
2025年2月、ドン・キホーテの実験的な新業態として渋谷にオープンした自動販売機専門店「ジハン・キホーテSHIBUYA店」。開業から1ヶ月が経ち、見えてきた利用者の反響や課題について、『ドン・キホーテ』を運営する株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(以下、PPIH)の各担当者に話を伺った。
新業態! 「ジハン・キホーテSHIBUYA店」の狙いとは?
今年2月20日にオープンした「ジハン・キホーテSHIBUYA店」は、ドン・キホーテが手がける体験型アミューズメント空間だ。
店内には、日本らしいアイテムやユニークなお土産、ここでしか体験できない限定商品や食べ物などを販売する13種類の自動販売機が並ぶ。
ドン・キホーテはすでに「MEGAドンキ渋谷本店」と「MEGAドンキ渋谷別館」という2店舗を渋谷に展開しているが、今回なぜ、さらに新たな業態を展開したのだろうか。
「どちらの店舗も訪日外国人観光客のお客様に大変好評をいただいており、いまだに高い来店数を維持しています。今回の出店は、そのような訪日外国人観光客のお客様の購買意欲をさらに刺激することを目的としています。
海外では自販機そのものが珍しい存在ですので、日本ならではの“自販機体験”を提供し、新たなインバウンド需要を開拓できないかと考えたところが今回の企画の出発点です。
過去に別店舗に設置したプロテイン自販機が話題になったこともありましたが、今回は訪日外国人向けの商品ラインナップを優先したため、プロテインの取り扱いは見送りました」(PPIH新規業態担当・佐藤大祐氏)
だが、オープンから1ヶ月が経過した現在、当初の想定とは異なり、Z世代の日本人女性の来店が目立つという。メインターゲットは訪日外国人だったものの、実際の客層は日本人と訪日外国人でほぼ半々の割合になっているそうだ。
ジハン・キホーテSHIBUYA店で現在取り扱う商品は約100種類。その中でも特に注目されているのが、訪日外国人から絶大な支持を集める「一蘭ラーメン」のカップラーメン自販機だ。
トッピングを自由にカスタマイズでき、イートインスペースもあるためその場で食べることもできる点が話題を呼んでいる。さらに、日本土産として定番の「キットカット」も販売されている。
しかし、実際の売上データを分析すると、意外な商品が人気を集めていることが判明したそう。
「ここ1ヶ月のデータから判明したのは、実店舗で売れている商品をそのまま自販機に導入しても、必ずしも“ウケる”とは限らないということでした。
実は、訪日外国人に人気の『一蘭ラーメン』や『キットカット』よりも、『生搾りオレンジジュース』や『ハローキティの袋詰めポップコーン』のほうが、売上は好調なんです。
特に『ハローキティの袋詰めポップコーン』は、サンリオキャラクターの海外人気とZ世代女性のキャラクター需要が相乗効果を生み、想定以上の売れ行きを記録しています」
ドン・キホーテの通常店舗では、匂いにつられてつい購入する“焼き芋”が人気商品となっているが、エンタメ要素のある商品が支持される傾向は、ジハン・キホーテでも共通しているようだ。
無人販売ならではの課題と対策
ジハン・キホーテは無人販売という特性上、いくつかの懸念点が浮かび上がったそうだ。
「店内で飲食可能なスタイルであるものの、スタッフが常駐しないため、ゴミの散乱や店内の清潔感が維持できるのか等を懸念していました。そこで、ゴミを捨てる行為自体をエンターテインメント化する試みとして『ごみくじ』を導入しました。
店内中央に、ドンペン(ドン・キホーテのキャラクター)がデザインされた赤いダルマ型のゴミ箱を設置。ゴミを捨てると1回おみくじが引ける仕組みです。
オープンから1ヶ月が経過しましたが、来店されたお客様がしっかりとゴミを捨ててくださるため、一定の効果を実感しています」(株式会社カイバラボ データコラボレーション部 藤森真由子氏)
また、無人販売であるがゆえに、商品の情報がスムーズに伝わるかどうかも課題だったという。
「決済方法はキャッシュレスに対応しており、大型タッチパネル式の高機能IoT自販機を2台導入しています。多言語対応の文字や音声ガイドを通じて、必要な情報を提供できる仕組みになっているため、現在のところ大きなトラブルは発生していません」
実験的な業態だからこそ、柔軟に進化が可能
ジハン・キホーテは実験的新業態とされているが、今後さらなる展開の可能性はあるのだろうか。
「この業態は、お客様の反応を見ながら試行錯誤を重ね、柔軟に進化させていくことを前提としています。現在はインバウンド需要を軸に展開していますが、自販機という特性を活かせば、ターゲット層に応じた商品やコンセプトに自在に変えていくことが可能です。
たとえば、ニーズに応じて、Z世代向けに特化した『キラキラドンキ』のような形態にシフトすることもあるかもしれません。
また、一定の成果が得られれば、このコンセプトを応用し、異なる市場や立地への展開も検討しています。今後はインバウンド需要をより強く取り込むため、今後はオリジナルブランドの強化や免税商品の拡充にも力を入れ、ドン・キホーテのブランド価値を世界へとさらに広げていきたいと考えています」(PPIH新規業態担当 佐藤大祐氏)
インバウンド需要を狙った今回の新業態。ドン・キホーテの今後の展開に引き続き注目したい。
取材・文/逢ヶ瀬十吾(A4studio)