
世の中には虫に刺されやすい体質の人というものがいる。悲しいことにそのジャンルに該当するコラムニストの佐藤氏であったが、今夏は「効く」と評判の新たな対策にチャレンジしてみることに……。
虫に刺されやすい体質の筆者が
新規購入した画期的な虫よけグッズ
僕は嫌になるくらい虫に刺されやすく、春が終わり初夏に向かう毎年のこの時期、一斉に羽化したヤングな蚊の、格好のターゲットとなる。
僕とは正反対の体質を持つ妻と並んで歩いていると、蚊の一群が妻をわざわざ飛び越えて、僕の方にだけワラワラ集まってくるのが見えたりする。
そして気づくとあちこち刺され、涼しい顔をしている妻の横で、「カユイ! カユイよ」と大騒ぎすることになるのだ。
そんな自分の体質は昔から知っていたので、もちろんさまざまな方策を試してきた。
虫よけスプレー、携帯虫よけマット、超音波マシーン、ユーカリオイル、芳香リングなどなど……。
でも、いつも期待外れに終わった。
僕の体が発している誘引成分は、それらの洒落たグッズが発する忌避成分の効果を凌駕するようで、蚊は顔をしかめながらも頑張って僕の肌に食らいついてくるのだ。
長年にわたる蚊との闘いのすえ僕がたどり着いたのは、昔ながらの蚊取り線香が一番効果的だという結論だった。
だから今では家の中でも外でも、蚊の気配を少しでも感じたらすかさず蚊取り線香を焚くことにしている。
だが、蚊取り線香は他人の迷惑になることがある。
家族は慣れているので、家の中では遠慮なしにガンガン焚くが、携帯用ホルダーを使って屋外で使用するときは、煙の流れに気を配らなければならない。
蚊取り線香の香りや、煙自体が嫌いだという人も、世の中には少なからずいるはずだからだ。
だから、効果が高くて他人の迷惑にもならない虫よけグッズがないものかと、前から思っていた。
そんな僕の目に入ったのが、近ごろ話題の「おにやんま君」だった。
“ストラップタイプ”の「おにやんま君」(他に“安全ピンタイプ”もある)
2021年に発売された「おにやんま君」は、殺虫剤も忌避剤も使わない画期的な虫よけグッズ。
アブ、ハエ、ハチ、蚊などを主食とする、昆虫界屈指の捕食者・オニヤンマの姿をリアルに再現したフィギュアで、これさえ身につけておけば、嫌な虫は恐れを成して近寄ってこないのだという。
発売以来、キャンパーやゴルファー、釣り人、登山者などの間でたちまち評判となり、去年からは販路も広がってヒット商品となっているのだそうだ。
ネットで探してみると、ヒットを受けて類似商品も数多く出ているようだったが、せっかくなので本家本元である“アクト合同会社”製造の元祖「おにやんま君」を購入することにした。
そして今まさにポチッとしようとしたとき、画面下部の“おすすめ商品”コーナーに、同じくトンボのリアルなフィギュアで、赤トンボを模した「あかねちゃん」というものがあるのを見つけた。
調べてみるとこちらも「おにやんま君」と同じ会社が製造する、要するに姉妹品だ。
「あかねちゃん」のモデルとなっているアキアカネも肉食性で、主食は蚊、コバエ、ハチなどの小昆虫だという。

「おにやんま君」と「あかねちゃん」のパッケージ
オニヤンマが主食とするアブやハエももちろん嫌だけど、僕が忌避したいのはもっぱら蚊だ。
使用者のレビューを見てみると、小さな蚊に対しては「おにやんま君」よりも「あかねちゃん」の方が効果大だという体験談も散見できた。
どうしたものかと一瞬悩んだが、「おにやんま君」は1200円、「あかねちゃん」は900円と、半永久的に使える虫よけグッズとしてはお手頃だったので、両方とも買ってみることにした。

「あかねちゃん」の方は“安全ピンタイプ”にした
蚊が多い公園で実証実験開始!
果たしてその効果のほどは
二匹のトンボが我が家に到着した翌日、さっそく蚊の多い現場で試してみることにした。
毎日の生活の中で、僕が必ず蚊に刺されるタイミングは犬の散歩中だ。
我が家は2頭の小型犬を飼っているが、夏場はなるべく近くの大きな公園や川原を散歩することにしている。
焼けるように熱いアスファルトの上を足の短い小型犬が散歩すると、熱中症になってしまう恐れがあるので、ひんやりとした草や土の上を存分に歩かせるようにしているのだ。
それでもやはり日中は暑すぎるので、散歩するのはまだ気温が上がりきらない朝方や、日が沈みかかった夕方にしている。
しかしそういう時間帯の公園や河原には、蚊がわんさかいる。
犬たちにはあらかじめ虫よけ薬を与えているからいいのだが、飼い主の僕はいつも大変な思いをしながら蚊と格闘しているのである。
公園の駐車場にマイカーを停めたあと、僕は早く散歩をしたくてはやる犬たちをドウドウとなだめつつ、2体のトンボフィギュアを付属の安全ピンやストラップで体に装着。
憎き蚊の目に入りやすいように、「あかねちゃん」はTシャツの裾、「おにやんま君」は帽子にぶら下げた。
こうしておけば「あかねちゃん」は腕や足、「おにやんま君」は首や顔の周辺を守備してくれるはずだ。

