
2020年に日本シリーズ4連覇を果たすなど、無双状態にあったソフトバンクホークス。この3年間は1位に返り咲けない状況が続いているが、スポーツライターの小関氏によると若手の育成がうまくいっていないという。
書籍『2024年版 プロ野球 問題だらけの12球団』(2024年2月執筆)より一部抜粋・再構成し今季の戦力を分析する。
ドラフト上位指名が育たない理由に目を向けるべき
20年に日本シリーズを4連覇したとき、孫正義オーナーは65~73年に巨人が成し遂げたV9(日本シリーズ9連覇)を超えると宣言した。19、20年にセ・リーグの覇者、巨人に日本シリーズで2年続けて負けなしの4連勝を飾ったあとだったので、その宣言には信憑性があった。
翌21年に4位に陥落したあと工藤公康監督が辞任し、新監督に二軍監督だった藤本博史氏が就任、22年2位、23年3位とAクラスを保持したものの、4連覇の頃の無敵ぶりは鳴りを潜め、22年オフは80億円の大補強、23年オフはFA権を行使した山川穂高を獲得と、やっていることは札束で選手の頰を叩いて入団を迫る90年代の巨人のようである。
だが、ソフトバンクは勝ちすぎて臆病になっている。
昨年も新外国人野手のガルビス、アストゥディーヨ、ホーキンスがまったく戦力にならず、22年限りで自由契約にしたデスパイネと23年6月に再契約したが(23年オフに退団)、こんなに恥ずかしい外国人の獲得話はそうそうない。
西武はファンの支持を失った山川を放出して、昨年セットアッパーとして46試合に登板し、3勝1敗2セーブ11ホールドポイント、防御率2・53を挙げた甲斐野央を獲得できたのだから、万々歳だろう。逆にソフトバンクは山川をDHで起用して、髙橋礼と泉圭輔を放出してまで獲得したウォーカーをベンチに置いたままにするのだろうか。
このオフにはかつてのドラフト上位指名選手が多く退団している。森唯斗(13年2位)、高橋純平(15年1位)、高橋礼(17年2位)、甲斐野央(18年1位)、佐藤直樹(19年1位)、昨年もFA移籍した近藤健介の人的補償で田中正義(16年1位)が日本ハムに移籍している。
試行錯誤しながらドラフト戦略を展開してきたソフトバンク編成陣が、ドラフトに対して何か決着をつけた、という意思表示なのだろうか。
これからは知恵と工夫ではなく、お金だけ使って選手を補強します、とか。
これまでの指名を振り返ると、ドラフト1位で成功ラインに達しているのは12年の東浜巨まで遡らなければならない。こんな球団は他にない。まだ答えの出ていない、井上朋也(20年)、風間球打(21年)、イヒネ・イツア(22年)、前田悠伍(23年)には、せめてチャンスだけは与えてほしい。
今のホークスは、一軍の力があるのかないのかわからない若手は抜擢しないと決めているように見える。結婚したい女性がいるけど、幸せにしてやれる経済的基盤ができるまでは結婚しない、という考えなのだろうか。一緒に苦労してください、という話にはならないのだろうか。小久保裕紀新監督は勇気を持って采配してほしい。
スタメン分析 ファームの王様はどうして一軍に定着できない
今年の陣容とかでなく、ソフトバンクの25歳までの若手でチームを作ったらどんな顔ぶれになるのだろうか。
捕手=渡邉陸(18年育成1位・神村学園高)、一塁手=廣瀬隆太(23年3位・慶應大)、二塁手=三森大貴(16年4位・青森山田高)、三塁手=井上朋也(20年1位・花咲徳栄高)、遊撃手=イヒネ・イツア(22年1位・誉高)、左翼手=正木智也(21年2位・慶應大)、中堅手=笹川吉康(20年2位・横浜商高)、右翼手=生海(22年3位・東北福祉大)、指名打者=リチャード(17年育成3位・沖縄尚学高)
魅力のある選手が並んだが、私が選んだ今年のレギュラー候補はこの中にいない。若さに魅力はあっても、一軍での実績が少ないので、小久保新監督は抜擢に勇気がいるだろう。歴代監督の抜擢しない習慣が積もり積もって、筑後のファーム施設には素質が高く評価された未完の大器が塩漬けされたままになっている。
レギュラー陣の血の入れ替えは考えていないのだろうか。
今宮健太、周東佑京、さらに獲得したばかりの山川だって次代の若手を優先して控えに回してもいい。そうしないと、ソフトバンクは現在の「普通に強い」状況から抜け出せないと思う。最後に今年もリチャードをレギュラー候補に推したい。
リチャードは今季25歳なので〝若手〞と呼ぶのはこれが最後になるが、22年に続いて23年もファームの成績が尋常ではないのだ。注目したのが長打率。
