ベストセラー作家が「ちゃんと話、聞いてるの?」はNGと断言する理由…無表情でうなずきもしない、反応の薄い部下とどう付き合えばいいのか
ベストセラー作家が「ちゃんと話、聞いてるの?」はNGと断言する理由…無表情でうなずきもしない、反応の薄い部下とどう付き合えばいいのか

あなたの職場に、話を聞くときにうなずかない若者はいないだろうか。表情に乏しく、何を言っても反応が薄い。

しかし「ちゃんと聞いているの?」と叱責でもしようものならハラスメント扱いされかねない――。しかし、彼らの脳の中で起こっていることを理解すれば、うまく付き合うことができるという。

 

黒川伊保子氏の著書『対話のトリセツ ハイブリッド・コミュニケーションのすすめ』から抜粋・再構成して、“話を聞かない若者”の対処法を解説する。

うなずかない若者が増えている

実は、表情の交換において、最近、世代間でコミュニケーション・ギャップが起こり始めている。

1997年生まれを境に、コミュニケーションの反射反応(うなずいたり、表情がとっさにそろったりするミラーニューロン反応)が薄い人が増えているのである。つまり、上の世代にしてみると、笑いかけても表情が動かず、何かを伝えてもうなずいてくれない「うなずかない若者」「話しかけにくい若者」が増えているってことになる。

このことは、私が新卒で社会に出た年に、さまざまな企業で、いっせいに言われ出したことである。新人の反応がなさすぎて、新人教育がつらい。言わなくてもわかるはずの、当たり前のことがわからない、などなど。

実際、私の知人の娘さん(1997年生まれ)が、会社の同期に「上司に、話聞いてるのか、と言われたことのある人」というアンケートを取ったら、90パーセント以上がYESだったと教えてくれた。

さかのぼって、1997年生まれが小学校に入ったときには、教育現場で「一年生の反応がクールになった」と話題にもなったのだという。一年生といえば、朝礼で校長先生が「一年生のみなさん」と声をかければ、いっせいに「はい」「はい」「はいっ」と競うように答えたものだったのに、それが見られない、と。

明らかに、日本全体のコミュニケーション反応に、世代間の段差が生じている。



ちなみに、1997年生まれのすべてがそうというわけじゃない。集団のコミュニケーション反応の低下は、3割くらいの変化で全体に広がる。うなずこうとしたとき、隣の人がそうしないと、うなずくのを躊躇するでしょう? これもミラーニューロン効果。1人が両脇の人を巻き込めるのである。

うなずかない若者は、人類の進化系

1997年生まれ以降のすべての人に、コミュニケーション反応の低下が見られるわけじゃないし、このあと詳しく述べるけど、コミュニケーション反応は弱いからダメというものでもない。利点もあるのである。

とはいえ、世代全体の雰囲気であることは間違いない。このことは、おそらく、幼少期にミラーニューロンを使う機会が、1997年以前に生まれた人たちのそれに比べて減ったことに起因すると思われる。

ミラーニューロンは、赤ちゃんのうちに人生最大に働く。これを使って発話し、歩き出すのである。でも大人になっても、すれ違う人の所作や表情にまでつられていたら危なくてしょうがないので、大人になるまでに、その活性レベルを劇的に落とすわけ。そして、脳では、使わないと信号のコネクションが薄れる。使わない記憶が薄れていくように。

つまり育った環境で、あまりミラーニューロンを使わなければ、不活性度が大きくなる。SNSやゲームの隆盛で、親と子、子ども同士が面と向かってコミュニケーションする時間が減っている以上、ミラーニューロンの活性レベルにも、当然、差は生じるはず。ちなみに、1997年、何が起こったのか調べたら、携帯のメールサービスが始まった年だった。

ならば、これはもう人類の進化である。ミラーニューロンが従来ほど活性化していない世代は、進化型なのである。

「話、聞いてるの?」は死語と心得よ

「話、聞いてるの?」「やる気あるの?」「なんでやらないの?」は、時代の死語と心得よう。相手は、聞いているのだけど、上の世代にはそう見えないだけ。やる気はあるのだけど、上の世代にはそう見えないだけ。この質問、話を聞いている者、やる気のある者には答えようがない。

