藤原ヒロシがポケモンコラボ“最大のタブー”をクリアできた理由「黒いピカチュウ」はいかにして生まれたか?
藤原ヒロシがポケモンコラボ“最大のタブー”をクリアできた理由「黒いピカチュウ」はいかにして生まれたか?

ポケモンがなにかとコラボするときに最大のタブーとされているのが、体の色を変更することだという。だが2018年にスタートした藤原ヒロシとポケモンによる「THUNDERBOLT PROJECT(サンダーボルト プロジェクト)」では真っ黒なピカチュウが誕生し、おおいに話題を呼んだ。

その背景とは?

藤原ヒロシが歩んできた歴史や仕事の事例を抽出、それらを学術的に言語化して実際に2023~24年に行われた講義をまとめた、書籍『FRAGMENT UNIVERSITY 藤原ヒロシの特殊講義 非言語マーケティング』より一部を抜粋・再構成し「黒いピカチュウ」誕生秘話に迫る。

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本記事は2023年12月に行われた講義をまとめたものです

藤原ヒロシ(以下藤原) デザイン集団「フラグメント fragment design」主宰。世界中の企業とのコラボレーションを手がけている
皆川壮一郎(以下皆川) クリエイティブディレクター。株式会社みんな代表(2023年時点では博報堂ケトル所属)
鹿瀬島英介(以下鹿瀬島) 株式会社ポケモン執行役員

最大のタブーだった体色変更

皆川 見慣れたピカチュウの見たことない黒い姿というのは、どのタイミングで出てきたんですか?

鹿瀬島 初めの頃に打ち合わせして、すぐ出てきた案だと思います。

藤原 何ができるかを僕らも探りながらやったので。

皆川 ただ、体色変更は最大のタブーだった、と。

鹿瀬島 そうですね。ポケモンってもともとの設定で色がそれぞれ決まっていて、そもそも体色を変更しようということに思考が至らないというか、考えつかないので、これが出てきた瞬間は、正直どうしようって思いました。

皆川 でも、皆さんかっこいいとは思った。

鹿瀬島 そうですね。一緒にやっていたチームのみんなが、「めっちゃいいですね」と言ってくれたので、「さて、どうしよう」と。

皆川 ヒロシさん、これはどういうインスピレーションで?

藤原 僕は最大のタブーっていうことを知らなかったので、服をつくったときに胸に黄色いピカチュウがあるよりは、黒でラインだけで描かれているほうがいいなと思って。普通に黒いのにしましょう、みたいな。



皆川 コラボレーションでは設けられた制約から大きく逸脱することはやらないけれど、ギリギリを攻める、という話を以前にされていましたが、そういう気持ちもあったんですかね。

藤原 そうですね。ただ、その境界線がわからなかったので、自分でできる範囲で、なおかつ、しっかりピカチュウであることがわかるものに。

皆川 ということですね。ここで鹿瀬島さんが「暗闇にいるだけで、体色が変わったわけではない」と言い張った。

鹿瀬島 そうですね。体色を変更するということはルールを破ることになるので、いろいろなステークホルダーに、体色を変えることの理由を説明して納得してもらう必要がありました。

なので、ヒロシさんとお話ししているときに、「暗闇にポケモンたちがいるというシチュエーションだったらどうでしょう」と。「そうしたら、みんな黒くてもいいですよね」という話をしたことをすごく覚えています。

皆川 暗闇にいるだけ?

鹿瀬島 はい。その解釈で設定をつくり、ステークホルダーを説得して回りました。本当はもうちょっといろいろあったんですけど、突破したという感じですね。



皆川 鹿瀬島さんがすごいのは、ヒロシさんから提案されたアイデアの許可をその都度、ステークホルダーにとっていたということです。

鹿瀬島 任せられている部分はもちろんあるんですけど、本来あるべきルールを破ることについては、ちゃんと合意をとって進めていました。

藤原 ファッション業界だと、僕を言い訳にするというか、免罪符にして、「藤原ヒロシが言うんだったら仕方ない、やるしかないか」とか、「藤原ヒロシがわがままで、これができないならやらないと言うんです」となることが多いんですよ(笑)。

鹿瀬島 あとは、このプロジェクトが世の中に出たときに、その反響を見てみんな納得するだろうという。その算段だけでやっていきました。

〝真っ黒いピカチュウ〞が世界へ

皆川 このプロジェクトについては僕も知らないことがたくさんあったので、ちょっとお二人に解説していただきながら進めていきたいと思います。まずは2018年の秋にインスタグラムの投稿が始まりました。

鹿瀬島 そうですね。このためだけにアカウントをつくったんですが、素材が何もないので、ヒロシさんにいろいろ写真を撮っていただいてポストしていました。

皆川 ポケモン本体のインスタのフォロワーはどれぐらいいるんですか?

