「好き」を言語化するより、ネガティブな感情を言葉にするほうが難しい!… 三宅香帆が提唱する3つのポイントとは
「好き」を言語化するより、ネガティブな感情を言葉にするほうが難しい!… 三宅香帆が提唱する3つのポイントとは

SNS上では日々ネガティブな言葉があふれている。しかしドラマや映画を見たときのネガティブな感想の言語化は、実は「好き」を言語化するよりも難しいと書評家の三宅香帆氏は分析する。

その3つのポイントとは。近刊『「好き」を言語化する技術』より一部抜粋、再編集してお届けする。

ネガティブな感想を持ったときの言語化

「ネガティブな感想を抱いた場合」の言語化のコツを説明しましょう。

ネガティブな感想の言語化、それはたとえば「もやもやした違和感があった」とか「嫌だった」とか「なんか知らんが無理だった」とか、そういう類いのものです。

これは「ポジティブな感想の言語化」よりも意外と難しい。

嫌いな人の悪口でもそうじゃないですか?

誰かが悪口で盛り上がっている場で、他人の言っていることに同調するだけならすごく簡単ですが、「自分だけがマジで嫌だった原因」を孤独に言語化するのって難しい。他人の言葉にかぶせない、自分だけの違和感を言葉にするのは、けっこう困難なことなんですよ。

なぜなら、自分のネガティブな感情は、自分のコンプレックスや自分のマイナスの体験につながっていることが多いから。

ポジティブな感想の言語化のときに「すべての好みには元ネタがある」と言いましたが(編註:書籍では「ポジティブな感想の言語化」についても触れられている)、逆を言えば、「すべての悪口にも元ネタがある」のです。

つまり、ネガティブな感想を言語化することは、ネガティブな気持ちを抱いた元ネタを、自分の内側から引っ張りだす必要があるんですね。

ポジティブな感情を言語化する3つのポイント、覚えていますか?
① (共感の場合)自分の体験との共通点を探す
② (共感の場合)好きなものとの共通点を探す
③ (驚きの場合)どこが新しいのかを考える

さて、これをネガティブな感情のバージョンに変えてみましょう。
① 自分の(嫌な)体験との共通点を探す
② (自分が既に)嫌いなものとの共通点を探す
③ どこがありきたりだったのかを考える

ネガティブな感想を抱いたときの言語化は、この3点を考えることです。

ネガティブな感想=「不快 or 退屈」

まず、あなたが感じたネガティブな感情が、はっきりとした「不快」なのか、あるいは「退屈」だったのかを考えます。

「不快」とは、心がザワザワする、嫌な気持ちになる、気分が悪い、すごく胸が痛くなる……など際立った感情です。

マイナスに振り切れた違和感のことですね。

一方で「退屈」とは、面白くなかった、よくある感じだった、なんだか刺激されなかったなど、際立ったものがないことへの失望です。

ポジティブな感想は「共感」か「驚き」に分類できますが、ネガティブな感想は「不快」か「退屈」に分類できます。なにか嫌なものがあったのか、なにもなくて退屈だったか。

まずは、その感情がどちらだったのかを考えてみてください。

不快の理由を探る

あなたの感想が「不快」=なにか際立って嫌なものがあったとき。その感情を抱いた原因を考えてみましょう。やるべきは、次の2点に心当たりがないか考えることです。

① 自分の(嫌な)体験との共通点を探す
② (自分が既に)嫌いなものとの共通点を探す

好みにも元ネタがあるように、嫌いなものにも元ネタがある。だって、なにもないところに「不快!」なんて感情は、突然湧き立ちませんから。「なんかこれ、すごい心がざわつく、嫌だ~!」ってわざわざ思うとき、そこにはなにかしらの原体験があるはずです。

不快の理由がフィクションのキャラクターだったり、人のエピソードだったりしたら、現実の体験かもしれない。あるいは衣装の色だったり物語の結末だったりする場合は、既に知っているもので同じく嫌いなものがあるかもしれない。

