Netflixアニメ映画『あの星に君がいる』監督インタビュー 「夢はいつも二面性がある」

Netflix初の韓国アニメ映画『あの星に君がいる』が30日(金)から配信になる。本作は、夢を追う女性と、夢を失った男性のドラマが繊細なタッチで描かれるが、監督を務めたハン・ジウォンは本作を描く上で“夢の二面性”を重視したという。



脚本と監督を務めたハン・ジウォンは、短編『The Sea on the Day When the Magic Returns』がサンダンス映画祭で評価されるなど、注目を集める若手監督で、韓国の制作会社クライマックス・スタジオがプロダクションを手がけた。



「クライマックス・スタジオはこれまでにもNetflixさんと『D.P. -脱走兵追跡官-』や『地獄が呼んでいる』などを手がけています。私もクライマックス・スタジオでインディーズ・アニメーションをつくったり、広告関連のアニメーションを制作したことがあったので、今回、お声がけをいただいて、企画開発の段階から参加することになったのです」



Netflixアニメ映画『あの星に君がいる』監督インタビュー 「夢はいつも二面性がある」

本作の主人公ナニョンは、幼い頃に母が火星で調査中に事故に巻き込まれ、帰らぬ人になったことから、母のいる場所=火星を目指して宇宙飛行士になるトレーニングを積んでいる。



Netflixアニメ映画『あの星に君がいる』監督インタビュー 「夢はいつも二面性がある」

そんな彼女はある日、音楽の道を諦めて修理屋として働く青年ジェイに出会う。ふたりは少しずつ距離を縮めて惹かれ合うようになるが、地球から遠く離れた場所を目指すナニョンと、捨てたはずの音楽と再会してしまったジェイの気持ちは揺れ動く。



Netflixアニメ映画『あの星に君がいる』監督インタビュー 「夢はいつも二面性がある」

ハン監督がまず最初に考えたのは「女性の登場する物語、宇宙飛行士の登場する物語、そして子供の頃に抱いていた夢を追う人物の物語を描く」ことだったという。



「それから私は個人的に日本のアニメーションが本当に大好きで、『カウボーイビバップ』では宇宙を舞台に、音楽がたくさん登場しますよね。だから私も宇宙が舞台で、音楽が登場して、先ほどいった女性、宇宙飛行士、夢の話を描きたいと企画を立ててみたんです(笑)。スタジオのみなさんにも企画を気に入っていただけたので、開発の過程で主人公の恋愛やロマンスの部分、サイエンスフィクションの要素、キャラクター造形を強化しながら脚本を組み立てていきました」



Netflixアニメ映画『あの星に君がいる』監督インタビュー 「夢はいつも二面性がある」

本作は男女のラブストーリーのように紹介されることも多いが、作品の中心にあるのは、女性の宇宙飛行士ナニョンが子供の頃から夢見ていた火星に向かう物語だ。ナニョンは、幼い頃に失った母を追い求めて火星を目指すが、それは自身の中にある“喪失”と向き合うことでもある。



「それこそが非常に大切なテーマだと私は思っています。私はこれまでも夢というテーマを描き続けてきましたが、私の考える夢はいつも二面性がある気がします。



人間は夢を抱くことで力をもらったり、輝ける部分があります。一方で、人は夢を持つことで、無謀な挑戦をしてしまうこともあると思います。振り返ってみると、夢を持つことになった背景には、子どもの頃の記憶がとても強くあると思うのです。両親に認められたい、とか、自分は疎外されてきたから夢を抱くことで前に進みたい、とか。まず最初に喪失の記憶や、満たされない感情があり、何かが“足りない”から夢を持つ、ということもあると思うのです。



夢は光り輝くものだけではなくて、切ない部分があると私は思っています。ですから私はいつも夢の二面性を重視していますし、夢を描く上では明るい部分だけではなくて、その背景にある“誰かに愛されたい”という想いや、喪失の記憶、疎外された経験から夢が生まれたということも描きたいと考えています」



劇中でナニョンは、火星に行くために努力し、青年ジェイと心を通わせることで満たされていく。しかし、彼女は繰り返し、母の幻影を見る。夢を追って火星に近づくことで、彼女は自身の中にある孤独や悲しみにも向き合うことになるのだ。



Netflixアニメ映画『あの星に君がいる』監督インタビュー 「夢はいつも二面性がある」

ハン監督はキャラクターの葛藤や、内面の描写を実写映画では難しい“アニメーションならではの表現”で描くことにこだわった。



「それこそが私がこの作品で最も強調したい部分です。私はアニメーションが本当に好きで、影響を受けてきました。

私はアニメーションだけが描ける特別な領域があると思っています。



アニメーションは現実を画に置き換えるものですが、その過程でまず何らかの変化が生じます。そこに幻想というものが存在すると思うのです。観客はそれを受け入れつつ、その背景にある現実=リアルも同時に受け入れる。そんな風に現実と幻想が行き来する表現や演出スタイルが私は好きで、自分の中で作品を重ねる中で確立されてきたと思っています。





サンダンス映画祭で上映された短編『The Sea on the Day When the Magic Returns』は、現実の世界で様々なことに悩んでいる女性が主人公で、彼女は自分が魔法を使えると信じこんでいます。しかし、周囲の人はそのことを誰も信じてくれない。そこで私は主人公が魔法を使う場面と、使っていない姿を両方見せたりしながら、現実と幻想を往復する構成にしました。人が夢を見て、その夢が覚めて現実に戻る、そして再び夢に向かおうとする。そんな感情を描くことで、観る人たちの気持ちを盛り上げることができると思ったのです。



Netflixアニメ映画『あの星に君がいる』監督インタビュー 「夢はいつも二面性がある」

本作でもある場面でナニョンが彷徨う場面が出てくるのですが、そのシーンでは彼女の内面の迷いや、葛藤を表現したいと思いました。そこでは現実と幻想が交差します。

それはアニメーションでしか使えない方法だと思いますし、私自身のアニメーション演出におけるアイデンティティだと思っています」



Netflixアニメ映画『あの星に君がいる』監督インタビュー 「夢はいつも二面性がある」

ナニョンもジェイもそれぞれに夢を追い、夢に振り回され、夢を持つことで悲しい過去と向き合う。そんな時、そばにいる人間は相手に何ができるのか? 『あの星に君がいる』は幾重にも層のある豊かなドラマを描き出している。





Netflix映画『あの星に君がいる』
5月30日(金)より独占配信開始

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