鹿瀬島 日本だけで百数十万人。グローバルだと数百万人はいると思います。

皆川 そんなにいるのに、新しいアカウントは0人。

鹿瀬島 0人です。



皆川 誰も知らないということですよね。

鹿瀬島 そうです。しかも、僕らのチームで運用していました。

皆川 いちばん最初に気づいたのはヒロシさん本人かもしれない、ぐらいの感じですか。

鹿瀬島 そうですね。

皆川 そして、最初から公約どおりに世界に出ていったのがすごいと思ったんですけど、これはどういった流れですか?

鹿瀬島 ヒロシさんとお会いしたのが2018年の6月だったんですが、「10月にニューヨークでハイプフェスト(HYPEFEST)っていうフェスがあるんだけど、ここに出す?」とすごくフランクに聞かれて、じゃあ、ここを目指しましょうかみたいな、そんなノリで。

藤原 タイミングがよかった。

皆川 タイミングをすごく重視されますよね、いつも。流れが単によかっただけですか? 

藤原 はい、本当にそれだけだと思います。ただ、最初から海外をとりたいという話だったので、ここだったら勝負できるかなと。

皆川 反響はどうだったんですか。

鹿瀬島 手前みそですけど、出ているブースの中ではいちばん人が多かったんじゃないかって、その場にいらっしゃった人たちには言っていただきました。

物は売っていなくて、皆さんただ見に来ているだけなんですけど。

皆川 トラヴィス・スコット※も来たらしいですね。

藤原 ふらっと来たんです。

鹿瀬島 そう、ふらっと。僕らが誰もいなくて、現地のスタッフだけのときに来て、「このぬいぐるみが欲しい」と言って断られたらしいんです。その後にヒロシさんに連絡がいったようで、「トラヴィスが黒いピカチュウを欲しがっているよ」と僕に連絡がきました。

皆川 2017年の時点では、ファッションの人は誰もポケモンに見向きもしなかったのに。

鹿瀬島 そうですね。僕らも想像していなかったです。

藤原 ちなみに僕もその頃、トラヴィスのことは知らなかったんです。

皆川 何と。

藤原 あっ、カツアゲされるのかと思ったら、お辞儀をされて、〝I am Travis.〞って。

突然そう言われても誰かわからなかったんだけど、隣にいた人に「知らないんですか?トラヴィス・スコットですよ」って。ピカチュウの話もちょっとして、じゃあという感じで。

※トラヴィス・スコット 
ラッパー・プロデューサー・ソングライター・デザイナー・ファッション・アイコン 藤原と同じく数多くのブランドとのコラボレーションを手がける

FRAGMENT UNIVERSITY 藤原ヒロシの特殊講義
非言語マーケティング

藤原 ヒロシ
藤原ヒロシがポケモンコラボ“最大のタブー”をクリアできた理由「黒いピカチュウ」はいかにして生まれたか?
FRAGMENT UNIVERSITY 藤原ヒロシの特殊講義 非言語マーケティング
2025年2月26日発売2,200円(税込)四六判/344ページISBN: 978-4-08-790194-8

ナイキ、ポケモン、スターバックス……世界の大企業は、なぜ藤原ヒロシを求めるのか?

90年代に「裏原宿」という世界でも類を見ないカルチャーを築き、その後はファッションの枠を超えて支持され、原宿のゴッドファーザーとして世の中に多大な影響を与えてきた藤原ヒロシ。氏の存在によって“ストリート”という曖昧な言葉に意味が定義付けられ、“コラボレーション”や“別注”など、それまでになかった言葉が世の中に浸透した。しかし、氏の作り上げたヒットやムーブメントの数々は認知されていても、その裏側にある知性、アイデアの作り方や育て方、人脈や、コミュニケーションのスタイルについては語られていない。
本書は、藤原ヒロシの仕事には本人も意図しない“マーケティング”が介在しているのではないか、という仮説のもと、歩んできた歴史や数々の仕事の事例を抽出し、それらを学術的に言語化して講義を行った架空の大学プロジェクト「藤原ヒロシの特殊講義 非言語マーケティング」の内容をもとに、一冊の講義録としてまとめたものである。

DAY1 文化人類学 -遊学史-
DAY2 社会学 -メディア論-
DAY3 情報学 -交友研究-
DAY4 経営学 -コラボレーション理論-
DAY5 建築学 -空間デザイン論-
DAY6 ケーススタディ -スターバックス コーヒー ジャパン-
DAY7 ケーススタディ -ナイキ-
DAY8 最終講義

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