「裏垢女子」とは、SNSで本来のアカウントとは別の”裏”のアカウントを持っている女性のこと。そのなかでも公につぶやくことが憚れる風潮にある、セックスをはじめとした性的な話題について裏アカウントで話す女性を指すことも。彼女たちはなぜ「裏垢」を使ってまで性の話題を繰り広げるのだろうか。
裸をアップしたり下ネタをつぶやいたり…。裏垢女子の生態系
今回お話を聞いた裏垢女子のあぐさん(@ugly_jonny)は、Twitterにて自身が経験したエッチな出来事やセックスのエピソードを投稿している。本業でシナリオライターをしながら、ABEMA TVの番組『給与明細』に女性用風俗のレポーターとして出演したり、「東京カミングアウト」というWebメディアでセックスやウーマナイザーの記事を投稿したりなどの活動を行っている、12.7万人ものフォロワーを持つ"大手裏垢女子"インフルエンサーだ。
あぐさんは主に下ネタやセックスのエピソードの発信がメインだが、裏垢女子はさまざまなタイプのアカウントがあるという。そのなかでもメジャーなのが不特定多数に自分の裸や下着姿の写真を見せる”自撮り垢”だ。「特定の人に裸を見られたい!」という人や、フォロワーに「可愛い」「エロい」と言われて喜ぶ人が自撮りを投稿しているという。
「Twitterに裸を載せる女の子には"いいね"やコメントが欲しい、つまり承認欲求を満たしたい人と、不特定多数のユーザーに裸を見せるのが性癖の人の大きく2パターンに分かれます。どちらかといえば前者が多いイメージですね。また、自撮りでフォロワーを集めてAmazonのほしい物リストやPayPay、ファンクラブなどのURLを載せて稼いだりしている女の子もいます。」
また、あぐさんのように文章だけでフォロワーを集める裏垢女子も。140字という限られた文章量のなかで、性癖やセックスについてオチをつけながら面白おかしく投稿し、男女問わず熱狂的なファンを稼ぐ人もいるのだとか。圧倒的な文章力を持っていたり、大喜利的な言葉遊びができる裏垢女子も少なくない。
「あー…きもち…」って言いながら腰振ってる男の、"ちんちんに意識が持ってかれてる感"が最高にエロくて好きだし、その後ふと目があった時にくしゃって笑って「かわいー…」って、改めて漏らす感じが"戻ってきた感"あってたまらんのです。ちんこの世界からようこそお帰り!もう一回イッてきたら?
— あぐ (@ugly_jonny) September 8, 2022
「そして好みの”裏垢男子”とのセックスが目的でアカウントを運用している女性もいます。そのような人たちはフォロワーを稼ぐ目的でつぶやいたり写真を投稿したりしているのではなく、ただ単に下ネタを言いたいから、下着や裸が可愛いから投稿している、というタイプです。もちろんエロい投稿や写真をエサに好みの男性を捕まえるということもあるようです」
このような出会い目的の裏垢女子にとって大事なのが「ちょうどいいフォロワー数」。フォロワーが1000人から1万人くらいだと男性からのメッセージが届きやすいが、2~3万人以上を超えると男性は「手が届かないのでは?」と謙遜するようになってしまうのだとか。
大きなアカウントになればなるほど出会えなくなってしまうので、フォロワー数が増えてきたらアカウントを消して"転生"をする女の子も少なくないそうだ。
「出会い目的の裏垢女子にとって、男性の雰囲気や性癖などが投稿によって判別できるため、Twitterでの出会いはとても効率がいいんです。男女ともにエロへの探究心が強い人が多いので、相性のいい人に会いやすいのが大きな特徴です。Twitterはいわば性癖のマッチングアプリですね(笑)」
なお、裏垢女子は比較的簡単に男性と出会える反面、裏垢男子は出会うまでに圧倒的に高いハードルが存在するという。
裏垢のパワーバランスはフォロワーの数で決まるため、男性はフォロワーが多ければ多いほど信頼が高くなり、裏垢女子と会える確率も高まるそうだ。そのため、裏垢男子のなかにはフォロワーを稼ぐためにネカマをしたり、ハメ撮りを載せたりする人も少なくない。
「裏垢に救われた」
裏垢を始めるきっかけは人によってさまざまだが、あぐさんが裏垢女子を始めたのは「セックスレス」の辛さを発散するために、Twitterアカウントを開設したのがきっかけだったという。
「もともと結婚していたのですが夫とはずっとセックスレスでした。この辛さをなんとか解消したい、私と同じ境遇の女友達を作りたいと思っていました。そんなとき、ある有名裏垢男子のツイートがわたしのTwitterに流れてきて『裏垢という世界があるんだ!』ということを知りました」
あぐさんはセックスレスの悩みを打ち明けたいという一心で裏垢をはじめた。しかし普通にツイートを投稿するだけではフォロワー数やRTは伸びないし、目的のおなじ境遇の人と繋がれない。そこで、自身が経験したセックスのエピソードを面白おかしくまとめて投稿することにしたという。
