「若い子たちが言う『ととのった〜』。あれ言わなきゃダメなんですか」大ブームの裏でサウナ嫌いおじさんが急増するわけ

サウナを描いたまんきつさんの漫画『湯遊ワンダーランド』(扶桑社)が、ともさかりえの17年ぶりのテレビドラマ主演で放送されるなど、変わらずブームが続くサウナ。ブームに乗じたビギナーが増えていく一方、これまでのファンの中にサウナを嫌いになる人々も増えているという。

その現状を探った。

サウナで汗をかいた後に水風呂に入り、その後外気浴などで休憩すると、リラックスできて「ととのう」……空前のサウナブームの昨今、サウナに興味がない人でも、「ととのう」という言葉を一度は聞いたことがあるだろう。中高年の男性が入る印象が強かったサウナだが、近年は趣向を凝らした新店が続々とオープン、若者や女性もこぞって訪れている。

現在のサウナブームは、第三次ブームと呼ばれており、2011年に発売されたタナカカツキさんの書籍『サ道』(PARCO出版)をきっかけに、同作の漫画版の発売や2019年のテレビドラマ化を経て大流行が起きた。

ちなみに第一次ブームは1964年、東京五輪の選手村に設けられたフィンランド式サウナが注目を浴び、サウナ施設が増えたことがきっかけとなり、第二次ブームは1980年代に健康ランドやスーバー銭湯が増えたことに起因している。

「若い子たちが言う『ととのった〜』。あれ言わなきゃダメなんですか」大ブームの裏でサウナ嫌いおじさんが急増するわけ

しかしながら昨今、ビギナーの利用客が増えたことにより、迷惑に感じているサウナファンも多いという。

昔からのサウナ好き・銭湯好きを困らせている迷惑行為にどういったものがあるのか、銭湯の利用客を取材した。

一番多かった苦言は会話に関するもの

取材をして一番多く聞こえてきたのは、複数人で訪れる若者のおしゃべりに関する苦言だった。

「一番気になるのはサウナ室内での会話ですかね。若い子たちは複数人で来る人が多いから、中でおしゃべりを始めるんですよ。サウナってかなり狭い密室じゃないですか、コロナもまだありますし、気になって仕方ないです。5類に引き下がったとはいえマナーとしてどうかと思います」(60代男性・無職 町銭湯常連)

「“黙浴”とか“私語厳禁”の貼り紙をしている場所でも話すもんだから、注意したこともあります。でも不貞腐れた表情で反省している様子もなく、謝罪もなし。

スッキリするために入ったのに気分を害されました」(50代男性・飲食業)

「若い子たちはすぐ『ととのった~』とか言うじゃないですか、あれ言わなきゃダメなんですか。そんなこと別にどうでもいいから、話さないでくれと思ってしまいます。しかも結構なボリュームで話す人が多い。確実に民度は下がってますよ。ブームってやっぱり考えものだなって思いますね」(40代男性・会社員)

「背中に和彫が入った“いかにも”な人たちなんかも銭湯では普通に見かけますが、大抵の場合、そのような人たちはとてもマナーがいいんです。集団で来てる若い男の子たちは本当にうるさくて…。
喋りたいなら、居酒屋行けばよくないですか? 理解できません。」(30代男性・ライター業)

狭い密室で聞きたくもない話を大声で話されるのは不快だろう。静かに過ごしたいお客さんがいるということを利用客全員が意識できるといいのだが…。

また、汗をかく場所だからこその、衛生面でのトラブルも増えているという。

不衛生な利用客に辟易

うるさい会話の次に多かったのが、衛生的な場所であるはずのサウナでの不衛生な体験への苦情。なんと体を洗わずに施設を利用する人も多いという。銭湯に来たら、まず体を洗うというのは、マナーとして当たり前な行為な気がするが…。

「体を洗わずにサウナに入るのは勘弁して欲しいですね。

密室だし、体臭とか気になるじゃないですか。垢の取れてない体から流れる汗が滴っていると思ったらすごく不快です。みんなで使うものだから清潔にという意識はもって欲しいです」(40代男性・運送業)