「うーん、自分ってこういうパターンが嫌いなのか」とぜひ嫌いなものの共通項を言語化してみてください。

ちなみに私の場合は、「世界と君のどちらを救うか決めろ‼」みたいな物語パターンがすごく苦手なんですよ。そういう選択肢がでてきた時点で「うげっ」てなってしまう。これにネガティブな感情を抱いてしまうのは、「主人公がわりといろんなことに無自覚であることが許されている」状況が苦手だからなんですね。

だって世界か君かのどちらかを選べだなんて、「世界」に含まれるいろいろな影響をしっかり理解しようとしていないように見える。そういう無自覚性みたいなものが許されている世界が……ああ苦手……と感じてしまうんです。

で、無自覚さが苦手、という共通項を考えると「あーあのキャラも私は無自覚さが苦手なんだ」と思い至ることがあり、そこからずるずると自分の現実での体験も思い出す……みたいなことをやります。

はい、面倒な作業でしょう。「嫌い」を言語化すること。

「好き」よりも「嫌い」を言語化するほうが、よっぽど困難な道のりなんですよ。

退屈の理由を探る

さて、ネガティブな感情が「退屈」だった場合。

つまり、どこの場面が嫌だとか、どのキャラクターが好きじゃないとか、あの衣装が嫌だとか、そういう際立った不快さが存在するわけじゃない場合。ただただ、意外性がなく、面白さを見出せずに退屈だった場合。

あなたは退屈の原因として「どこがありきたりだったのか」を考える必要があります。

そう、ここでも重要なのは具体的であること。決して全体的に退屈だったという結論で終わらせるのではなく、どの要素がありきたりに思えたのかを考えましょう。

物語であれば、キャラクターが凡庸なのか、ラストがいかにも予想の範疇だったのか、セリフが普通すぎたのか。あるいは、人であれば、どの要素が自分にとってありきたりだと思えるのか。

全体的になんとなく退屈、なんて誰にでも言えます。そうではなくて、一体どこが退屈なのか、その要素を洗いだしてみるんです。それによってあなたの感想はあなたにしか書けないものになります。

ポジティブな感情もネガティブな感情も、とにかく具体的に細分化すること。それがい
い言語化の鍵になります。

一般論で語らない!

ネガティブな感想を書くうえでもっとも注意すべきなのは、決して一般論で考えないことです。あくまで「自分が」嫌な感情を覚える点について考えることに注力しましょう。

「みんなも」ここは嫌でしょう? などと考え始めると、感想はドツボに陥るんですよね。

一般論じゃなくて、まずは自分の嫌だった点を深堀りする。

もし、不特定多数のみんなに向けた感想を書きたくても、その前に自分の感想を深堀りして言語化したうえで、みんなに向けた加工をおこなうべきです。決してみんなの言葉を代弁しようとせず、まずは自分の言葉をつくることに専念する。それが、いい感想への近道です。

ポジティブな感想もネガティブな感想も同じように自分の感情を言語化することが重要ですが、とくにネガティブな感想は、みんななぜか一般論で考えようとしちゃうことが多い。たぶん、これを批判しているのは自分だけじゃないはず! と考えたくなるからでしょう。群れから外れたくないという人間の本能なのかもしれません。

でも、ひとまず自分の感情を言語化したほうがいい。私はそう唱えることをやめません。

なぜなら、自分の感情を言語化できていないと、みんなの感想との境目がわからなくなるからです。

みんなの感想と、自分の感想を混ぜないためにも、最初に自分の感想をメモしましょう。

というわけで、ネガティブな感想の言語化プロセスは次の通りです。


 

◎ネガティブな感情の言語化プロセス

(1)「不快」(際立って嫌な感情を抱いている)。もしくは、「退屈」(ありきたりでつまらないと感じる)のどちらなのかを考える

(2)「不快」の場合
① 自分の(嫌な)体験との共通点を探す
② (自分が既に)嫌いなものとの共通点を探す。「退屈」の場合どこがありきたりなのか考える

文/三宅香帆 写真/Shutterstock.

「好き」を言語化する技術 推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない

三宅 香帆
「好き」を言語化するより、ネガティブな感情を言葉にするほうが難しい!… 三宅香帆が提唱する3つのポイントとは
「好き」を言語化する技術 推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない
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