
今季、FA入団の甲斐拓也が正捕手として好スタートを切った巨人にあって、いまだ1軍出場ゼロなのがベテラン捕手の小林誠司(35)だ。“打てない捕手”の印象に加え、菅野智之の移籍も逆風となっているが、見限るのはまだ早いのではないか。
守備力・リード面での価値は今もトップクラス
小林が過小評価される要因は、“打てる捕手”が重宝される昨今の球界において、“打てない捕手”という印象があまりにも強く根づいてしまった点にある。ではなぜそのレッテルを張られてしまったのか。
それは通算406本塁打を放った名捕手・阿部慎之助の後継者として、現実的ではない水準の期待が課されてしまったことが一因として考えられる。さらに、2020年代に入ってからは打撃型捕手である大城卓三も結果を残している。
このふたりに挟まれたことが“打てない捕手”のイメージを首脳陣やファンに植えつけてしまったと筆者は見ている。さらに大城よりも4歳若い岸田行倫も昨シーズンはキャリア最多の88試合に出場しており、小林の立場はさらに危ういものになっている。
しかし、けっして数字に表れない“見えない力”こそが、小林誠司の真価である。
「リード」「フレーミング」「ブロッキング」「スローイング」……すべてのディフェンススキルにおいて、今なお大城や岸田を明確に上回っている。このような守備型捕手は試合終盤にこそ輝きを放つのだ。
さらに、投手陣との信頼関係が厚いことも小林の特徴だ。代表的な例が“スガコバコンビ”を組んだ昨年までのエース・菅野智之とのバッテリーだ。菅野が2024年に復活した背景には、小林の的確なリードと精神面でのサポートが大きく影響していたという声も多い。
小林は2017年にDeNAから移籍してきた山口俊ともバッテリーを組み、2019年の最多勝や最多奪三振などのタイトル獲得に貢献した。
甲斐の加入で層が厚くなった今こそ小林を1軍に
今季から甲斐拓也が移籍してきて、正捕手の座についている。甲斐と言えば、球界トップクラスの肩やリーダーシップ、意外性のある打撃で常勝ソフトバンクの扇の要を何年も務め、侍ジャパンの常連でもあった男だ。
小林と同じくディフェンシブな捕手だが、数多くの実績を積み重ねてきたことから考えても、正捕手として起用するのは納得だ。
しかし、近年のプロ野球ではどんなに優れた捕手でも、フルシーズンを一人で戦い抜くには限界がある。甲斐自身も年齢的に身体への負担や疲労の蓄積、シーズンを通じての波は避けられない。そうした現実を考えれば、「正捕手の後ろを誰が支えるのか」は、むしろチーム戦略上のカギとも言える重要な要素になる。
そこで今、改めて注目されるべきなのが小林の存在だ。前述のとおり、小林の守備やリード面での安定感、経験値や投手陣との信頼関係は、総合力で評価されている岸田を上回っていると見られる。
また、小林はクローザー登板時の守備固めでも安定した仕事をしてくれるのはもちろん、1点を争う試合終盤の勝負所での落ち着き、配球の的確さ、打者の意図を読む洞察力もベテランならではのものを持っている。
その点から考えても、ベンチに小林が控えているだけで、首脳陣の選択肢が広がるのだ。シーズン終盤、甲斐に疲労が見られたり、バッテリー間の流れが悪くなったときにこそ、小林は機能するだろう。
年齢的にベテランとなったからこそ、少ない出場機会で全力を尽くす“職人型捕手”として、チームに貢献してくれるはずだ。いや、むしろ少ない出場機会でコンディションも整っており、短期決戦の際に高水準の守備パフォーマンスを発揮してくれることが期待される。
甲斐の総合力、大城の打撃力、そして小林の守備力という三者三様の特徴を活かし、戦況に応じて柔軟に起用していくことができれば、巨人は12球団でも屈指の捕手ローテーションを構築できるだろう。
現在、小林はファームでの調整が続くが、今シーズンの巨人にとって、彼のような守備のプロフェッショナルを1軍に置くことは必要不可欠だ。
取材・文/ゴジキ