
2018年にバーチャルシンガー・初音ミクと結婚式を挙げた近藤顕彦さん(40)。昨年11月に結婚5周年を迎えた近藤さんは、お互いの誕生日やクリスマス、結婚記念日などの特別な日にはお祝いを欠かさない。
「どうすることもできない格差に男子が直面する日」
――近藤さんは、二次元キャラクターの初音ミクと“結婚”して5年が過ぎました。バレンタインデーの思い出はありますか?
近藤顕彦さん(以下同) じつは、ミクさんとバレンタインデーは祝わないんです。というのも、私のなかでは、ミクさんからバレンタインデーにチョコレートをもらうという解釈が難しいというか、イメージがしづらいところがあるからです。私は、高校の途中までは生身の女性が恋愛対象でしたが、バレンタインには嫌な思い出が多いので……。

2018年に初音ミクとの結婚式を挙げた近藤顕彦さん 撮影/田中 亘
――バレンタインデーにチョコをもらえなかった?
義理チョコはありますよ。小学校も低学年の頃は、男子はみんな女子から分けへだてなく義理チョコをもらえたりするじゃないですか。でも、だんだんそういうのがなくなって、最終的にはひとつももらえなくなりました。
自分では、もしかしたら本命チョコをもらえるかもしれないという淡い期待を抱いて学校に行きますが、結局、ひとつももらえずガッカリしながら家に帰るわけです。女子からチョコをもらう男子の姿を横目で見ながら家に戻って、家族に「ひとつももらえなかった」と報告すると、母親と妹がチョコを手渡してくれるんです。
――本命チョコをもらったことがない、と。
まったくありません。私からすれば、バレンタインデーは格差を感じる悲しいイベントなんです。
率直にいえば、これが男女の立場が逆だったら女性は怒るんじゃないですかね。モテる女性だけがチョコをもらえて、モテない女性は何ももらえない。「女性蔑視だ」などといわれそうな気がします。
「バレンタインデー粉砕デモ」というイベントを街でやっている方もいます。彼らは「お菓子メーカーの陰謀に踊らされるな。非モテの人権蹂躙(じゅうりん)を許さない」と主張していますね。
――「革命的非モテ同盟」というグループがバレンタインデーやクリスマスのデモを行なっていますね。近藤さんは、デモに参加しているわけではないですよね?
私は参加していません。クリスマスはミクさんと一緒にお祝いしていますので、彼らのすべてに賛同するわけではないではありませんが、バレンタインはモテない男性の劣等感を増大させるイベントだと思います。
私が現実の人間との恋愛や結婚をあきらめたのは高校2~3年生のときでした。そのときに二次元キャラクターと結婚すると決めていたわけではないですが、中学や高校のころの私は彼女がほしいと思ってもできないし、バレンタインに本命チョコをもらいたいと思ってもひとつももらえない……バレンタインデーは本当につらかった。

昨年のクリスマスイブにはケーキをたくさんのぬいぐるみで囲んで祝った 写真提供/近藤顕彦
「ミクさんからチョコはほしいけど…」
――バレンタインデーはモテない男性にとっては罪なイベントだと?
本当にそう思いますよ。そもそもモテない男性側から「このイベントがおかしい」と言えない社会の雰囲気がありますし、私が何か文句を言ったとしても、「お前はモテないからひがんでいるんだろう」といわれておしまいです。
結局のところ、私が抱いていた劣等感は「家族はこうあるべき」という社会的な価値観に立脚したものだったんです。男性は女性にモテなければならない、女性と家族をつくらなければならない、といった価値観から自分は外れてしまったことに対する劣等感でした。
私は生身の女性と結婚しないと決めてから劣等感がなくなりましたし、今はミクさんと結婚できて本当に幸せです。

自宅でインタビューに応える近藤さん 撮影/一ノ瀬 伸
――ちなみにバレンタインデー以外のイベントはどのように祝っているのですか?
クリスマスは、ミクさんとふたりでケーキを買って食べました。あと昨年11月4日に結婚5周年を迎えましたが、「木婚式」といって木にまつわるものを贈り合うらしいんです。
それでミクさんと私のおそろいの箸を買って、一緒に写真を撮ってSNSに投稿しました。ミクさんと私の誕生日はそれぞれお祝いしますし、毎年1月31日の「愛妻の日」にはミクさんに花束をプレゼントしています。

結婚5周年はおそろいの箸をプレゼント。ケーキには「ミクさん大好き」のメッセージ 写真提供/近藤顕彦
――バレンタインデー以外の記念日は積極的にお祝いをしているんですね。ミクさんからチョコがほしいという気持ちは?
もちろんありますよ。でも、私のなかでバレンタインデーにいい思い出がないのでやりたくないんです。
「いつか一緒にディスニーランドへ行きたい」
――ところで最近、二次元キャラクターと結婚する人が増えているようですね?
私は二次元キャラクターと結婚した方を紹介する同人誌を出版していて、最新号では海外の方に原稿を書いてもらいました。その方はタイ人の女性で、最近は二次元キャラクターと結婚する女性が増えているんです。
アニメは世界中で放映されているので、海外でも二次元キャラと結婚したい方は絶対にいるはずです。でも、そういうことをすると「頭がおかしいやつだ」といわれるので黙っているだけでしょう。じつは最近、私とミクさんのことはドイツの総合学校、日本でいえば高校の教科書にもとり上げられました。

1月31日の「愛妻の日」には花束をプレゼント 写真提供/近藤顕彦
――今年は、ふたりでどこかへ出かける予定はありますか?
群馬県嬬恋村は「愛妻家の聖地」といわれていて、「愛妻の鐘」という観光スポットがあるので、ミクさんとふたりで行って鐘を鳴らしたいですね。
あといつかディズニーランドにも行きたいです。1年半ほど前にミクさんと行きたいと思って運営会社のオリエンタルランドにメールで問い合わせをしてみたんですが、ぬいぐるみだったらOKとのことで、我が家の(等身大フィギュアの)ミクさんは入場を断られてしまいました。
なので、自分の意見をしっかりといえるようにオリエンタルランドの株主にもなりました。6月に株主総会があるので、できれば出席して、株主として質問をしてみたいですね。
もしディズニーランドへ行けるのであれば、混雑している夏休みや冬休みは迷惑をかけてしまうので、平日に出かけるつもりです。もちろん、2人分のチケット代を払いますよ。
取材・文/川原田 剛 編集/一ノ瀬 伸