
2人の初老男性の性的スキャンダルが世間を騒がせている。お笑いコンビ、ダウンタウン・松本人志氏の性加害疑惑と、社会学者・宮台真司氏の女子大生との44歳差不倫報道だ。
ホモソーシャルであることが必ずしも悪いわけではない
──都内の高級ホテルにおける松本人志氏の性加害疑惑の報道を「週刊文春」が報じました。二村さんはその報道についてどう思われましたか?
二村ヒトシ(以下同) 僕は松本さんとは年齢が1歳差で、同じ世代を生きてきました。昔、松本さんが放送作家の高須光聖さんとのラジオで、とあるAVを絶賛していたことがあって。それがソフト・オン・デマンドから発売されている、ひっこみ思案な女性が人前で排便することで自分を変えようとする姿を撮ったドキュメンタリーAV『大観衆が見つめる中で初めての公開生うんち』だったんです。このAVをネタとして笑うんじゃなく本気で褒めたんだとしたら、わかってる人だなぁ、と当時は松本さんにシンパシーを感じていたのですが、今回の報道のようなことをもしも本当にしていたとしたら、そんなことをしていて楽しいのかなと思います。

ダウンタウン・松本人志 写真/共同通信
──具体的にどういった点が問題だと感じましたか。
松本さんが実際に何をしたのかという確証はないので、あくまで一般論として話しますが、「週刊文春」の報道で「SEX上納システム」と名づけられているような、女衒(ぜげん)の役割の人間が権力ある男性に女性をあてがう集団というのは、お笑い界に限らず至るところに存在しています。
そうした行動の一番の問題点は、相手の女性の言うことをちゃんと聞いていないところです。最終的にセックスしたか、してないかはあまり関係ない。相手が本当は何を求めているかを一切考慮しないということは、その人間に対する侮辱です。彼らは自分たちのところに来る女性は侮蔑していい存在なのだと思いこんでいる。
──ホモソーシャルな集団がそうさせてしまうのでしょうか。
「ホモソーシャルだから悪い」みたいな論調もありますが、ホモソーシャルであることが必ずしも悪いというわけではないと僕は感じます。男性の集団が「みんなでSM倶楽部にお尻を掘られにいこう!」みたいな盛り上がりかたをすることだってありえる。もちろんそこに同調圧力があったら嫌ですけど、それで全員が楽しんでたら粋でかっこいい。
でも今回のようなケースは、その集団の男性たちが本質的に女性を甘くみて舐めているように感じられて、とにかく、かっこわるいですね。
──告発した女性が言ってることが、当時とは異なる点を非難する方もいます。
その女性が真実を言っているかどうかはそこにいた人じゃないとわからないし、当事者の気持ちが後になって変わることについても、無関係な周りがどうこう言えることではないと僕は思います。性愛の場において、弱い立場にある人は自分に嘘をつかざるをえなくなることがある存在です。告発するというのは、嘘をつき続けることに耐えられなくなったということです。AV業界で長年仕事をしていて、そうした状況には何度も立ち会ってきました。
──女性が本心を言えず、嘘をつかざるをえなくなる状況を作り出す権力性がよくないということですね。
権力を濫用することで、性愛の場面で相手の言葉に耳を傾けられないコミュニケーションになってしまうとしたら、その権力者は人間として非常にみじめだなと思います。
性愛におけるリベラル男性の欺瞞
──松本氏の報道と同時期に、東京都立大学教授で社会学者の宮台真司氏が、44歳年下で宮台ファンの女子大生と不倫していた報道もありました。二村さんは宮台氏と共著も出してますが、こちらの報道については、どう思われましたか。
松本さんのほうは女性からの告発が記事になっているけど、宮台さんのほうは「私は宮台真司にひどいことをされた」と女性が言っているわけではないので、メディアはくだらない報道をしているなあとは思いました。ただ両者の出来事の反響を比べると、むしろ宮台さんの事態のほうから根深い問題を連想しました。

