
「恨みは、忘れようとしても忘れられない」93歳の心療内科医・藤井英子医師は、そう語る。16万部を超えるベストセラー『ほどよく忘れて生きていく』(サンマーク出版)の著者でもある藤井氏が示す、過去に縛られず、恨みから自由になる道とは?
最新刊『ほどよく孤独に生きてみる』(同)から、心が軽くなる言葉をお届けする。
恨みは「忘れる」ではなく「かき消す」
<積年の恨みは、病の元になります。恨んでいること自体がどうでもよくなるくらいに、心がわきたつもの、心が動くものを見つけます。これは、あなたの人生なのですから。>
誰かへの恨みは、そう簡単に忘れられるものではないかもしれません。そうであったとしても、過去の恨みをずっと抱えて生きていくよりは、年齢を重ねるごとに、いやなことはサラリと忘れて、今日出会う人や今日起きることに意識を向けて生きていくのが幸せなのではないかと思います。
過去に起きたつらいできごとが忘れられず、恨み続ける人、さらに年々恨みが深くなっていく人がいますが、「あのことだけは絶対に許さない」とか、「私の目の黒いうちは」と言っていると、眉間にはシワが寄ってしまい、ずっとしかめっつらでしょう。
そんなときは、もしもここで恨みを忘れて、自分のために生きられるのなら、これから1年、どんな毎日が待っているのか、想像してみてください。
過去に起きたことは、変えられません。
相手やできごとのせいにしていても、幸せな気持ちにはなれません。
幸せになるために、今できるのは、今日をどう生きるか、どう自分を大切にするか、ということだけです。恨みに苦しめられないためには、その恨みをなんとかしようとするよりも、それをかき消してしまうような、それよりも「大きな喜び」を見つけるのが早道です。
「大きな喜び」は、日常の中に隠れていますから、それを見つけ出してください。そのために、今に意識を向けて、今日出会う人、起きることに集中します。
恨みは「病」になる
<恨みを持ち続けるということは、自分を惨めにしていくことです。人への恨みが自分を不幸に陥れ、笑顔になれるはずの時間を奪います。>
患者さんのなかには、夫の不貞に対して、積年の恨みを募らせる方も少なくありません。「もう20年も前のことだけど、今でも許せない」と、涙を流される姿に、私は「ご自分を大切になさってほしい」という気持ちでいっぱいになります。
自分に対して酷いことをした夫を、許すか、許さないか——夫が悪いのに、なぜ許さなくてはならないのか。許すと負けた気になるし、でも、許さないままだと心がつらい。何度も傷つけられたときのことを反芻していると、それは、今もその状態を体験していることになり、脳は強いストレスを感じて常に戦うモードになります。
アドレナリンやコルチゾールが増加し心拍数や血圧が上がり、筋肉はこわばりからだはいつも緊張状態。この状態が長期化すれば、徐々にからだに影響が出てきます。免疫システムが抑制され抵抗力も低下し、病気にもかかりやすくなってしまいます。
その方には、私は、神経が過敏になってしまうときに処方する漢方薬をお出ししつつ、そのことを「ほんの少しでも考えない時間」を持つようお伝えしました。
許すか、許さないか。
多くの場合、許すも許さないも「どっちでもよくなる」ように思います。
いやなことには「いいことの種」が
<悪いことが起こったら、いいことの種が蒔かれたと思いましょう。いやなことのなかにも、いいことの種があることが人生の彩りだと思います。>
人生、いいこともあれば、悪いこともある、と言いますが、私は、悪いことのなかに、いいことの種があるような気がしています。
つらい状況にあったとしても、それがずっとは続かないし、悪いことのように見えることのなかには、いいことにつながる未来の種がかならず蒔かれています。
私は89歳のとき、当時、院長を務めていたクリニックで、「先生はもう90歳ですよ、そろそろ」と、引退のお伺いをされました。私が受け持っていた患者さんの担当からいつの間にか外されてしまい、元来、前向きで元気な私も、このときばかりは、胃潰瘍をわずらいました。
私はクリニックを辞め、自分のクリニックを開くという挑戦をすることになりました。89歳での開業は、思いがけず、本を書くという経験にもつながりました。
今振り返ると、あのとき病院を辞めていなかったら、こんな新しい経験はできませんでしたから、いやなことのなかにもいいことの種があると実感しています。その種を丁寧に拾って、蒔いて、新しいことに挑戦すると、何歳からだって、新しい世界が待っているのですね。
いいことがあったら心から喜びましょう。いやなことがあったら、そのなかにあるいいことの種を拾ってすぐに蒔きましょう。いいことも悪いことも、人生という畑に色とりどりの花を咲かせ、やがて果実となって実ります。
文/藤井英子 写真/shutterstock
ほどよく孤独に生きてみる
藤井英子
離れていい。ひとりでいていい。
誰かとうまくかかわるための、心地よい「心の守り方」とは?
予約が絶えない心療内科医の「近づきすぎない」幸せの秘訣。
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人間関係は、なければ寂しく、
あれば煩わしいものですね。
ときどき、ほどよい孤独を選んでみませんか?
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93歳の現在も、日々診療に向き合う心療内科医の藤井英子医師。
現役で仕事を続けるなかで紡ぎ出される自然体の言葉が評判です。
日常の暮らしのなかで、心がすこし曇り空の日、雨降りの日など、
ふと立ち止まる日に心を軽くする言葉が満載です。
前作『ほどよく忘れて生きていく』の感想にあった「1日誰とも話さない日があってさびしい」という声に、先生がお答えするかたちで、「ほどよく孤独に」というメッセージが生まれました。
人間関係も、人の目も、情報も、
「すこし離れている」くらいでちょうどいいのかもしれません。
日々、自分の心に目を配り、からだを動かして、人間関係をすこし軽やかにする。
見開きに1つのお話で、さらりと読めるのに心に残る、
ずっと手元に置いていただきたい1冊です。
【目次より】
◎「属さない」自由
◎近い人ほど「あっさり」
◎気が合わないのは「あたりまえ」
◎「友だち」より「話し相手」
◎「人の噂」は半日もたない
◎恨みは「忘れる」ではなく「かき消す」
◎いつだって「これから」を話す
◎過去は「アルバム」にだけ
◎「まあいいか」で生きていく
◎自分にこそ「よく頑張りました」