
ミュージカル『エリザベート』の製作発表記者会見が9月18日、都内にて開催された。『エリザベート』は1992年にウィーンで初演されたミュージカルで、日本では1996年に宝塚歌劇団が初演。
会見は、公演の新ビジュアルをエリザベート役の望海、明日海がアンベールするところから始まった。解禁された新ビジュアルを前に、望海は「幕をひっぱりながら、いよいよ始まるんだなと感じました」、明日海は「『エリザベート』という作品は皆さんの中でそれぞれ美しい姿がいっぱいあると思います。そこになるべく近づけられるよう、スタッフの方々と相談して作ったビジュアルなので、無事にお披露目できて良かった」と感想を。
製作発表会見にて、エリザベート役の望海風斗(左)と明日海りお(右)により新ビジュアルがお披露目された
その後、トート役の3名と演出・訳詞の小池修一郎、東宝株式会社専務執行役員演劇本部長である池田篤郎も登壇し会見はスタート。小池は東宝版25周年であることに触れ、「ちょうど25年前、たぶん稽古中の4月か5月に製作発表会見をオーストリア大使館で行いました。その時、デビューの井上芳雄君が初めて皆さまの前にお披露目される形だったのですが、彼はオーストラリア大使館に行ってしまって、現れるかどうか心配させられたということを今思い出しました。……ちゃんと間に合いましたが」と、25年前の驚きのエピソードを披露。これには共演者一同も驚きの声だ。その話を苦笑しながら聞いていた井上は「幸運なことに、オーストラリア大使館とオーストリア大使館は、結構近所にあったんです!」。
「本当に必死」。新エリザベート役の稽古模様と、トート役3人の本音
さて、エリザベート役の望海と明日海はともに元宝塚トップスターであり、ふたりとも東宝版は初出演ながら、宝塚版『エリザベート』へは出演経験がある。とはいえやはり主役のエリザベート役は新鮮なようで、望海は「エリザベート役としてご紹介していただいていることが、数ヵ月前までもちょっと嘘なんじゃないかなと思っていました。今でも不思議な感じがあります」と心境を語る。明日海もまた「私もまだまだ信じられない。とにかく精一杯、それ以上のつもりで挑みたい」と意気込みを話した。
現在の稽古の様子は「稽古場には、この作品にずっと出演されてきた方も多いので、“なぜここはこうなっているのだろう”と思ったことを、小池先生だけでなく、まわりの方からも色々教えていただきながら、各場面を作り上げているところ」(望海)、「稽古は望海と交互にやっていますが、毎回じゃんけんをして、どちらが先にやるかドキドキしながら順番を決めています」(明日海)だそうで、手応えを問われると「手応えを感じている場合じゃない、とにかくやらなきゃという心境。特に2幕は、シーンが変わると年月もだいぶ経っているので、その間にあるものを自分たちで作らなければいけないから、探り中です」(望海)、「私も手応えを感じる間もない、本当に必死。単純に覚えなきゃいけない段取りも多い。また、長年守られてきた“型”のようなところもあって、その中にどう自分がハマっていくか、自分のオリジナリティは何だろうと考えながら稽古をしています」(明日海)と、ふたりとも新しい役に悩みながらぶつかっている最中の模様。
演出で印象に残っていることは「少女期のエリザベート像を、たぶん小池先生は心配されていらっしゃるなというのは感じています(笑)」と望海が言ったところで、小池からは「大丈夫です。ビジュアルもですが、何よりマインドが素晴らしいので」と太鼓判。一方で明日海は「エリザベートのシリアスさ、厚みを出したいのですが、私は先生の目にはどうしてもメルヘンに寄って見えているらしく、そこを気を付けなければと思っています」。
また、宝塚版への出演経験が今回のエリザベート役を演じる上で活きているかを問われると「作品を知った上で参加できているので、あの時の経験があって良かったなと思っています」と望海。対して明日海は「宝塚版と東宝版ではセリフも歌詞も、解釈も違う。まったく違う作品のように感じることもありますし、今まで毎回出ていた(明日海は2005年月組公演、2009年月組公演、2014年花組公演と三度出演している)独立運動やカフェの場面に出ていないことが新鮮で……あまり(過去の出演経験は)役に立っていない(笑)。でも何か使えるところを見つけて取り組んでいきたいです」とのことだった。
新キャストとなったエリザベートに対し、トート役は2015年から続投の井上、2019年より務める古川、前回公演に続いての出演となる山崎と経験者揃い。古川は「僕自身は3回目のトート役ですが、すごく不安です。3度目でも、この役はすごく難しい。ただ、僕はよく寝言を言って、その最中に「今、寝言言ったな」と起きるのですが、今日、人生で初めて寝言で(劇中歌の)『愛と死の輪舞』を歌っていました(笑)。寝ている時も稽古をしているので、きっと大丈夫だと信じています」と話し、井上は「前回(2022-23年)は僕は博多だけの参加だったので、本格的に稽古をするのが久しぶり。どっぷり作品に浸かって稽古をできて嬉しいです。ただ、25年前にも出演していて今もいる出演者は僕だけだったので、恐ろしい。
山崎もまた「僕は今回、地方公演に行かせてもらいます。初日があいてから約2ヵ月後に登板する経験が初めてですごく不安。今までのミュージカル出演の中で、一番緊張しているくらい。とはいえ、僕は2015年にルキーニとして『エリザベート』デビューし、トート役としては2020年の公演から出演予定でしたがこの年はコロナの影響で全公演中止に、改めて2022年にトートデビューしましたが、この公演も途中で中止になってしまいました。自分としてはやり切れていない気持ちがあったので、今回はすべて出し切りたい。また、今年は30代最後の年なので“サンキュー(39)”の気持ちで、皆さんに感謝を届けながら演じたいです」と洒落も交えてアピールした。
