
『孤狼の血』シリーズなどで知られる柚月裕子の警察ミステリー小説を映画化した『朽ちないサクラ』が6月21日(金)、公開される。県警、一般職の広報職員が殺人事件の謎を追う、というストーリー。
『朽ちないサクラ』
県警の広報課に勤務する事務職員が主人公のミステリーときいて、テレビの長時間ドラマなどでよくある、たまたま事件現場に居合わせた作家とかタクシー運転手、天才大学生が、シロウトながらに能力を発揮してしまう探偵系かと想像していたが、ちょっと違う。
杉咲花が演じる森口泉は、一般職採用の職員で、捜査は仕事ではない。実は、やむにやまれぬ事情があり、ある思いに突き動かされるように、強い意思を持って事件を調査することになる。その事情と、彼女の行動力に説得力があるのだ。

ストーカーによる女子大生殺人事件に警察の不祥事がからみ、クレームの電話で広報課はてんやわんやというところが、映画の導入。
女子大生が事前に被害届をだしていたにも関わらず、窓口の生活安全課が慰安旅行に行っていて、被害届の受理が先延ばしにされた不祥事。地元新聞がそれを独占スクープ記事にしたことで発覚したのだが、泉はその記事を親友の新聞記者・津村千佳(森⽥想)が書いたものと疑う。慰安旅行のことをうっかり彼女に話してしまっていたからだ。

ところが、津村は自分が書いたのではない、身の潔白をはらすといい、なかばケンカ別れのようになってしまう。そして1週間後、彼女が変死体で発見される。
自分の不注意がもとで親友が死んでしまった。自責と後悔の念にいたたまれず、犯人逮捕の一助になればと動きだす泉。上司の広報課長・富樫(安田顕)も不本意ながらそれを容認するのだが……。

ここからは、謎解きミステリーと警察サスペンス。ぐいぐいみせてくれる。
重要な要素は、殺人などを捜査する刑事警察と、テロや政治犯罪などを扱う公安警察の対立構造。同じ警察なのに没交渉、仲がよくないといわれる。特に、公安は秘密主義が徹底していて、闇の部分が多い、謎めいた存在だ。

ドラマは、泉を中心に、4人のメインキャラクターで展開していく。
まず、上司の富樫課長(安田顕)、53歳。

捜査一課の刑事・梶山(豊原功補)、53歳。富樫課長とは同期だ。殺人事件の捜査にあたっている。いかにも武闘派風で、「事務職のお嬢ちゃん」とか、「てめぇの職場で事務だけしてろ」と言いはなつパワハラ、セクハラ寸前のキャラだが、その男気が、感動的。

そしてもうひとり、不祥事を起こした部署に所属している、泉のことが好きな磯川俊一、25歳。泉の捜査に協力する、いわばバディ的存在。ドラマ『美しい彼』などで人気に火がついた萩原利久が、初めての刑事役を演じ、自然とこの映画の進行役にもなっている。
そんな名演のなかで、杉咲花はやっぱり、インパクトを放つ。一途で芯のある役を演じたら、いま若手でダントツの女優といっていい。

監督は原廣利。5月公開の『帰ってきた あぶない刑事』につづき、本作が彼の劇場用映画2作目になる。今回もカーチェイスシーンを加えたり、さまざまな演出にチャレンジしているが、特にこだわったのは絵作り。
原監督は「タイトルにある通り“サクラ”がキーワードになってきます。“正義”とは一体何か? それぞれの“正義”が交錯する時に、サクラを魅せることで物語の骨格を表現したい」と語っている。
撮影は昨年の春。愛知県の岡崎、蒲郡周辺で行われ、神社や川などの桜はすべてロケ撮影されたもの。まだ、つぼみのころから始まり、満開で大団円をむかえる。桜吹雪のなか、ある決意をする泉、杉咲花の姿がとても印象的だ。
文=坂口英明(ぴあ編集部)

【ぴあ水先案内から】
中川右介さん(作家、編集者)
「……「真の犯人」を探すミステリとして、よくできている。
中川右介さんの水先案内をもっと見る(https://lp.p.pia.jp/article/pilotage/371509/index.html)
夏目深雪さん(著述、編集業)
「……事件を調べ始める警察の事務職のヒロイン泉を、『市子』の熱演が記憶に新しい杉咲花が好演……」
夏目深雪さんの水先案内をもっと見る(https://lp.p.pia.jp/article/pilotage/371312/index.html)
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