愛知県芸術劇場2025年度ラインナップ詳細発表 会見に酒井はな、島地保武ら劇場専属ダンスアーティストが登壇
愛知県芸術劇場ラインナップ2025及び劇場ダンスアーティスト記者会見より、左から)島地保武、酒井はな、唐津絵理、岡田玲奈、黒田勇 (C)HATORI Naoshi

愛知・愛知県芸術劇場にて、「愛知県芸術劇場ラインナップ2025及び劇場ダンスアーティスト記者会見」が実施され、今年度の自主事業の詳細に加え、初の試みとなる劇場専属ダンスアーティストについての説明が行われた。会見には同劇場の芸術監督である唐津絵理と、4月1日に愛知県芸術劇場ダンスアーティストに就任した酒井はな、島地保武、Nullの岡田玲奈、黒田勇が登壇、それぞれの活動への意欲を語った。



観客が未知の世界と出会う開かれた場に

会見の冒頭、「世界への窓、県民の広場という基本理念を掲げ、ダンス、音楽、オペラ、演劇といった多彩なジャンルで国内外の優れた作品をお届けするとともに、新たな創造、普及、そして次世代の育成に取り組んでいます」と、あらためて同劇場の基本方針について述べた唐津。観客が未知の世界と出会う開かれた場でありたいという思いから、自ら企画に深く関わった今年度の主なプロジェクトを紹介した。



愛知県芸術劇場2025年度ラインナップ詳細発表 会見に酒井はな、島地保武ら劇場専属ダンスアーティストが登壇

愛知県芸術劇場 芸術監督(アーティスティックディレクター)の唐津絵理

その役割を象徴する事業のひとつが、海外招聘公演。6月に上演するアクラム・カーン『ジャングル・ブック』は、気候変動や自然破壊といった現代的なテーマを織り込みつつも、純粋なエンターテインメント性と高い芸術性を兼ね備えた作品として注目される。また11月に控えているのは、世界最高峰のダンスカンパニー、ネザーランド・ダンス・シアター(NDT)の公演だ。2024年夏に招聘したNDT1に続き、今回は才能ある若手ダンサーたちが在籍するNDT2が約20年振りに来日。上演作品については唐津自身がオランダに赴き、エミリー・モルナーNDT芸術監督とともに選定、アレクサンダー・エクマン振付『FIT』、マルコス・モラウ振付『Folkå』を含む全3作品が予定されている。



愛知県芸術劇場2025年度ラインナップ詳細発表 会見に酒井はな、島地保武ら劇場専属ダンスアーティストが登壇

アクラム・カーン『ジャングル・ブック』

主な創造発信事業については、3つのプロジェクトを実施する。まずは、チェルフィッチュを主宰し、国際的に活躍する劇作家・演出家である岡田利規と同劇場のコラボレーションによる新作ダンス兼演劇作品『ダンスの審査員のダンス』。唐津自身が統括プロデューサーを務め、9月の愛知での初演後、全国ツアーを行う。岡田は2021年、愛知県芸術劇場にて、今回ダンスアーティストに就任した酒井とともに『瀕死の白鳥 その死の真相』を発表、昨年末には神奈川のDance Base Yokohama(DaBY)で『ジゼルのあらすじ』を上演し、話題に。今回は酒井と島地の参加が予定され、ダンスと演劇の越境をさらに押し進めるという。



DaBYとの連携によるプロジェクト「パフォーミングアーツ・セレクション2025」は10月から11月かけて実施。

小ホール、リハーサル室、メニコンシアターAoiコンサートホールにおいてフェスティバル形式で開催する。酒井らとともに今回愛知県芸術劇場ダンスアーティストに就任した三東瑠璃をはじめ、阿目虎南、岩渕貞太、柿崎麻莉子、スペースノットブランク、高橋萌登ら新進気鋭の5組が新作を発表する。国際芸術祭あいち2025の開催とも重なり、美術館を巡りながら一連のプログラムを楽しむことも可能。



3つめの柱は、若手アーティストの発掘と育成を目指す支援プロジェクト「AICHI NEXT: Performing Arts Project」。既存のジャンルにとらわれない斬新な作品、新しい発想で取り組むパフォーマンスの企画を全国から公募、制作支援を行ったうえで上演の機会を提供する。今年度は敷地理、ハイドロブラストの2組を採択、また愛知県にゆかりのある若手アーティスト4組もチャレンジ枠として選出され、上演の機会が与えられる。