「サウナから出た後、汗を流さずに水風呂に入る人が信じられません。すごく不衛生じゃないですか。たまに見かけるんですけど、嫌悪感を覚えますよ。あとは水風呂に潜る行為ですね。
自分の家の風呂でも潜ったりはしないでしょ? なんで水風呂ではしちゃうかなって思いますよ。唾液とか考えると本当に不潔だなと」(50代男性・駅員)

「身体を洗わずにサウナ室で汗をかくことで、悪臭の原因になってしまうことに悩んでいる施設もあると聞きます。自分の汗の臭いだから気付けないんですかね…」(30代男性・会社員)

「若い子たちが言う『ととのった〜』。あれ言わなきゃダメなんですか」大ブームの裏でサウナ嫌いおじさんが急増するわけ

女性の利用客からはこんな声が聞こえてきた。

「カッサなどのマッサージ器具をサウナ内で使用し、汗を飛ばす人はとても気になります…。ストレッチくらいならいいのですが、普段の生活で自分の汗を他人に飛ばしたりします? サウナの中で美容器具を使うのはやめてもらいたいですね」(20代女性・会社員)

また、LGBTQに絡むトラブルも。

「昨今のLGBTQ法案に対して疑問を感じていますし、彼らに対して偏見はないと自分では思っていますが、サウナ内でイチャつきたいのなら個室サウナに行ってほしいです。

一度銭湯のサウナ内でベタベタ触り合ってマッサージをし合う同性カップルを見たことがあって、とても不快でした。銭湯がパブリックな場所であるという意識に欠けていますよ」(30代男性・会社員)

湿度の高い日本の夏場は、通勤時の電車や街中、そして職場でも、他人の汗の臭いに悩まされる機会があるが、その汗を洗い流す銭湯やサウナではせめて清潔に過ごしたいものである。話を聞いていると、銭湯を嫌いになってしまうアンチが生まれることにも納得ができた。

最後に従業員の本音を聞いてみた。

マナー違反をなくすことは不可能

このような現状を、銭湯で働く従業員たちはどう思っているのだろうか。銭湯で働いて30年という女性スタッフは、こう言う。

「サウナブームでお客さんは増えたし、満員の日もあるんだけど、人が増えるとマナーの悪い人も増えるみたいで、常連の人に『どうにかしてくれ』って言われますよ。正直、ブームに乗っかってくる人は、その後も来てくれるかわからない。だから常連さんは大切にしたいんです。かといってサウナ室に入って注意することもなかなかできないし、このままでは足が遠のいちゃうんじゃないかって不安になりますね」(60代女性・銭湯従業員)

「若い子たちが言う『ととのった〜』。あれ言わなきゃダメなんですか」大ブームの裏でサウナ嫌いおじさんが急増するわけ

東京・中野の人気銭湯、松本湯で働くスタッフからは諦めの声もあがる。

「マナー違反を全てなくすことは不可能だと思っています。公衆浴場等の入り方を知らない、貼り紙を見ない、複数人で来ていて周りが見えない、分かっていても自分本意でやってしまう、などさまざまな方がいらっしゃいます。

さらに迷惑行為を、従業員が注意するのか、見て見ぬふりをするのかでも違いがあると思います。マナー違反をする人が一定数いることを受け入れたうえで、この施設は楽しめるのか、楽しめないのかを選択していくしかないですね。ちなみに松本湯では、マナー違反のお客様にはスタッフがお声がけさせていただいています」(30代男性・銭湯従業員)

「若い子たちが言う『ととのった〜』。あれ言わなきゃダメなんですか」大ブームの裏でサウナ嫌いおじさんが急増するわけ

松本湯スタッフ 蒸しゴリさん



ストレス解消や疲労回復などに上手に活用できれば、健康にも繋がるサウナ。サウナ大国フィンランドでは、約540万の人口に対して2~300万ものサウナがあるという。だがサウナブームが続く日本では、しばらくの間混雑するサウナに入る以外選択肢はなさそうだ。

サウナブームが、これ以上アンチサウナーを増やさないことを願うばかりだ。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班
写真/shutterstock
松本湯関連写真/八坂悠司