「裏垢を始めた2019年ごろの裏垢界は、現在より文章主体のアカウントも多かったため、同じように投稿を始めました。すると次第にフォロワーが伸びていきました。当時の私は既婚者で顔や体の写真を投稿できなかったため、自分にとっては文章がピッタリでした」
何度も何度も突き上げられて気持ちよすぎておかしくなりそうで、もうダメ、もうイヤ、を繰り返してたら「そうだよねやだよね、でも俺気持ちいいからさ、もう少しだけ頑張れる?」ってなんとも余裕なさげな笑顔で言われて、そんなん頷くしかないじゃんね、ってなりました。頑張りました。
— あぐ (@ugly_jonny) November 4, 2022
あぐさんのように裏垢女子のなかには、セックスレスや性に関する悩みを共有するために裏垢を始めた人も少なくない。夫の愚痴や理想のセックスについての願望を話したり、写真を載せて女性としての自信を取り戻すなど、人によって使い方はさまざまだ。そして、時には裏垢で男性と知り合ってセックスをしている人もいるのだとか。
「人妻の裏垢女子のなかには『不倫ではなく"外注"。気持ちは浮ついていません!』と言って婚外セックスしている人もいます(笑)。わたしも彼女たちのように"外注"で発散しようと思ったのですが、罪悪感に苛まれ、思うようには楽しめませんでした」
あぐさんは悩み抜いた末に離婚をして、現在は遠慮なくセックスを楽しめる状態になっている。
しかし、ほとんどの人にとってパートナーとのセックスレスを相談したり、また性欲を解消できる場所や機会は少ないのが現状だ。
裏垢は既婚者女性をはじめさまざまな悩みを抱える女性たちが集い、性についての気持ちを共有できるコミュニケーションツールとしての側面もある。
「私も本当に辛い思いをしてきましたが、裏垢で同じ思いや悩みを持つ人とつながることができて心から救われました。セックスレスの悩みはリアルの友人や家族など、近い人にはなかなか相談できません。だからこそオンラインで見ず知らずの人たちと悩みを共有できることが、わたしにとって大きな救いでした」
元夫と久々に腹割って飲んだんだけど、やっぱりどう考えてもこんなできた人間いないと思うし私は彼の隣で常に成長させてもらってた、一度は結婚してよかったな、レスのまま婚姻を続ける気にはなれなかったけど結婚してよかった、そろそろこの土地離れなくちゃなぁ元夫は世界一幸せにならなくちゃ
— あぐ (@ugly_jonny) October 11, 2022
「女性もセックスを楽しんでいい」性に寛容な世界
裏垢をはじめる以前は、性行為がタブーなものと感じていたあぐさんは「セックスは男性が楽しむもの・男性主体のもの」と思っていたそうだ。しかし裏垢をはじめてみると性を存分に楽しんでいる女性が多いことを知り、「女性でもセックスに積極的になっていい」ということに気づくことができたという。
「裏垢には思い切りセックスを楽しんでいる女性もいます。また自分の性癖を発信している人や、好奇心のままSMやハプニングバーなどの世界を楽しんでいる人もいます。そのような人たちと触れあって『女性もセックスを楽しんでいいんだ!』と素直に思えるようになりました」
裏垢をはじめてセックスレスの悩みを共有でき、また、自身の性欲に忠実になれた、あぐさん。
彼女にとって裏垢は心の救いになったが、実際には男女の出会いの場になっていることもあってトラブルの危険性も孕んでいるのが実情だ。これから裏垢を始めたいという女性に対して「情報収集・判断能力」が必要だと話す。
「知らない世界を知るのは何においてもいいことだと思います。そのため好奇心旺盛で、情報の取捨選択ができる人は向いているかもしれません。逆に向いていないのは恋愛がしたい人、真面目な人、優しい人、そして承認欲求が強い人だと思います。
特に承認欲求で裏垢を始めると『どこかで認められたい』『なにか現実で満たされていない』という感情が、男性の性欲とマッチしてしまいます。承認欲求を満たすためのセックスを繰り返してしまうと依存状態になったりトラブルになったりして、最終的に自分が傷ついてしまいます」
もし裏垢をするとしたら「条件の合う人としか会わない」「写真を載せるだけにする」など、自分なりの方針を決めておくのが一番大事だとあぐさんは話す。デジタルタトゥーにもなりかねない裏垢の世界。物事を正しく判断する能力とセックスに依存しない自立心が必要だ。
裏垢の世界は、普段話すことのできないセクシャルな内容を公に話すことができる特殊な場所だ。使い方によってはあぐさんのように心が救われる人もいれば、逆に欲望に呑まれてしまう人もいる。人によって相性の良し悪しがはっきり出てしまうからこそ、表のアカウント以上に細心の注意が求められる世界だ。
性について話すことが憚れる現代日本社会では、裏垢のような世界がいま必要なのかもしれない。
取材・文/越前与