宮城聰、「SHIZUOKAせかい演劇祭2025」プログラム説明 「演劇が不可能と思われていた領域に挑んだ作品」「最も新しい、世界最先端の演劇」
ZOOMで行われた「SHIZUOKAせかい演劇祭2025」プレス発表会より、プログラムを説明する宮城聰(上部左)

「SHIZUOKAせかい演劇祭2025」、「ふじのくに野外芸術フェスタ2025」、ストリートシアターフェス「ストレジシード静岡2025」のプレス発表会が2月27日にオンラインで開催され『〈不可能〉の限りで』、『ラクリマ、涙~オートクチュールの燦めき~』、『ラーマーヤナ物語』など、プログラムについての説明が行われた。



これまで「ふじのくに⇄せかい演劇祭」として静岡県舞台芸術センター(Shizuoka Performing Arts Center : SPAC)によって、毎年ゴールデンウィークに静岡市内の各地で開催されてきたが、SPAC設立30周年を機に、今年から「SHIZUOKAせかい演劇祭」と改称。

開催期間のゴールデンウィークを「PLAY!ウィーク」と称して、「SHIZUOKAせかい演劇祭2025」、「ふじのくに野外芸術フェスタ2025」、「ストレンジシード静岡 2025」を開催し、演劇やダンス、パフォーマンスで静岡を盛り上げる。



「SHIZUOKAせかい演劇祭2025」では、静岡芸術劇場にて日本初演となる2作の海外作品が上演される。



宮城聰、「SHIZUOKAせかい演劇祭2025」プログラム説明 「演劇が不可能と思われていた領域に挑んだ作品」「最も新しい、世界最先端の演劇」

『〈不可能〉の限りで』より

ポルトガル出身のティアゴ・ロドリゲス作・演出による『〈不可能〉の限りで』は、赤十字国際委員会や国境なき医師団のメンバーなどの人道支援者たちへのインタビューを基に生まれた作品。紛争地帯へ命がけで足を踏み入れ、苦しみや暴力に直面しながらも、人間の尊厳に触れる支援者たちの目に映る「世界」を描いており、社会を鋭く切り取った「ドキュメンタリー」が、洗練された舞台美術、力強く情感を伝えるパーカッション、そして俳優たちの声によって叙事詩へと変貌する。今年の8月に、『不可能の限りにおいて』というタイトルで、世田谷パブリックシアターにて生田みゆきの演出によりリーディング公演として上演されることが発表されているが、今回はティアゴ・ロドリゲスの演出によるオリジナル版の上演となる。



SPACの芸術監督を務める宮城聰はこの日の会見で、本作について「きれいごとではない困難とぶつかる現実を演劇で表現するという、演劇が不可能と思われていた領域に挑んだ作品」と評し、日本初演への期待を口にした。



宮城聰、「SHIZUOKAせかい演劇祭2025」プログラム説明 「演劇が不可能と思われていた領域に挑んだ作品」「最も新しい、世界最先端の演劇」

『ラクリマ、涙 ~オートクチュールの燦めき~』より

もう一作の来日公演となる『ラクリマ、涙 ~オートクチュールの燦めき~』は、フランスの国立劇場で唯一の女性芸術監督(ストラスブール国立芸術劇場)であり、フランス演劇界の新たなる旗手として注目を浴びるカロリーヌ・ギエラ・グェンの作・演出による作品。英国王妃のウェディングドレス製作という一大プロジェクトの成就に向け、アランソンのレース工房、インド・ムンバイの刺繍工房の職人たちが苦悩を抱えつつ協働するさまを通じ、オートクチュール業界の秘めたる製作過程を描き出す。宮城は、カロリーヌ・ギエラ・グェンの作品には常に一定数のアマチュア俳優が起用されている点に言及し「波乱万丈のドラマがあるストーリーをあたかもドキュメンタリーであるかのような演技で紡いでいく」と語り「最も新しい、世界最先端の演劇」と評する。



宮城聰、「SHIZUOKAせかい演劇祭2025」プログラム説明 「演劇が不可能と思われていた領域に挑んだ作品」「最も新しい、世界最先端の演劇」

小島章司

この他、ダンスプログラムとして85歳のフラメンコ界のレジェンド・小島章司がムンクの名画「叫び」に触発されて創作した『叫び』がグランシップ 中ホール・大地にて1日限り(5月2日)のスペシャルステージとして上演されるほか、カメルーン生まれのダンサーで振付家のメルラン・ニヤカムがアフリカの神話にもとづく摩訶不思議な世界を踊る『マミ・ワタと大きな瓢箪』が舞台芸術公園 野外劇場「有度」にて上演される。