22、23年のファームで数人しか達成していない長打率5割超え(200打数以上)を、リチャードは2年続けて実現している。歴代、同記録を達成しているのはイチロー(オリックス)、中田翔(日本ハム)、柳田悠岐(ソフトバンク)たち数人しかいない。彼らはファームで傑出した成績を挙げた翌年に一軍定着、のちに主力としてチームに貢献している。
予想スタメンには中村晃を入れているが、将来を睨めば、ここにリチャードが入ったほうが健全だと思う。
◇タイトル経験者の二軍での傑出した成績とリチャードとの比較
イチロー 1993年打率・371安打69本塁打8打点23長打率・640出塁率・466
中田翔 2009年打率・326安打105本塁打30打点95長打率・674出塁率・367
柳田悠岐 2011年打率・291安打73本塁打13打点43長打率・518出塁率・375
村上宗隆 2018年打率・288安打105本塁打17打点70長打率・490出塁率・389
リチャード 2022年打率・232安打73本塁打29打点84長打率・562出塁率・348
リチャード 2023年打率・225安打53本塁打19打点56長打率・521出塁率・364
村上は、長打率は4割9分だったが、OPSは一流の証、8割を超えている。
ピッチングスタッフ分析 モイネロは先発かセットアッパーか
森唯斗、椎野新、嘉弥真新也、高橋純平、高橋礼、泉圭輔、甲斐野央が移籍、戦力外などでいなくなり、その前年は千賀滉大、田中正義、大竹耕太郎がチームを離れ、陣容がすっかりスリムになった。2年前の22年には、今名前を挙げた10人のうち髙橋純平を除く9人が一軍の試合で登板している。千賀22、嘉弥真56、泉30、森29、甲斐野27、椎野18、田中5、髙橋礼4、大竹2で、合計193イニング投げている。
スリム化して新監督は起用しやすくなっただろう。人材が多ければ故障した選手の補塡が楽になる反面、成績が落ちた選手のスランプ脱出まで待ち切れず、すぐ代わりを用意しようとする。近年のソフトバンクがそういう構造だった。
2013年の日本ハム・栗山英樹監督は、高校卒新人の大谷翔平を13試合に登板させ、そのうち先発は11試合あった。シーズン通算成績3勝0敗、防御率4.23は高校卒としては悪くないが、辛抱のきかない監督ならこんなに起用していない。前年はリーグ優勝しているチームなのだ。
もう少し大谷に付き合っていただく。5月23日にプロ初登板を先発で飾り、6月26日のソフトバンク戦では内川聖一、長谷川勇也にソロホームランを喫し、3失点している。
それでも7月以降、先発で7試合、リリーフで2試合起用し、チームは12年ぶりに最下位に転落しているが、3年後の16年には大谷がチームを牽引して日本一になり、現在の大谷ブームも将来を見据えた起用法によって導かれていることがわかる。
佐々木朗希(ロッテ)のような体作りを優先すべき選手には抜擢よりトレーニングが重要になり、ある程度体作りがすんでいる大谷のような選手には抜擢が重要になる。そういう見極めができる指導者はこれからのプロ野球界ではますます求められるだろう。
話が長くなったが、そういう選手起用を小久保新監督にはお願いしたい。
今年の陣容を予想すると、モイネロの起用法が難しい。昨年は左ヒジ手術のため7月1日以降、登板がなく、今季は先発転向からセットアッパーに戻るプランが提示されるなど、せわしない。顔ぶれだけでも賑やかだった2年前ならモイネロの先発転向案など湧いてこなかったと思う。
スチュワートJr.も今季25歳になり、若手最後の年になる。ソフトバンク入りした当初は「メジャーのドラ1を拒絶」という部分ばかりが強調され、底知れぬ大物感に翻弄されたが、時折一軍戦で見るスチュワートは160キロのストレートこそあるものの、大谷や佐々木の登場によってその速さが珍しくなくなった今、普通の本格派に見える。
スチュワートは昨年の成績(77.1回投げて与四球42、奪三振67)が示すように、コントロールが不安定(与四球率4.89)で奪三振率7.80も物足りない。今年はスチュワートにとって正念場で、例年のような成績だと、ソフトバンクの育成能力自体に疑問符がつく。
先発候補には、やはりドラフト1位で獲った風間あたりに出てきてほしい。
図表/書籍「2024年版 プロ野球問題だらけの12球団」より
写真/shutterstock
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