〈子持ち様論争〉「子どもをもたなかった人の老後を負担」するのは誰?  “子持ち様”を一概に批判できない社会保障に関わる“勘違い”とは
〈子持ち様論争〉「子どもをもたなかった人の老後を負担」するのは誰? “子持ち様”を一概に批判できない社会保障に関わる“勘違い”とは

子どもを持つ親が、子どもが理由となる社会的な支援を受けることについて、SNSを中心に不満を漏らす人が増えている。子を持つ人のことを“子持ち様”と揶揄して、優遇されることを批判しているようだが、果たして、本当に子を持つ世帯は優遇されているのだろうか…。

子育て世帯は優遇されているわけではないという考えもある

日本で子どもを持つ親に対する、“子持ち様”批判が社会問題になりつつある。子どもを持つ女性が、子どもの体調不良や学校行事などを理由に仕事を休んだり、早退することに対して、SNSなどで不満を漏らす人が続出しているのだ。

また、たとえ身近に“子持ち様”がいなくとも、児童手当、高校無償化など、子育て世帯を援助する政策が打ち出されると、〈なんでよその子どもの負担を俺が…〉〈子育て世帯ばかり優遇されるのは不平等だ!〉という不満が巻き起こったりする。

こうした社会の流れに対して、「未婚率が上昇して子どもを育てたことがない人が増え、子育てに理解がないこと、子どもたちが将来自分たちの世代を支える存在という理解がないことが、感情的な対立をもたらしています」と指摘するのは、Xでフォロワー20万人以上を持つ投資家・ゆな先生(@JapanTank)だ。

ゆな先生は、長期的な視点で見ると子育て世帯は社会的な負担を多く背負っており、子育て世帯への批判はナンセンスだと主張する。

「子どもがいない人が『なぜ私があなたの仕事をカバーしなきゃいけないの?』と主張していますが、社会全体の中では、子どもを作らなかった人の老後の負担を、子どもを作った人の子どもが負っているわけで、お互いさまでもあると思います。むしろ今の子どもたちのほうが将来的には大きな負担になるかもしれません。

また、子どもがいない人が『私はこれまできちんと税金も年金も払っているし、健康保険料も払っている。高齢になったときも自分の貯めたお金で老人ホームに入って迷惑かけず生活する』と主張しているケースがあります。

しかしそれは少々勘違いで、日本は現在、賦課方式の社会保障制度になっており、現役世代が今まさに納めている税金で、高齢世代の年金や医療費を負担している状態なのです」(ゆな先生、以下同)

ゆな先生の主張では、社会インフラを例にとっても同じことがいえるのだという。

「例えば現在、日本にある橋のうち、その4割が建設後50年を経過しています。2033年にはその割合は6割にもなります。水道や電力も同じように老朽化していきます。

老朽化した橋や水道、電力、防衛などのインフラを維持する負担も、次の世代の若者たちが担っていきます。子どもを持つことは、将来の社会を支える役割を果たすことでもあるのです」 

これ以上分断を生まないための新たな制度化・ルール化を

子ども一人を大学卒業の22歳まで育てるための費用は、およそ3000万円以上といわれている。“経済的な余裕がない”という理由から、子どもを持つことをあきらめたり、2人目をあきらめたりする家庭は少なくない。

「そのため家族だけでなく、社会全体が協力して持続可能な社会を作る必要があります。子育ては経験してみないとその大変さを体感することは難しいですが、子育てがいかに大変であるか、そして将来自分の世代を助けてくれる存在であるかの理解を広める必要があるでしょう。公共交通機関や大規模小売店、公共施設などの運営者側からも積極的に利用者に対し情報発信をしていくべきだとも思います」

ただ、「子育てをしているのだから何でも許されるとか、子どもができない人に対して配慮がない態度をとる人がいることはまた別の問題です」とゆな先生は指摘する。

特にやはりネックとなるのが、冒頭で記述したような、子を持つ親が急に会社を休まなければならなくなった場合だ。



「大企業であれば人が多くいて、たとえ一人欠けても仕事が回っていくことがありますが、中小企業では難しいものです。経営側がなんとかして人の手配をすべきではありますが、難しいならば仕事を負担した割合に対して賞与を変えるなど、増えた負担に対してきちんと評価をされるルール化をすべきだと考えます」

穴埋めを急遽しなければならなくなった社員に対して、企業側がフォローすることで、“子持ち様”への批判的な感情が抑えられることは期待できる。また、そもそも急な早退や欠席を未然に防ぐための制度の整備も必要だ。

「例えば保育園の開園時間が一般的な朝7時半から19時までとなると、仕事の始業時刻や急な残業に合わせることは困難で、どうしても同僚に無理なお願いをしてしまうことに繋がります。また、子どもの急な病変などは大人と違いずっと付き添いが必要で、病時保育は対応していない保育園も多く、家庭に対応スタッフを派遣するサービスも非常に高額です。経営体力が小さい保育園がすべてに対応することは難しく、これらに対しては公的な補助を手厚くしていくべきでしょう」

60~70代と20~30 代で票田の規模が違いすぎる

こうした、子どもにまつわる諸問題を解決するために政府は昨年4月から「こども家庭庁」を発足させたが、1年経った今でもいまだ何か大きな成果を得られたとは言いがたい。



「若い世代の人口が相対的に少ない上に投票率が低いことも大きな原因です。直近の令和3年の衆院選では、60代の投票率が71%、70代以上が61%だったのに対し、20代は36%、30代は47%しかありませんでした。米国を例に取ると、同じように若い世代のミレニアル世代は、大票田であり政権の政策にも大きな影響を及ぼすことができており、やはり票田の規模の大切さを感じます。選挙に行く大切さを若い世代に広めていく活動が必要です。

しかし、それでも人口ピラミッドによって大きな隔たりはあるので、個人的で突飛なアイデアですが、若い世代の投票率をあげて意見を通すために、例えばマイナンバーを利用し、スマホ投票しかできなくしてしまえば投票率自体は伸びると考えています。現状の選挙制度を抜本的に大きく見直すことも考えたほうがいいところにきているのではないでしょうか」

一向に成果があげられない国の少子化対策。

子育て支援をさらに厚くしたい中での“子持ち様”批判は、大人様たちにとって今後も大きな課題となりそうだ。

取材・文/集英社オンライン編集部