身に覚えのあることでもあり、思わず「あっ」と声を出しそうになる瞬間も。音楽監督を担う田中和音(キーボード)と阪本純志(パーカッション)の生演奏と生の声の迫力が、浅草九劇の小さな空間を完全に呑み込む。舞台上の奥には “傍聴席”と名付けられた客席も。閉ざされた暑苦しい陪審員室の生々しいやりとりを、我々全員で覗き見しているような感覚にさせる仕掛けだ。



11対1を動かした構造が、ミュージカルだからこそ可視化される

専門学校の生徒のためにいずみが書いた楽譜は、生徒の人数に合わせて陪審員が8人になっていたり女性が入っていたりと、いろいろな変更やカットがあったという。それを12人の男性に戻す作業をはじめ、いずみの音楽を活かすために、五戸はさまざまなアイデアを取り入れたようだ。強く印象に残るのは、従来は陪審員たちを部屋に案内したり、証拠品を持ってきたりというごく限られた仕事をする守衛役に、より大きな役割を与えていること。守衛役に配されたのは、金村瞳、大川永、杉尾優香の女性トリプルキャスト。陪審員の評決次第で電気椅子送りとなる少年に、より強い光を当てる存在として五戸が新たに生み出し、田中が新たなナンバーを作曲した。「ミュージカルにするには歌にする必要がありますし、歌にするためには、感情がのるような台詞や、感情的に思いが表現されるものがあるほうが面白いと考えました」という五戸。全編を通して、陪審員たちが扱っているのは少年の「命」だということが、しっかりと表現されてゆく。



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そのドラマを動かすのが、神澤が演じる陪審員第八号。

当初からただひとり、少年の無罪を主張した、思慮深く正義感の強い男だ。かの映画ではヘンリー・フォンダが50代で演じただけに、この役柄にしてはかなり若めの印象。神澤自身も、「原作ファンの方はどう思われるか──」と顔をしかめるが、「でも、無理に年を意識することもなく、自分なりの八号でやろうと考えました。年長の方々と対峙することで、いろんなことを吸収できますし、自分も大人になったような気分ですね」と意気込む。そんな神澤のことを、「面白く演じてもらっているなと思っています。実はこの八号も、周りに喧嘩をふっかけて結構酷いことを言っているんです(笑)」と話す五戸。神澤も、「誰もが善人で、悪人のようにも見える。皆、同じ人間なんですよね。極めて普通の人間を、と意識しました」という。



【レポート&インタビュー】ミュージカル『十二人の怒れる男』、五戸真理枝が掘り起こす“命”の物語

見どころ聴きどころは陪審員の数だけあり、対峙する相手が変わればまたさらに違った空気が生まれる。中でも、神澤演じる第八号と、イッツフォーリーズOBでもある駒田演じる第三号とのバトルの激しさは格別だ。「僕がフォーリーズを選んだのは、駒田さんの存在が大きかったんです」と、夢の共演が叶ったことに目を輝かす神澤。

「この作品は、12人の男たちが暑苦しく語って歌う一方で、どこか清々しい感じもある。それぞれのキャラクターの視点で楽しむことができるので、ぜひ一度、二度と観ていただけたら」とアピールした。



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最後にあらためて五戸に本作への思いを聞くと、「今回わかってきたことは、レジナルド・ローズは、社会の中で発言しない人の声をこの 12人の中にたくさん入れている。そんな気がしています。11対1だったものがどうしてひっくり返っていったのかというと、勇気を持って発言した人たちがいたから。今回はその構造をはっきりさせているので、もしかしたら、作者がここに込めていたのではないかなというメッセージが見えるのではないか。ストレートプレイや映画では埋もれがちですが、ここまで歌で強調すると、もしかしたらわかるかもしれない。それをぜひ、観ていただきたいなと思っています」。



『見上げてごらん夜の星を』をはじめ、生きる喜びや清々しさに満ちた楽曲の印象が強いいずみが、なぜ、このヒリつくような密室劇に取り組んだのか。その答えが、見えてくるかもしれない。



取材・文:加藤智子




<公演情報>
イッツフォーリーズ公演
ミュージカル『十二人の怒れる男』



音楽:いずみたく
脚本・演出:五戸真理枝
音楽監督:田中和音
原作:レジナルド・ローズ

【キャスト】
陪審員長:沢田冬樹(文学座)
陪審員第二号:蓮井佑麻
陪審員第三号:駒田一
陪審員第四号:納谷健
陪審員第五号:本田稔弥
陪審員第六号:おかやまはじめ(劇団ラッパ屋)
陪審員第七号:佐伯亮
陪審員第八号:神澤直也(イッツフォーリーズ)
陪審員第九号:石鍋多加史
陪審員第十号:森隆二(イッツフォーリーズ)
陪審員第十一号:田上ひろし(SET)
陪審員第十二号:松原剛志

守衛(トリプルキャスト):杉尾優香、大川永、金村瞳

演奏 田中和音(key.) / 阪本純志(Perc.)

2026年2月6日(金)~15日(日)
会場:東京・浅草九劇



関連リンク

チケット情報:
https://w.pia.jp/t/12men/(https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2539847&afid=P66)



公式サイト:
https://www.allstaff.co.jp/12men/



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