
「fragment design」を主宰し、ラグジュアリーブランドからNIKE、スターバックスまで数多くのコラボレーションを手掛ける藤原ヒロシ氏。なぜ多くの企業が彼を求めるのか。
書籍『FRAGMENT UNIVERSITY 藤原ヒロシの特殊講義 非言語マーケティング』より一部を抜粋・再構成し、2018年から続くポケモンとのコラボレーションの誕生秘話を紹介する。本記事は2023年12月に行われた講義をまとめたものです。
藤原ヒロシ(以下藤原) デザイン集団「フラグメント fragment design」主宰。世界中の企業とのコラボレーションを手がけている
皆川壮一郎(以下皆川) クリエイティブディレクター。株式会社みんな代表(2023年時点では博報堂ケトル所属)
鹿瀬島英介(以下鹿瀬島) 株式会社ポケモン執行役員
ポケモンに無関心だったファッション業界
皆川 ではここからはゲストを一人お招きしたいと思います。株式会社ポケモンの鹿瀬島英介さんです。
鹿瀬島 よろしくお願いします。
皆川 結構長いんですよね、この「THUNDERBOLT PROJECT BY FRGMT & POKÉMON」のプロジェクトは。
鹿瀬島 2018年から今年(2023年)で5年ほど続いているので、長いですね。
皆川 すべての始まりは「ポケモンGO」だったわけですよね。「ポケモンGO」を知らない人はこの中にはいないと思いますが、これでポケモンの認知が広がった、ターゲットが広がった。数字的にはどれぐらいですか?
鹿瀬島 10億ダウンロードを超えているような状況です。ちょっと正確な数字は言えないんですが。
皆川 ヒロシさん、「ポケモンGO」は?
藤原 僕はポケモン世代じゃないのでやっていなかったんですけど、周りがみんなやっていたので、どんなものかと思って始めてみました。
皆川 鹿瀬島さんはその頃、次は何を仕掛けようかと考えていて、出した戦略がファッションだったということですよね。
鹿瀬島 そうですね。「ポケモンGO」によって初めてポケモンに触れたという人がかなり多くいらっしゃったと思うんですよ。なので、僕らの感覚としてはポケモンファンが多様化したし、さらに多層化した。
「ポケモンGO」って50代、60代の方もプレーされていたので、一気にタッチポイントが広がったという実感はありました。そして次の一手として、いろいろなファッションブランドの方々にお会いして、「何かやりませんか」という話をしていました。
皆川 感触はどうだったんですか。
鹿瀬島 ポケモンって子ども向けだよね、ということは結構言われましたし、話は聞いてくださるんですけど、「じゃあ、何をやるの?」っていうところがイメージできなかったみたいで。話は聞いてくれるけれども、そこから先に進まない、そんな感じでした。
皆川 ポケモンとファッションで何をやるの?という感じですか。
鹿瀬島 そうですね。
皆川 鹿瀬島さんは(藤原)ヒロシさんのことよくご存じだったんですか?
鹿瀬島 そうですね。10代、20代でファッションにのめり込んで、いろいろな雑誌でヒロシさんのことを目にしていたし、さっきグッドイナフの話が出ましたけど、自分もものすごく影響を受けていた人間なので、ファッションをやるなら誰だろうと考えたときに、実は真っ先に浮かんでいたのはヒロシさんでした(笑)。
皆川 で、意を決してオファーしたと。
藤原 僕はポケモン世代じゃないので、ほとんど知らなかったんです。最初は宝島社の知り合い経由できた話でしたよね。
鹿瀬島 そうです。
藤原 宝島社の知り合いが「興味ありますか?」と聞いてきて、友達とうーんと考えているうちに、ポケモンのしっぽにフラグメントの稲妻マークをそのままつけたらいけるんじゃない? という話になって。英語だとあれはサンダーボルト、何でしたっけ。ピカチュウのことをそういう…。
鹿瀬島 そうですね。しっぽがサンダーの形で、英語名で〝Thunderbolt〞というポケモンの技もあったりするので、そういう連想だと思います。
藤原 「そういう親和性もあるし、できるんじゃないの?」と言われて、手描きしてみて、これならいけるかもね、となりました。
狙うは、世界
皆川 ヒロシさんとお仕事で対峙したことのある貴重な存在として、第一印象はどういった感じだったんでしょうか。
鹿瀬島 ずっと憧れの人でしたし、まさか一緒に仕事ができると思っていなかったので、絶対に失礼のないようにしようと思って、すごく緊張しながらお会いしました。緊張していたことぐらいしか覚えていない。
藤原 鹿瀬島君の緊張はまったく感じませんでした(笑)。
鹿瀬島 それはヒロシさんがすごくいい雰囲気をつくってくださったからだと思います。
皆川 最初に約束したことが二つあったということですが、これは?