宮城聰、「SHIZUOKAせかい演劇祭2025」プログラム説明 「演劇が不可能と思われていた領域に挑んだ作品」「最も新しい、世界最先端の演劇」

『マミ・ワタと大きな瓢箪』より

また「ふじのくに野外芸術フェスタ2025」では、駿府城公園の紅葉山庭園前広場に設置される特設会場にて、宮城自身の構成・演出により、古代インド 2大叙事詩のひとつとして知られる『ラーマーヤナ物語』が上演される。



この日の会見で、宮城は現代の日本、そして世界が抱える様々な問題に触れつつ「自分自身が『この先、もっと良くなっていく』、『成長していく』、『更新されていく』という期待を持てない人が増えている」という危機感を口にし、生身の肉体によって観客の目の前で表現される演劇がもたらす“感動”がそうした問題の突破口となるのではないかとの思いを口にした。



宮城聰、「SHIZUOKAせかい演劇祭2025」プログラム説明 「演劇が不可能と思われていた領域に挑んだ作品」「最も新しい、世界最先端の演劇」

『マダム・ボルジア』上演時より。「客席と舞台を組まずに、俳優が広場で乗り込んで、そのまま(上演を)やるような形でやりたい」(宮城)

そうした思いを踏まえて、『ラーマーヤナ物語』の上演では、客席と舞台という垣根を取っ払い「客席と舞台を組まずに、俳優が広場で乗り込んで、そのまま(上演を)やるような形でやりたい」と明かした。



10周年を迎える「ストレンジシード静岡 2025」は5月3日(土・祝) から5日(月・祝) までの日程で開催され、静岡市街地、駿府城公園を中心にそこでしか見られない演劇、ダンス、ストリートシアター作品を上演。徳川家康ゆかりの駿府城公園で、来場者みんなで段ボールを使って天守閣を組み立てるという試み(みんなでダンボール天守閣建築プロジェクト『儚きものの造り手たち』)や、駿府城公園内の発掘調査現場をステージにしたダンスパフォーマンス(『グルーヴィ・グレイヴ』)など、ストリートシアターフェスにふさわしい、観客をも巻き込んでの奇抜な試みが企画されており、今後も続々と新たなプログラムが発表される予定。



宮城は改めて、「ふじのくに⇄せかい演劇祭」から「SHIZUOKAせかい演劇祭」への改称への思いを問われ、大都市・東京だけが世界との接点ではなく「静岡にいても世界につながる」と語り、静岡という地方都市で“世界”を体感できる演劇祭が開催される意義を強調した。



【SHIZUOKAせかい演劇祭2025 上演全ラインナップ】

■『〈不可能〉の限りで〉』※日本初演



ジャンル / 製作国:演劇 / スイス



作・演出:ティアゴ・ロドリゲス



2025年4月26日(土)~4月29日(火・祝)
会場:静岡・静岡芸術劇場



■『ラクリマ、涙 ~オートクチュールの燦めき~』※日本初演



演劇 / フランス



作・演出:カロリーヌ・ギエラ・グェン



2025年5月4日(日・祝)~5月6日(火・休)
会場:静岡・静岡芸術劇場



■『叫び』



ダンス / 日本



作・構成・演出・出演:小島章司
音楽:チクエロ



2025年5月2日(金)
会場:静岡・グランシップ 中ホール・大地



■『マミ・ワタと大きな瓢箪』



ダンス / フランス



演出・振付・出演:メルラン・ニヤカム



2025年4月26日(土)・27日(日)
会場:静岡・舞台芸術公園 野外劇場「有度」



同時開催[ふじのくに野外芸術フェスタ2025静岡]



『ラーマーヤナ物語』※SPAC新作



演劇 / 日本



原作:ヴァールミーキ
構成・演出:宮城聰
作曲:寺内亜矢子/選曲:宮城聰



2025年4月29日(火・祝) ~5月6日(火・休)
会場:静岡・駿府城公園 紅葉山庭園前広場 特設会場



[ストレンジシード静岡2025 コアプログラム]



■『儚きものの造り手たち』



参加型インスタレーション / フランス



演出:オリヴィエ・グロステット



2025年5月
3日(土・祝) 建築
4日(日・祝) 展示
5日(月・祝) 展示・解体



会場:静岡・駿府城公園 富士見芝生広場前



■『グルーヴィ・グレイヴ』



ダンス / 日本



振付:中間アヤカ



2025年5月3日(土・祝) ~5月5日(月・祝)
会場:静岡・駿府城公園 駿府城跡天守台発掘調査現場



■『末待奉祭』



パフォーマンス / 日本



作・演出:大熊隆太郎



2025年5月3日(土・祝) ~5月5日(月・祝)
会場:静岡・常磐公園



◆SHIZUOKAせかい演劇祭2025 特設サイト:
https://festival-shizuoka.jp/



◆ストレンジシード静岡 公式サイト:
https://strangeseed.info/



◆SPAC公式サイト:
https://spac.or.jp/



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