
2024年、「THE SECOND~漫才トーナメント~」で王者に輝いたガクテンソク。アマチュア時代に初めて出場した『M-1グランプリ』では準決勝に進むも、賞レースの神様の前髪をつかめず、優勝を逃し続けていた。
M-1は200メートル走、THE SECONDは1200メートル走
ガクテンソクはもともと「M-1グランプリ」に出場するために結成されたコンビであり、M-1優勝を悲願としていた。しかし、2020年のラストイヤーでは準決勝敗退。一度も決勝進出を果たせなかった。
その後、「環境を変えたい」という思いから40歳を過ぎて上京を決意。2023年のTHE SECONDに出場したものの、32組から16組まで絞られる「開幕戦ノックアウトステージ32→16」で敗退した。大会ごとにルールや雰囲気が異なるため、新たな賞レースに挑戦するのは簡単ではない。
「M-1をはじめとするほとんどの漫才レースは4分尺です。THE SECONDの6分という尺は独特なんです。陸上競技に喩えると、M-1が200メートル走なら、THE SECONDは1200メートル走。
多くの芸人や観客が4分のリズムに慣れている中で、6分間いかに笑いを維持できるかが重要になります。優勝した前年の大会で得た最大の成果は、その“感覚”をつかんだことでした」
賞レースのチャンスは3年おき。それを逃したらまた3年後の機会にかけるしかない
2023年大会を経て、ネタ作りを担当する奥田さんは2024年大会に向けて、一からネタを練り直すことを決意した。
「この大会は、持ってるネタをすべて出し切る総力戦になると思っていました。小出しにしても勝ち目はないと考え、今あるネタを徹底的にブラッシュアップし、5本ほど用意する方針にしました。
2023年の大会で負けた時点でこの戦略を決め、上京しました。それでも勝てなければ翌年以降はよりリスクの高い戦略を取ることも考えていました」
もし2024年大会で優勝を逃せば、次のチャンスは1年後、もしくは3年後。そんな思いを抱きながら、奥田さんは戦略を練った。
「ベテラン勢は豊富なネタを持っている。結局、そういう人たちが勝ち上がっていく。でも、そこに勝たなければ意味がない。だから、少しでもいいネタができたら磨き、新しいネタも作り続けるしかない。負けることもあるけれど、それでも挑み続けるしかないんです。
もし2024年の優勝を逃して3年目に入れば、強くなった1年目の若手に対して、自分も攻めのネタを用意できる。だからこそ『3年おきにチャンスが来る』という感覚でいました」
そして、その「3年おきのチャンス」を逃せば、次に挑めるのはまた3年後。
2024年、THE SECOND王者に。「6分漫才は給水所が必要」
奥田さんはTHE SECONDに出場している漫才師たちを分析し、流れを研究しながらネタ作りを進める中で、ある“余白”が必要だと気づいた。
「6分間の漫才の中で、ネタが弱くなる瞬間があると感じました。特に選考会では、観客の拍手笑いが起きると『これは落ちたな』と思うことがありました。漫才は勢いが大事で、拍手笑いが起こると流れが途切れてしまうからです。そこで、6分間の漫才には“給水所(休憩ポイント)”のような余白が必要なのではないかと考えました」
勢いを持続させるためには、ネタを余白が多めの寄席向けにしすぎてもよくないし、ハイテンションのまま押し続けるのも難しい。通常であれば、途中で息切れしてしまう。実際に2023年の決勝戦を見て、「勝負のカギは“給水所の作り方”にある」と確信した。
「第1回大会のマシンガンズは、その“給水所”が多く、うまくハマったように思います。一方、予選では囲碁将棋さんのようなテンションもありつつ、余白もある漫才がバランスよくハマっていました。漫才には “余白”が必要なんです。
ただ、それは単なる即興ではなく、“防衛本能”のようなものなんですよね。『このままだとスベる』と感じたときに、間を取ったり、ツッコミを変えたりして、流れを修正していくんです」
とはいえ、余白を作りすぎると、逆に流れが切れて息切れしてしまうこともある。結局、大会で勝てるかどうかは、1年間の積み重ねにかかっている。
奥田さんは、THE SECOND用に仕上げたネタを見て、「これでいける」と確信した。それでもなお、「余白」を意識しながら最後まで調整を重ねた。
「出し惜しみせず、持っているものをすべて出し切る。タイヤだけ持っていくんじゃなくて、ちゃんと走れる状態で挑まなきゃいけないと思ったんです」
ガクテンソクは2024年、決勝でザ・パンチを下し、2代目王者に輝いた。
金属バット、囲碁将棋、タモンズ…「THE SECOND経験者は強い」
ガクテンソクは2025年のTHE SECONDでは、本戦までの抽選会やトーナメントのMCを務めている。そんな奥田さんに、今大会の優勝予想を聞いた。
「今大会からは、M-1の常連である見取り図やモグライダーも参戦します。THE SECONDの出場経験こそありませんが、全国規模の大会で培った実力は大きなアドバンテージですし、モグライダーは6分の漫才で余白のあるTHE SECOND向きだと思います。
実際に、ギャロップさんが初代王者に輝いた背景にも、M-1出場の経験値が大きかったのではないかと考えています」
そんな中、奥田さんが本命に挙げるのは、THE SECOND出場経験者だ。
「2023年のファイナリストのうち、2024年も連続出場しているのは金属バットだけです。大会の流れをすべて経験していることが大きな武器になるので、今年も決勝の壁を突破したら金属バットは、特に力をつけているはず。
そのほかに注目しているのは、やはり過去に出場経験のある囲碁将棋とタモンズですね。悔しい思いをした芸人ほど強くなりますから。特に第1回大会のファイナルに出場して、昨年はファイナルに出ていない囲碁将棋は力を溜めているのではないでしょうか」
たしかな大会分析でTHE SECOND王者となった奥田さん。その観察眼から出された予想の結果はどうなるだろうか。
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前編は41歳で上京した奥田さんの40代独身生活の美学について深掘り
取材・文/橋本岬 撮影/高木陽春
奥田修二(おくだ・しゅうじ)
1982年3月3日、兵庫県生まれ。2005年、よじょうと「学天即」を結成。同年の『M-1グランプリ』にてアマチュアながら準決勝進出を果たす。2007年より吉本興業に所属。2013年の「NHK新人演芸大賞」演芸部門大賞、2014年の第49回「上方漫才大賞」新人賞、2015年の第4回「ytv漫才新人賞」優勝、第50回「上方漫才大賞」奨励賞など、受賞歴多数。
『何者かになりたくて』
奥田修二