宮台真司、二村ヒトシ『どうすれば愛しあえるの 幸せな性愛のヒント』(2017年、ベストセラーズ)
──それはどういった点で?
松本さんたちがやったのではないかとされる行為を批判する人はたくさんいます。松本さんを擁護する人もたくさんいますが、その中には自分が過去に女性からひどいことをされたから、今回の事態に乗っかって女性全体を蔑視する暴言を吐くことで憂さ晴らししているように見うけられる人もいる。なにしろ、たくさんの人が意見を言います。
一方で、宮台さんの報道に関しては、リベラル男性の欺瞞についての議論がもっとなされるべき機会なのに、そうした議論が起こっていないように思います。
──どういった議論がありえるでしょうか。
先ほどから僕は「立場が弱い側の本心をちゃんと理解することが大切だ」と言ってきました。表面的に相手の同意が取れていればいいのかというと、必ずしもそういうわけではないです。悩んでいる女性の話を聞いてあげて、そのまま説得・洗脳してセックスに持ち込む。あるいは女性の恋心だけを食っておいて、女性側が望むような交際をせず曖昧なままの関係を続ける。
インテリでリベラルでモテる男性には、そういうことをしている人が多い。自称フェミニストのリベラル男性であるから許してしまいがちですが、根源にはミソジニー的な感情があって女性を侮辱してる点は「SEX上納システム」と同じです。ホモソーシャルなのか個人でやってるか、アンチ・フェミニストなのか自称フェミニストの底が浅いリベラルなのか、という違いがあるだけです。

社会学者・宮台真司 写真/共同通信
──リベラル側にはリベラル特有の問題があるということですね。
外ではリベラルと称してる夫婦の家庭で妻だけが皿洗いをしてるとかよくあるし、不倫相手となっている女性のほうが本心では「結婚したい」と思っているのに「結婚制度が悪い」とか「社会が変なのだ」という理屈で言いくるめられていることもよくあります。
リベラル男性のことが好きなリベラル女性は、彼らに理屈を言われると「自分の考えが間違っているんだ」と反省してしまいがちです。恋させられてしまった側はバカになり、弱者になりますからね。モテない男や口下手な男はそれができないけど、小賢しい男の中には明らかにそれを利用してモテてる人や、都合が悪くなると女性との対話を避けて逃げる人がいます。リベラル男に泣かされた女性を僕は何人も見てきましたし、僕自身が女性の言葉を聞いているようでまったく聞けていない男です。
男性は女性の話をもう少し真面目に聞けるようになるべき
──理屈で言いくるめるリベラル男がたくさんいるんですね。
僕はそれこそ宮台さんから直接「主知主義」と「主意主義」の違いを教えてもらいました。宮台さんは僕との共著の中で、社会がよくなれば人は幸せになるという考えかたを「主知主義」、社会がよくなってもそれだけでは人は幸せになるとは限らないという考えかたを「主意主義」と定義しています。

男性のモテの問題を考えてきた、二村ヒトシ
リベラルであるなら社会的には弱者の声に耳を傾けることを重視するはずなのに、自分の性愛の場においては、女性から不満を述べられたときにもっともらしい理屈で逃げて、その女性と向き合わない。そういうリベラル男性は、主語を大きく語ることでまともな会話ができているように見せかけながら、実のところ男のエゴが強固で、自分自身は変わりたくないのでしょう。既得権益を守っているんです。
──社会を語ることによって、個人の欲望に向き合えないことがあるということですね。
はい。けっきょく大切なのは、相手が本当は何を望んでいるのか、というちょっと考えればわかることを真摯に受け止められるかどうかです。ところが暴力的な人はそれをもちろんしないし、知性や権力を自分のためにしか使えない人もできない。これは自戒を込めて言うのですが、松本さんと宮台さんの両者の報道の反響を受けて、男性は女性の話をもう少し真面目に聞けるようになるべきだと思いました。
文/山下素童