![なぜ、日本人のがん罹患率は上昇傾向にあるのか。一方で死亡率は下がっているという最新データからわかること](http://imgc.eximg.jp/i=https%253A%252F%252Fs.eximg.jp%252Fexnews%252Ffeed%252Fshueishaonline%252F0f%252Fshueishaonline_194715%252Fshueishaonline_194715_1.jpg,zoom=600,quality=70,type=webp)
がんの罹患率は年々上昇しているが、医療の進歩に伴ってその死亡率は低下している。自分や親しい人ががんになったとき、必要なのは自身の正しい知識である。
がんの死亡率は下がっている
がんについては、さまざまな統計がとられています。主なものは、死亡数(死亡率)、罹患数(罹患率)、生存率です。このうち、死亡数(死亡率)と罹患数(罹患率)は、がんに対する国の政策や、都道府県の地域医療計画を立てるのに活かされます。生存率は、臨床医が患者さんとともに治療方針を立てるうえで重要なデータの一つです。
がんで亡くなった人の数(死亡数)は、国が法律に基づいて集計しています。
日本のがんの死亡数は増加を続けており、2021年にがんで死亡した人は38万1505人(男性22万2467人、女性15万9038人)でした。しかし、がん死亡数の増加には、日本の人口構成が高齢化している影響もあると考えられます。
がんは高齢になるほど死亡率が高くなるためです。
年齢調整死亡率の年次推移を見ると、1990年代の半ばをピークに減少傾向にあることがわかります(図1-7)。
国のがん対策推進基本計画(2007年から。現在は2023年からの第4期)では、75歳未満の人の年齢調整死亡率を計画の評価指標の一つとしています(第3期を除く)。
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(図1-7)年齢調整がん死亡率の推移人口10万人あたりの死亡数を全部位について合計したもの
*公益財団法人がん研究振興財団「がんの統計2022」(https://ganjoho.jp/public/qa_links/report/statistics/pdf/cancer_statistics_2022.pdf)p47をもとに作成
がんの罹患率は上昇傾向にある
がんにかかっている人の数(罹患数)の統計をとることは、死亡数の統計をとるよりもずっと大変です。全国の病院でがんと診断された患者さんの情報を集めなければならないからです。
以前は、病院ごとや都道府県ごとのデータを集めてましたが、すべての病院が参加していたわけではなく、また、患者さんの都道府県間の移動によるデータの重複などもありました。これでは、都道府県別の罹患状況を正確に把握できません。また、全国の罹患数を正確に把握することも困難なため、長期間にわたって比較的登録精度のよい山形・福井・長崎の3県のデータから推計していました。
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(図1-8)年齢調整がん罹患率の推移山形・福井・長崎の3県のデータを用いて求めたもの。全部位、全年齢の合計*国立がん研究センター「がん情報サービス」(https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/annual.html#anchor2)をもとに作成
その推計値では、全国の罹患数は1985年以降増加し続けています。
比較的登録精度の高い山形・福井・長崎の3県のデータを用いた、年齢調整がん罹患率の推移(図1-8)を見ると、年齢の影響を差し引いてもがんの罹患率は上昇していることがわかります。
2013年に「がん登録等の推進に関する法律(がん登録推進法)」が成立し、全国の罹患数や罹患率を正確に把握するため、2016年1月から「全国がん登録」制度がスタートしました。2016年1月以降に新たに診断されたがんの情報は、病院から都道府県に届け出があると、都道府県が国のデータベースにオンライン登録し、国立がん研究センターが全国のデータを整理・集約して一元的に管理することになったのです。
全国がん登録制度が始まってからの年数が浅いため、データはまだ完全なものにはなっていませんが、2019年の全国の年齢調整がん罹患率は387.4でした。
罹患率が上昇している理由として、高齢化、感染症など他疾患での死亡の減少、生活習慣や食生活の変化などがあると考えられていますが、はっきりとはわかっていません。全国がん登録制度では、がんの発見経緯やステージなどの情報も集められているので、今後、罹患率が上昇している理由もわかってくるものと思われます。