星座のように集い、連携し、創作、発表、交流を行う

唐津はさらに、「これまでも様々な地域連携を行ってきましたが、2025年度はさらにそれを発展、より開かれた劇場を目指します」と発言。ホールの無料開放や見学会の実施、アクセシビリティやハラスメント防止への取り組みの強化、字幕サービスや託児サポートの提供、バリアフリー化のさらなる充実などについても取り組む。500円で気軽に聴ける「ワンコインコンサート」の実施(THE オルガンNIGHT&DAY 2025)や、18歳以下無料の公演数を増やすことにも積極的だ。「舞台芸術は、演じる者と見る者が直接的に交流できる濃密な空間を生み出し、私たちに生きているという実感をもたらしてくれる特別な存在。こうした理念のもと、当劇場は、誰もが気軽に足を運べる場としての公共性と、世界水準の舞台芸術を発信する表現の拠点としての役割を両立させたい」(唐津)。



愛知県芸術劇場2025年度ラインナップ詳細発表 会見に酒井はな、島地保武ら劇場専属ダンスアーティストが登壇

愛知県芸術劇場コンサートホール内のパイプオルガン(提供:愛知芸術文化センター)

世代の違う4組5名のアーティスト

会見の後半、唐津は劇場ダンスアーティストに就任した酒井、島地、三東(会見は欠席)、Nullの岡田、黒田を紹介。この制度について唐津は、「開館以来継続してきたダンス事業をさらに発展させるために設けました。日本を代表するダンスアーティストの方々に一定期間、まずは2年間の任期ですが、当劇場と密接に関わりながら活動していただきます」と説明。

文化庁による文化芸術活動基盤強化基金による「クリエイター等育成・文化施設高付加価値化支援事業」としての採択でスタートしたプロジェクト「Constellation(コンステレーション)」の一環だという。コンステレーションは日本語で星座を意味するが、各分野で輝く才能豊かなダンサーや振付家が、星座のように集い、互いに連携しながら、創作、発表、交流を行っていくという思いが込められる。「公開リハーサルやワークショップ、アーティストトークなどを通じ、ダンス、芸術を観るだけではなく、体験するものとして社会と繋いでいくことを目指しています」(唐津)。海外への発信にも力を入れ、国際フェスティバルへの参加、海外の劇場とのネットワークを活用した作品発表を通じて、愛知から世界へと繋がる舞台芸術の展開も図る。



愛知県芸術劇場2025年度ラインナップ詳細発表 会見に酒井はな、島地保武ら劇場専属ダンスアーティストが登壇

酒井はなは、元新国立劇場バレエ団プリンシパル・ダンサーであり、2013年からは島地保武とのダンスユニット、Altneu〈アルトノイ〉として活動する。先に挙げられた岡田利規とのコラボレーションも話題に。「劇場の皆さんと一緒に考え、県民の皆さんにとって舞台芸術が身近に感じられるためのお手伝いができたら嬉しく思います。やってみたいと思っているのは、皆さんが健康になるようなダンス、バレエ。そのワークショップができたら、皆がハッピーになるし、劇場もすごく楽しく、素敵な場所になるのかなと思っています」と笑顔を見せた。



島地保武は、ダンサーとして世界的振付家ウィリアム・フォーサイスのカンパニーで活躍。愛知県芸術劇場では2016年にラッパーの環ROYとともに『ありか』を創作し、9年間で14カ所35公演を行ってきた。「皆さんと一緒にたくさん話して、議論して、いま世の中でどういうことが起きているかということを察知しながら、どういうことを発信していくかということを親密にやっていきたいと思います」(島地)。



また、三東瑠璃は北村明子主宰のレニ・バッソでダンサーとして長く活躍、サシャ・ヴァルツやダミアン・ジャレといった振付家とも仕事をしている。会見当日は体調不良で欠席となったが、読み上げられたメッセージでは、「私はダンスに生かされています」とダンスへの思いを明かし、「愛知の皆さま、日本全国、そして世界とも繋がっていけるような作品を作り続けていくことが、私の使命だと考えています」とコメント。