腕と足担当の「あかねちゃん」

首と顔まわり担当の「おにやんま君」
2つのリアルなトンボフィギュアを身につけた中年男の姿が、他人の目からどう見えるのかが多少気になったが、蚊に刺されて辛い思いをするよりも、多少奇異な目で見られる方がマシだ。
僕は公園の中でも特に蚊が多い、雑木林の広がるコーナーに向かった。
果たして本当に効果はあるのだろうか。

いざ、雑木林エリアへ
「確かに蚊が来ないかも」と喜んだのも束の間。
やっぱりいつものように……
雑木林エリアを進むこと数分。
……あれ? おや?
蚊があまり寄ってこないような気がする。
こ、これは! 確かに効果があるのではなかろうか。
そう思いはじめた僕は、さらに効果を高めるため、「おにやんま君」を、持参した伸縮棒の先端に取り付け、あたかも飛翔しているような演出もしてみた。
見ようによっては、完全におかしな人だ

伸縮棒の先につけて飛翔する姿を演出
確かに蚊が来ない! やったぞ! これは素晴らしい‼️
単純にも、そんなふうにひとしきり喜び興奮する僕の耳に、次の瞬間、同行していた妻が発する冷ややかな声が聞こえた。
「いや、いるよ。いっぱい」
振り返ってみると、「おにやんま君」を振り回しながら歩く僕の背後を、数匹の蚊が虎視眈々と追跡しているのが見えた。
そのうちの一匹が僕の帽子に止まった。
そして機会をうかがうように、息を潜めている。
そこで僕は、「おにやんま君」をそいつにそっと近づけてみた。
だけど彼は怯える様子もなく、逃げ出すこともない。
頭の中に?マークが浮かんできた。

とまっている蚊に近づけてみたのだが…
おい、蚊よ。オニヤンマさんだぞ。食っちゃうぞ。怖くないのか?
だが、蚊は身じろぎもしなかった。
ここで見逃すと、こいつは次に首筋へ飛び移り、いただきますとばかりに口吻を僕の柔肌に突き立てるはずだ。
みすみす刺されるわけにもいかないので、僕は手を振り回し、僕にたかる他の数匹もろともそいつを追い払った。
さらにその1分後。
犬の小用に付き合うため立ち止まった瞬間を狙いすましていたかのように、膝下あたりに一匹の蚊がとまった。かと思ったら、電光石火の早業で吸血を開始してしまったのだ。
ああ、やられた。
あかねちゃん! 何やってんのよ‼️
もう刺されてしまったものはしょうがない。
どっちみち痒くなるのは避けられないので、僕は慌てず騒がず、「あかねちゃん」をTシャツから外して、血を吸い続ける蚊にゆっくりと近づけてみた。
「ほら、食っちゃうぞ~食っちゃうぞ~」というセリフ付きで。

「あかねちゃん」をまったく恐れず吸血する蚊
でも、完全に無視された。ちっとも恐れる様子はない。
そしてたっぷりと血を吸って満足したのか、余裕で僕の足から離れて飛び去ってしまった。
これが、いっさいの忖度抜きで「おにやんま君」と「あかねちゃん」の、蚊に対する効果を検証した結果です。
要するに、多少の忌避効果があるような気はするけど、絶対的なものではないということだ。
特に僕のような体質の人は、刺されるときは刺される。蚊取り線香の信頼感には、到底およばない。
虫の気配が色濃い“山の家”で、
「おにやんま君」の効果を追加検証
今回の検証はこれで終わりにしようと思ったのだが、週末を我が家の第二拠点である“山の家”で過ごすことになったので、一応「おにやんま君」を連れていくことにした。
もしかしたら、都会よりずっと虫の気配が濃い“山の家”でこそ、「おにやんま君」は頑張ってくれるのではないかと思ったからだ。
そして、「おにやんま君」出動の機会はすぐにやってくる。
快晴の土曜日昼下がり、“山の家”のウッドデッキでのんびり過ごしていた僕の耳に、あの嫌な低い羽音が聞こえてきたのだ。
オオスズメバチである。
6月も下旬に差しかかるこの時期は、オオスズメバチが巣を作る場所を求め、家の外壁や庭の低木の間をブンブンと飛び回る。
巣を作られたらまずいので、毎年さまざまな方法でスズメバチを追い払うのだが、これが結構大変なのだ。
ここぞと思った僕は、釣り用のテグスを使い、ウッドデッキの目立つ場所に、「おにやんま君」をぶら下げてみた。

ウッドデッキ上空に「おにやんま君」を設置
するとまあ、なんていうことでしょう。
低空飛行で、ウッドデッキまわりをしつこく旋回していたそのスズメバチは、「おにやんま君」をぶら下げた途端、急に上空高くへ飛び上がったと思ったら、あっという間にどこかへと去ってしまったのだ。
そしてその日は二度と、スズメバチがウッドデッキに近づくことはなかった。
これは「おにやんま君」の効果と言っていいのではないだろうか。
蚊に対してはイマイチだった、「おにやんま君」だったが、スズメバチへの威嚇効果はかなり高いのかもしれない。
とすると「あかねちゃん」も、使い方次第ではやっぱり効果があるのかな?
それはこれからおいおい見つけていくことにしたい。

面目躍如の「おにやんま君」。テグスで吊ったのが良かったのかもしれない
ジャストアイデアですが、さらなる姉妹品としてギンヤンマの「銀ちゃん」とシオカラトンボの「塩辛ボーイ」も追加で作ってみたらどうでしょう。
4体のトンボさんたちを体のあちこちに装着していたら、さすがに効果は増すのではないかと思うのだ。
その前に、かなり危ない人物に見えて、蚊よりも人が寄ってこないかもしれないけど。
写真・文/佐藤誠二朗