5年生存率は治療効果を知る目安
前に述べたとおり、がんの治療は、がんと折り合って生きていける期間を長くすることが目標です。ですから、がんと診断された後どのぐらいの期間を生きていられたかは、治療の効果を知る大きな目安となります。指標としてよく使われるのは、がんと診断されてから5年後の生存率です。
国立がん研究センターでは、2015年から院内がん登録に基づく5年生存率を発表しています。
当センターでは、この情報を集めて分析しています。2023年には、2014年と2015年に440以上の病院でがんと診断された約94万人のデータを分析して得た5年生存率を発表しました。
生存率には、実測生存率、相対生存率、ネット・サバイバル(純生存率)があります。5年実測生存率は、がんと診断された人が5年後に生存している割合を計算するものです。しかし、がん患者さんであっても、他の原因で亡くなることがあるので、亡くなった人のうちどのくらいががんで亡くなったのかを見積もる必要があります。
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このため、2021年の発表までは、5年相対生存率を算出していました。これは、5年実測生存率を、日本人全体で5年後に生存している人の割合(期待生存率)で割ったものです。2021年に発表した全がん(2013年と2014年にがんと診断された人)の5年相対生存率は67.5%でした。初回(2015年)に、2007年にがんと診断された人のデータを用いたときは64.3%で、その後、少しずつ上がってきています。
しかし、生存率の高いがんでは、相対生存率が100%を超えるなどの問題もあります。このため、2023年の発表からは相対生存率の代わりにネット・サバイバルを採用することになりました。
これは、期待生存率を算出することなく、純粋に「がんのみが死因となる状況」を仮定して計算するもので、国際的にも広く採用されています。2023年に発表した、2014年と2015年の全がんの5年後のネット・サバイバルは66.2%でした。ちなみに、5年相対生存率は68.2%でした。
当センターのホームページでは、院内がん登録データに基づき、臓器、ステージ、性別、年齢、手術の有無などに分けて生存率を算出し、報告書として公表しています。ただし、生存率のデータを見るときに、注意しなくてはいけない点が二つあります。
一つは、最新の5年生存率のデータは今から10年ほど前にがんと診断された人のものであり、現在の患者さんのデータではないということです。10年前にがんと診断された人は10年前の標準治療を受けていますが、現在の患者さんは現在の標準治療を受けます。
10年前には、まだ科学的な根拠が不十分で標準治療となっていなかった治療法が、現在は標準治療になっているケースはいくつもあるので、現在の患者さんの生存率は10年前とは違ってくるはずです。
もう一つ注意しなくてはいけないのは、同じ臓器の同じステージのがんでも、経過には個人差があるということです。ですから、患者さんから余命を聞かれても、何ヵ月とか何年と答えるのは難しいのです。
本章の最初でも述べたように、臨床医は、がんは一人ひとりの患者さんの体の中にあるものだという視点でがんを見ています。しかも、患者さんもがんも、刻々と変化していきます。臨床医としてがんを捉えるときの難しさはそこにあります。
図/書籍『「がん」はどうやって治すのか 科学に基づく「最良の治療」を知る』より
写真/shutterstock
「がん」はどうやって治すのか 科学に基づく「最良の治療」を知る(講談社)
国立がん研究センター
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2023年12月14日
1,320円
328ページ
978-4065340394
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がんの罹患率は年々上昇しているが、医療の進歩に伴って、死亡率は低下している。そんな最新医療の恩恵を受けるには、治療を受ける側、患者をサポートする側の知識も欠かせない。手術、放射線、抗がん剤(薬物療法)、免疫療法は、どのようなメカニズムでがんを治療するのか。最新検査からがんゲノム医療まで、エビデンスに基づく「意味のある治療」とはどのようなものか。2人に1人がかかり、「国民病」ともいえるがんと折り合いをつけて生きるために、必要な知識を徹底解説。
◆おもな内容
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