個人と社会とのあり方を問い直す物語。『エリザベート』の新たな側面を感じていただければ
さらに演出の小池修一郎は、25年目となる2025年版『エリザベート』について、次のように語る。
「近年、エリザベートを描いた映像作品が、映画『エリザベート1878』とNetflixの『「皇妃エリザベート』と、私の知る限りでも2本作られています。これらが、それまで語られていたシシィ(エリザベート)像と比べリアルと言いますか、少し辛口で暴露趣味的な、あるいは真実味を帯びた作りになっています。
この作品はいま2025年という時に観ると、社会、歴史、世界といったいろいろなものの見方、そして個人と社会、個人と世界の繋がりというものを改めてビビッドに考えさせてくれます。やればやるほどその深みを感じ、皮をめくるように新たなものが出てくる。そしてそれが時代に必ず呼応し、作品の輝きを失わないのだなということを改めて感じています。25周年ですが、古びたものをご覧いただくのではなく、おそらくまた新たな『エリザベート』という作品の進化を皆様に感じていただけるのではないでしょうか。
今この2025年の世界は、本当に分断が進んでいるし、地政学的なリスクも進み、様々な社会問題を抱えている。その中でこの『エリザベート』という作品を見ると、単純にエリザベートという皇后が皇室に馴染めなかったという物語であるだけではなく、そのことを通じ、一個人が社会や世界とどう向かい合っていくのかというテーマの上に成り立った物語だということが改めて見えてきます。この物語のリアリティは、おそらくお客さまも改めて感じられるところだと思います。また、エリザベートを演じるおふたりが女優としてのキャリアを重ねた上で今回臨まれるので、シリアスな側面も非常に浮き上がってくると思う。稽古をしていてもスリリングで面白いし、この作品の新たな側面がまたひとつ見えたなと感じていただけるのでは」。
ほか、井上は「僕はデビューが(東宝版初演の)『エリザベート』ルドルフ役だったので、この作品が25周年ということは、僕もデビュー25周年。今年のルドルフ役の伊藤あさひくんと中桐聖弥くんが、ふたりとも25歳なんです。初演の年に生まれたと知って、一瞬(稽古場から)帰ろうかなと思ったのですが(笑)、本当にこんなに時間が経ったのだなと感じています。しかも僕が初演の時にヒーヒー言いながら歌っていた歌を、おふたりは……ご本人は色々と思うところもあるのかもしれませんが、僕から見たら軽々と歌っているように見える。25年の時間の中で豊かな人材がたくさん生まれてきているんだなと思います」というような話も。
またツアー公演を古川とともに担当する山崎が、各地で楽しみにしていることを問われ「昔は雄大を食事に誘っても断られていたのですが、近年は一緒に行ってくれるようになり、前の舞台ではほぼ毎日一緒に食事をしていました。なので、また一緒にご飯に行きたい」と話し、「ただ前回の舞台の時は毎回、僕が支払いをしていた。雄大は財布を出して払うフリはするんだけれど、僕の「いいよ」を待っている(笑)。今回は雄大にご馳走してもらいたい!」と話すなど、お互いの関係性が垣間見えるエピソードも会見では語られた。
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充実のキャストで贈る25年目の『エリザベート』、さらなる進化と深化を期待しよう。
取材・文・撮影:平野祥恵
<公演情報>
ミュージカル『エリザベート』
脚本/歌詞:ミヒャエル・クンツェ
音楽/編曲:シルヴェスター・リーヴァイ
演出/訳詞:小池修一郎(宝塚歌劇団)
【出演】
エリザベート(Wキャスト):望海風斗/明日海りお
トート(トリプルキャスト):古川雄大/井上芳雄(東京公演のみ)/山崎育三郎(北海道・大阪・福岡公演のみ)
フランツ・ヨーゼフ(Wキャスト):田代万里生/佐藤隆紀
ルドルフ(Wキャスト):伊藤あさひ/中桐聖弥
ルドヴィカ/マダム・ヴォルフ:未来優希
ゾフィー(Wキャスト):涼風真世/香寿たつき
ルイジ・ルキーニ(Wキャスト):尾上松也/黒羽麻璃央
マックス:田村雄一
ツェップス:松井工
エルマー:佐々木崇
ジュラ:加藤将
シュテファン:佐々木佑紀
リヒテンシュタイン:福田えり
ヴィンディッシュ:彩花まり
朝隈濯朗 安部誠司 荒木啓佑 奥山寛 後藤晋彦 鈴木大菜 田中秀哉 西尾郁海 福永悠二 港幸樹 村井成仁 横沢健司 渡辺崇人 天野朋子 彩橋みゆ 池谷祐子 石原絵理 希良々うみ 澄風なぎ 原広実 真記子 美麗 安岡千夏 ゆめ真音
トートダンサー:五十嵐耕司 岡崎大樹 澤村亮 鈴木凌平 德市暉尚 中村拳 松平和希 渡辺謙典
Swing:三岳慎之助 傳法谷みずき
少年ルドルフ(トリプルキャスト):加藤叶和/谷慶人/古正悠希也
【東京公演】
2025年10月10日(金)~11月29日(土)
会場:東急シアターオーブ
【北海道公演】
2025年12月9日(火)~18日(木)
会場:札幌文化芸術劇場 hitaru
【大阪公演】
2025年12月29日(月)~2026年1月10日(土)
会場:梅田芸術劇場メインホール
【福岡公演】
2026年1月19日(月)~31日(土)
会場:博多座
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/elisabeth2025/(https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2560811&afid=P66)
公式サイト:
https://www.tohostage.com/elisabeth/