
厚労省が1月27日に発表した人口動態統計(速報値)によれば昨年1年間の出生数は72万人余り。前年より3万7000人余り減少し、過去最少を記録した一方で、総人口に占める高齢者の割合は増え続けている。
店の入口には手作りの「三途リバー」…
マツコ・デラックスが司会を務める『月曜から夜ふかし』(日テレ)でも取り上げられた『冥土喫茶しゃんぐりら』。
昨年7月にオープンした同店は、遊び心も交えた高齢者の憩いの場としてNPO法人キッズバレイが一事業として運営している。営業は毎月第一土曜日だ。
店の入口には、紙と青いビニール紐製の手作り感あふれる「三途リバー」が設置され、これを渡り座席に向かう。トイレは「極楽浄土」と命名されている。
メニューは「冥土弁当」などが用意され、支払いは現金のみで、支払い時には「三途の川の渡し賃をお願いします」という仕様。かなりしっかりしたコンセプトで運営されているのだ。
客層もさまざまで、20代から80代男性、さらには親子連れなどもいる。開店時間の8時ちょうどにやってきたのは、夜勤明けのトラック運転手・前橋市のかっちゃんさん(62)。
「居眠り運転して冥土に行く前に寝ないで来たよ! 仮眠も取らずに風呂入だけ入っておめかしして来ました。
今回で2回目の来店となるのは、まさきさん(24)。
「初めて来たときに楽しかったんで、また来ました。ビンゴ大会とかやって、なんか和むんですよね。自分も地方出身だから、こういう和んだ雰囲気が落ち着くんです」
まさきさんはメイドのデコさんとココさんが写ったブロマイド(200円)を購入。
すると、近くにいたメイドのネネさんが「魔除けになるわよ!」と“冥土ジョーク”を飛ばしていた。
脳梗塞の妻を介護する88歳男性「“喪え喪えキュン”って言うのが楽しみ」
前橋市に住む角田さん(88)は昨年7月の開店時から毎営業日、足繁く通っている。
「もう子どもも孫も独立して妻と2人きりで、その妻は脳梗塞でほぼ寝たきりなの。とにかく自分は元気でいないといけないと毎日1万歩歩いてたら、この店を見つけました。
街は刻々と寂れていくけど、こういう楽しいことを始めてくれると嬉しくなるね。毎月1回、ここで“喪え喪えキュン”って言うのが楽しみだよ」
角田さんに「どんな気持ちで冥土に向かいたいか」も聞いた。
「冥土って言葉は知ってるけど、実際どんな所かなんて誰も見たことも聞いたこともない。大事なのは今この時、いかに楽しむか。
ニュースサイトの記者にとっても大切な「現場に来ることの大事さ」を改めて教えてもらった。
さらに仕事仲間だという女性3人組も開店時間から並んで来ていた。
「毎日YouTube見ていて、たまたまこの冥土喫茶が出て来たので来てみました」(もりりんさん)
「3年くらい前にこの近くのデニーズが閉店しちゃって、溜まり場がなくなっちゃったんです。だから月1回だけど、この店ができてよかったです」(なおみさん)
「桐生市はいろんな店が閉店しちゃってるので、これで注目されるのは嬉しいです」(ななみさん)
2014年に「消滅可能性都市」に…NPO代表は「この取り組みが他自治体の参考にもなれば」
群馬県桐生市は、かつて織物産業の中心地として華やかに栄えたが、バブル崩壊後は人口の流出に歯止めがかからず、2014年には日本創成会議に「消滅可能性都市」と指摘された。
『冥土喫茶しゃんぐりら』を運営するNPO法人キッズバレイの代表理事・星野麻美氏は言う。
「ここは桐生市の中心地に位置し、コワーキングスペースなどとして運営していました。周辺にはレストランなども何店舗かありましたが、3年前にデニーズが閉店したことで高齢者が集う場がなくなり、居場所が消えたのです。どの年代にとっても居場所は大事です。私たちのこの取り組みが他都市の自治体さんの参考にもなればと思っています」
店のメイドのリーダー・ココさん(66)は、角田さんの帰宅をこんな言葉で送った。
「この世に疲れましたら、またお越しください」
笑顔で帰っていく角田さんを見つめるココさん。
SNSなどで情報を得た人が東京だけでなく富山や大阪などから集まる『冥土喫茶しゃんぐりら』。
取材・文/河合桃子