今後のダンス界を担っていく存在として期待されるNullの岡田玲奈、黒田勇は、ともに愛知県の至学館大学の創作ダンス部で活動した仲間だ。幼少期からモダンダンスを学んだ岡田は石川県の出身。黒田育世率いるBATIKでもダンサーとして活動する。「今回の活動を通して、よりダンスに精進してまいりたいと思います」(岡田)。いっぽうの黒田はブレイクダンスに憧れてダンスを始めたというが、この劇場のアウトリーチ事業でインドネシアの振付家ジェコ・シオンポの創作に参加した経験も。「地元の僕にとってとても近しい劇場。こうして活動できることは、とてもありがたい機会をいただけたと嬉しく思います」と目を輝かせる。



愛知県芸術劇場2025年度ラインナップ詳細発表 会見に酒井はな、島地保武ら劇場専属ダンスアーティストが登壇

この多様な時代において、様々な世代の様々なキャリアの人たちの意見を反映することが必要という考えから、世代の違う4組5名のアーティストが揃った。国内の公共劇場のダンスへの取り組みとしては、新潟市民芸術文化会館の専属舞踊団「Noism Company Niigata」の例があるが、愛知県芸術劇場でダンスのカンパニーを作る考えは?と記者から問われると、唐津はこう答えた。



「日本の場合、ひとつカンパニーを作ることによって大きな経済的な負荷がかかり、多様な活動ができなくなるという面もある。

予算が潤沢にあれば、カンパニーを作り、その創造活動を行う一方で、いろんなアーティストの方に発表の機会を提供し、普及教育活動を行うこともできますが、日本の自治体、あるいは国の予算状況から考えると、難しいと判断しました。これが、ベストではないかという試みです」



開館から約32年半、常にダンスに寄り添ってきた愛知県芸術劇場の新たなチャレンジ。これからの展開に、熱い視線が注がれる。



2025年度 愛知県芸術劇場 自主事業ラインナップ

★は劇場ダンスアーティスト参加事業



■鑑賞公演・イベント
・愛知県芸術劇場オープンハウス★ ※終了
2025年4月29日(月・祝) 大ホール、小ホール



・THE オルガンNIGHT&DAY 2025★
オルガン:山口綾規
ダンス:島地保武、酒井はな(NIGHTのみ)
打楽器:加藤恭子(DAYのみ)
2025年5月2日(金)・3日(土・祝) コンサートホール



・赤ちゃんと踊ろう



愛知県芸術劇場2025年度ラインナップ詳細発表 会見に酒井はな、島地保武ら劇場専属ダンスアーティストが登壇

赤ちゃんと踊ろう

講師:古家優里(プロジェクト大山)
2025年5月25日(日)・26日(月) 大リハーサル室



・アクラム・カーン『ジャングル・ブック』
2025年6月28日(土) 大ホール

・ヒューストン・バレエ『オープニング・ガラ』『ジゼル』
2025年7月10日(木)・12日(土) 大ホール

・CLUB ORIGAMI(クラブ オリガミ)
2025年7月23日(水)・24日(木) 小ホール ※県内ツアーあり

・東京二期会オペラ劇場『イオランタ/くるみ割り人形』
日本語字幕付原語(ロシア語)上演〈新制作〉
指揮:川瀬賢太郎
演出:ロッテ・デ・ベア
管弦楽:名古屋フィルハーモニー交響楽団
2025年7月26日(土) 大ホール

・オルガン・レクチャーコンサート
オルガン:都築由理江
2025年8月27日(水) コンサートホール

・愛知4大オーケストラ・フェスティヴァル 2025
『ブラームス 交響曲全曲演奏会』
指揮:山下一史、竹本泰蔵、角田鋼亮、川瀬賢太郎
2025年8月31日(日) コンサートホール

・ダンス兼演劇作品『ダンスの審査員のダンス』★
作・演出:岡田利規
出演:中村恩恵、酒井はな、島地保武、入手杏奈、矢澤誠
音楽:小林うてな
2025年9月19日(金)~21日(日) 小ホール

