
今や男女の出会いの手段として一般的になったマッチングアプリ。サービスの数が増えるにつれて、その差別化が図られているが、性癖で男女をマッチングするヤリモク同士が集まるサービスが存在する。
サービスの根底にあるのは「女性の性癖」を満たすこと
性癖マッチングサービスとは「性癖の合うパートナー」を見つけるサービスのこと。
一般的なマッチングアプリとの大きな違いは、Twitterで性癖やエロスについてつぶやく「裏アカ」同士をマッチングさせることだ。そのため、利用者は必然的に家族や友人にバレないための裏垢を作ってサービスを受けるのが一般的だ。
このようなサービスが出現する以前も「SNSで知り合い、セックスを目的に会う」という人々は存在したが、見ず知らずのアカウントの人とオフラインで出会うことは男女共にハードルが高く、特に、女性は性癖や性的嗜好の合う男性を見つけるのが困難だという。その背景には、SNSの裏アカやヤリモクが集中するマッチングアプリでは男性が圧倒的多数になるという、「男女比」の問題があった。
学生時代のマイノリティ自認の経験から、性癖やセックスの面でも男女のズレを感じていた大久保さん。AI技術を活用して女性の性癖を満たし、QOLの向上を図りたいという思いから「AI性癖マッチング」をスタートさせた。もともとエンジニアとしてBtoBのマッチングアルゴリズムを開発していたこともあり、その技術を用いて性癖による男女の出会いをサポートすることにしたという。
「前々より女性の性的な好みや性的行動は男性よりも多様であるという認識を抱いていました。性癖は極めて相手から本音を引き出しにくいものであるため、情報の不均衡が発生していることは容易に想像ができました。そこで、男女間の性的な交友がうまくいかない問題を解決したいと思い、このサービスをはじめました」
こうした理由から始まったAI性癖マッチング。女性は利用無料で、AIで相性がいいと診断された男性のなかから気に入った人を選べるという仕組みだ。
「男性ももちろん女性と同じように一定数性癖を持っていると思います。しかし、男性はどうしても女性とセックスをしたいという欲求のほうが勝り、話を女性に合わせてしまいます。そうなると女性の性癖を満たすまでに至らず、性癖を持つ男女間の性的な交友においてお互いに不幸となる場合が多いのではないかと考えていたため、女性が主体的になれる作りにしています」
女性が性欲を満たせる機会が少ない社会に疑問
現在、AI性癖マッチングと同じように、Twitterの裏アカを介してマッチングを行うサービスは年々増加している。大久保さんはこうしたサービスが人気になる理由として「女性が性癖を満たせる場所が圧倒的に少ない」ことを挙げている。
「男性には風俗がありますが、女性用風俗やハプニングバーなど、女性が性欲を満たせるサービスは都会にしかありませんし、まだまだ積極的に利用できる空気感ではありません。だからこそプライバシーを守って遊べる性癖マッチングの需要が高まっていると思います。私もサービスを始める前は不安でしたが、実際に運営をすると男女共に登録者が毎日増え続けているので、『需要があるんだな』と確信しました」
AI性癖マッチングの一番の特徴がサービス名にもある「AI」によるマッチング。これはAIに任せることで公平性の保証、情報漏洩リスクの低減、そして低価格化を実現するためだ。人間が介在しないことで主観的判断を排除し高精度のマッチングを実現し、情報漏洩リスクを最小限に抑えているという。その結果、趣向や性癖が第三者に見られることなく、秘匿性の高いマッチングの実現に成功している。
サービスの特徴と実際に出会えるというクチコミ、そして出会った男女同士のTwitterでの報告が評判となり、2023年7月現在ではユーザー数が4.5万人を突破している。また、「ユーザー年齢は男性が20~30代、女性は20代が大半を占めており、学生や社会人が多く登録している」と大久保さんは言う。
「なお、サービス内ではマッチングできる性癖の項目を多数用意しています。S/M度、いちゃいちゃプレイ、長めのディープキス、手マン、クンニ、中イキ、潮吹き、緊縛・拘束、目隠し、イラマチオ、言葉責め、長く激しい挿入、キスマーク・噛み跡、スパンキング、首締め(頸動脈)、催眠・脳イキ、アナル開発、精飲願望、野外露出、ロウソク、全身リップ、複数プレイ、スワッピング(カップル交換)、ローション・オイルプレイですね。 また、この範疇に収まらない女性向けに公募も受け付けています」
運営者が目指すのは「性癖婚」
現在、数々の性癖マッチングサービスが各社より提供されているが、それらのほぼ全てがTwitterアカウントを経由してのマッチングに留まっており、実際にアプリ化しているものは皆無だ。そんな状況になっているのには、App StoreやGoogle Playでのアプリ申請が通過しないという実情がある。
「アプリのダウンロードサービスにはそもそもアダルトのカテゴリーがなく、またアダルトと認定されてしまうと登録できないため、私たちのサービス含め同業他社ではどこもアプリ化ができてないんですよ。今後、アダルト系のアプリが許容される可能性もなくはないので、その際はアプリ化も目指していきたいですね」
また、性癖でのマッチングを利用した「婚活サービス」も行いたいという。
2022年にAI性癖マッチングを通して結婚を果たしたカップルがいたそうで、この事例を参考にして性癖や性的嗜好、体の相性などが合えば、婚姻届の出し方や結婚式場の紹介など、次のステップのロードマップを提供できるようにしたいと大久保さんは話す。
「例えば、『SMの相性が抜群だったので結婚しました』といったことを公に言えるような社会になれば面白いと思います。近年ではマッチングアプリでの結婚が一般的になってきましたし、今後は性癖の合うカップル同士の結婚が当たり前になってもいいのではと思います。いわば『性癖婚』ですね(笑)。
実際に、カラダの相性の不一致で離婚してしまう夫婦は多いので、性癖での結婚はある意味、理にかなっているのではないでしょうか」
「今後は性癖もパートナーを選ぶ判断基準のひとつになる」と予想している大久保さん。「性癖婚」の他にもHIVをはじめとした性病予防啓蒙を行い、安全・安心に性行為を楽しめる仕組みを整えていく予定だ。
少子高齢化や晩婚化が進むなか、性癖を主題にしたマッチングサービスは日本の抱える課題を解決する策のひとつになり得るだろうか。今後の性癖マッチングの市場に注目したい。
取材・文/越前与