鹿瀬島 はい。〝From Japan to The World〞ということで、最初からグローバルでやることが前提になっていた、というのが一つですね。
皆川 大きく出ましたね。
鹿瀬島 大きく出ました。
皆川 何か勝算があったんですか。
鹿瀬島 いや、最初から風呂敷は広げていこうと。絶対に断られるだろうと思っていたので。
皆川 そしてもう一つが、「既存ファンにとらわれない」。
鹿瀬島 はい。でもこれは最初から決めていまして、ポケモンファンには響かないかもしれないが、その覚悟でいきたい、とヒロシさんにもお伝えしました。
なので、ポケモンのオウンドメディアってフォロワー数がすごく多いんですけど、いっさい、オウンドメディアにのせないという判断をしたんですね。ファッションの文脈でちゃんと「あり」と受け入れられることだけ考えてやろうというのは、最初に決めたことでした。
皆川 会社はよく理解してくれましたね。
鹿瀬島 そうですね。正直、ヒロシさんのことを知っている人はうちの会社にはほとんどいなかったですし…。
藤原 僕はいつも大きい企業だったり、レコード会社と仕事をしていて思うんですけど、始まりは税金対策でいいんです。
皆川 どういうことですか。
藤原 もし企業にお金が余っているんだったら「いつもと違うことをやっているな」と思ってもらえるくらいの規模感で僕と何かやるくらいがいちばんいいと思うんです。
最初から僕が出ていって、「これをやったらめちゃくちゃ売れますよ」とか「今までのファンと全然違う層がとれますよ」とか言うんじゃなくて、小さく、小さく。
0から1より、1から10に広げる
皆川 ただ、鹿瀬島さんが心配していたのが、「オリジナルポケモンつくりたい問題」です。確かにクリエイターであれば、誰だって世の中にないキャラクターを生み出したいという願望は強いと思います。
鹿瀬島 はい。たまにあるんです。ゼロから新しいポケモンを生み出したい、というようなことを大御所であればあるほどおっしゃいますね。そうじゃなくても、著名な方とお仕事をするときって、既存のポケモンをゼロから描き起こしてアートワークをつくりたいというのが普通なので、当然、ヒロシさんもそのようにリクエストされるんだろうなと思っていました。
皆川 これが問題になるということは、現実的にハードルが高いということですか?
鹿瀬島 はい、とても難しいです。負荷もかかりますし、そもそも何が出てくるかわからないまま待って、上がってきてもノーとなる可能性があるので、かなり厳しい部分ですね。
皆川 しかしその日の夜のうちに、早速ヒロシさんからデザインが届いたと。鹿瀬島そうですね。初めてお会いした日の夜にもうメールが来て、「こんなのをつくりました」という。
鹿瀬島 はい。もともと存在するアートワークなんですけど、そこにヒロシさんがアレンジを加えて送ってくれた画像ですね。
皆川 思いっきり変えたい、とはあんまり思わないんですかね、ヒロシさんは。
藤原 それってやっぱり、コラボレーションの話から外れちゃいますよね。できる部分にアドオンしていって、なおかつ色だけ変えるとかではなくて、何かを変える。
皆川 でも、ゼロからつくりたい人が多いんですよね、やっぱり。
鹿瀬島 そうです。だから、ちょっと心配していました。そう言われたらどうしようと思って。
FRAGMENT UNIVERSITY 藤原ヒロシの特殊講義
非言語マーケティング
藤原 ヒロシ 
ナイキ、ポケモン、スターバックス……世界の大企業は、なぜ藤原ヒロシを求めるのか?
90年代に「裏原宿」という世界でも類を見ないカルチャーを築き、その後はファッションの枠を超えて支持され、原宿のゴッドファーザーとして世の中に多大な影響を与えてきた藤原ヒロシ。氏の存在によって“ストリート”という曖昧な言葉に意味が定義付けられ、“コラボレーション”や“別注”など、それまでになかった言葉が世の中に浸透した。しかし、氏の作り上げたヒットやムーブメントの数々は認知されていても、その裏側にある知性、アイデアの作り方や育て方、人脈や、コミュニケーションのスタイルについては語られていない。
本書は、藤原ヒロシの仕事には本人も意図しない“マーケティング”が介在しているのではないか、という仮説のもと、歩んできた歴史や数々の仕事の事例を抽出し、それらを学術的に言語化して講義を行った架空の大学プロジェクト「藤原ヒロシの特殊講義 非言語マーケティング」の内容をもとに、一冊の講義録としてまとめたものである。
DAY1 文化人類学 -遊学史-
DAY2 社会学 -メディア論-
DAY3 情報学 -交友研究-
DAY4 経営学 -コラボレーション理論-
DAY5 建築学 -空間デザイン論-
DAY6 ケーススタディ -スターバックス コーヒー ジャパン-
DAY7 ケーススタディ -ナイキ-
DAY8 最終講義