・第46回中部バレエフェスティバル
『眠れる森の美女』(全3幕プロローグ付き)
芸術監督:松岡伶子
振付:山本康介
指揮者:井出勝大
演奏:セントラル愛知交響楽団
2025年10月5日(日) 大ホール

・オルガン・アワー
オルガン:山田由希子
2025年10月30日(木) コンサートホール

・あいちダンスフェスティバル2025(仮称)
パフォーミングアーツ・セレクション2025★
2025年10月30日(木) ~11月2日(日) 
小ホール、リハーサル室、メニコンシアターAoiコンサートホール

・愛知県立芸術大学管弦楽団 第36回定期演奏会
第36回定期演奏会
指揮:大植英次
2025年11月22日(土) コンサートホール

・ネザーランド・ダンス・シアター(NDT)
2025年11月24日(月・祝) 大ホール

・第22回AAF戯曲賞受賞記念公演『とりで』
作:村社祐太郎
演出:澄井葵、羽鳥嘉郎
2025年12月19日(金)~21日(日) 小ホール

・クリスマスはオルガンだ!2025
オルガン:小林英之
2025年12月24日(水)・25日(木) コンサートホール

・藤原歌劇団公演
プッチーニ作曲『妖精ヴィッリ』(オペラ全2幕)
マスカーニ作曲『カヴァレリア・ルスティカーナ』(オペラ全1幕)
〈字幕付き原語上演〉ニュープロダクション
指揮:柴田真郁 演出:岩田達宗
管弦楽:セントラル愛知交響楽団
2026年2月7日(土) 大ホール

・ピアノ・ツィルクス~5台ピアノの世界 in 愛知県芸術劇場
2026年3月7日(土) コンサートホール
出演:ピアノ・ツィルクス(白石光隆、田村緑、中川賢一、デュエットゥ かなえ&ゆかり)

・META XENAKIS - PSAPPHA 加藤訓子(パーカッション)× 中村恩恵(ダンス)
2026年3月25日(水) 小ホール




■2025年度からスタートする公募型のプロジェクト
・公募プログラム
AICHI NEXT: Performing Arts Project 「Challenge stage」&
「Advance stage」
敷地理『ur phantom eyes, our crystallized pains』
2025年8月15日(金)・16日(土) 小ホール

・公募プログラム AICHI NEXT: Performing Arts Project「Advance stage」
ハイドロブラスト『最後の芸者たち リクリエーション版』
2025年9月6日(土)・7日(日) 小ホール

・公募プログラム AICHI NEXT: Performing Arts Project「Challenge stage+」
辻將成『ゼロボックス』(仮)
2025年9月6日(土)・7日(日) 大リハーサル室

・公募プログラム AICHI NEXT: Performing Arts Project「Challenge stage」
VIVE『NO IMAGE』
永田佳暖『モチャカル!!』
ぬくみ『スクール・デイズ』
2025年8月15日(金) 愛知芸術文化センターオープンスペース

■舞台芸術の裾野をより広げる
劇場と子ども7万人プロジェクト<小・中・高校生無料招待公演>
・愛知県芸術劇場 舞台芸術鑑賞教室 2025

絵本×朗読×パイプオルガン『終わらない夜』
作曲:坂本日菜
オルガン:勝山雅世
朗読:藤井咲有里
2025年11月12日(水) コンサートホール

・愛知県芸術劇場舞台芸術鑑賞教室2025
ニッセイ名作シリーズ 2025
舞台版『せかいいちのねこ』
演出・振付・脚本・作詞:山田うん
音楽監督:ヲノサトル
出演:人形劇場ひとみ座、Co. 山田うん
2026年1月28日(水) 大ホール


■愛知発のプロデュース作品を広く届けるための公演
・島地保武×環ROY『ありか』香港公演★
2025年4月4日(金)・5日(土) 大館(Tai Kwun)

・高槻城公園芸術文化劇場×愛知県芸術劇場×Dance Base Yokohama
パフォーミングアーツ・セレクション2025 in Takatsuki★
2025年4月26日(土)・27日(日) 高槻城公園芸術文化劇場


※情報は2025年4月14日現在。都合により変更する場合があります。
※そのほかの自主事業については当劇場ウェブサイトにて紹介。



愛知県芸術劇場公式サイト:
https://www-stage.aac.pref.aichi.jp/index.html



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