また、ミラーニューロンの活性度が違うと、「なんでやらないの?」という不満も生まれる。ミラーニューロンは、他者の動きを自分の神経系全体で感じ取るので、ミラーニューロン活性レベルが高いと、何も言われなくても、他人の動きに気づいて「あ、それ、私が運びます」のように手を添えることができる。ミラーニューロンの活性レベルが高い上司は、自分なら黙っていても片付けるのに、なんでこの新人はやらないんだ? と感じるわけ。

反応の弱い部下に仕事をしてもらうコツ

「なんでやらないの?」も、言われたほうは意味がわからない。指示されていないのにやらないことを、叱られる意味がわからないのである。

ときには、「私の職場では、誰も仕事を教えてくれないのに、やらないと叱られる。ハラスメントを受けています」と申請してくることもある。

反応の弱い部下を持っても、「話、聞いてるの?」と詰め寄らないで。話を聞いているのか気になったら、メモを取るように指導しよう。「私、メモを取らなくても大丈夫なんで」と言われたら、「職場では、メモは、相手のためにするもの。話を聞いてますよ、安心してくださいのジェスチャーです」と教えてあげてほしい。

「なんでやらないの?」と思ったら「これ、あなたがやるべきことよ、覚えておいてね」と言えばいい。直感的な最初の気づきがないだけで、やるべきことを教えてあげれば、やがて、関連した、ほかのことにも気づくようになる。「気が利かない」は最初のうちだけ。少し根気が要るが、ちゃんと育ってくれる。

ミラーニューロン活性レベルが高いと、気が利くし、仕事の飲み込みが速い。一方で、人の表情が気になって、自分の意見が言えなかったりする。



ミラーニューロン活性レベルが低いと、気は利かないが、自分の意見を躊躇なく言えるし、国際舞台でのびのびと活躍したり、明るくタフな営業パーソンにもなれる。

一概にどちらがいいとは言えないのである。日本人は民族としての特性を勘案するに、ミラーニューロン活性レベルの高い民族だった。気が利くし、匠の技の暗黙知(ことばにならないコツ)の伝承もうまい。けれど、一方で、忖度の国とも呼ばれている。もしかすると、1997年以降に生まれた世代は、国際標準に近づいているのかも。

文/黒川伊保子

対話のトリセツ ハイブリッド・コミュニケーションのすすめ

黒川伊保子
ベストセラー作家が「ちゃんと話、聞いてるの?」はNGと断言する理由…無表情でうなずきもしない、反応の薄い部下とどう付き合えばいいのか
対話のトリセツ ハイブリッド・コミュニケーションのすすめ
2025/4/3990円(税込)216ページISBN: 978-4065393666

上司と部下、先輩と後輩、取引先、夫婦、親子……、いつも会話がすれ違うのは、じつは対話の様式が大きく違っているから。累計100万部超の「トリセツ」シリーズ産みの親が、満を持して書き下ろしたコミュニケーションの秘訣。

たとえば会社で部下として上司に話しかけるとき、家庭で妻として夫に話しかけるとき、親として子どもに話しかけるとき、人は無意識に置かれた立場によって2つの対話の様式を使い分けている。そしてそのとき、人はもう一方の対話様式のことに思いがいたらない。
なぜコミュニケーションはすれ違うのか、なぜ相手にイラっとするのか、なぜわかってもらえないと嘆くのか、すべてはこの対話様式の違いから始まっている。
長年の感性研究から見出された「タテ型」と「ヨコ型」という2つの神経回路。

どちらも人類の生存に必須の2つの神経回路の違いが対話様式の違いにもつながっている。
その対話様式の違いを意識し、場面によってハイブリッドに使い分けをすることで、コミュニケーションが変わり人間関係も劇的に改善。全国民必読の対話の教科書。

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