
大阪・関西万博の隣接地で、4月24日に統合型リゾートの起工式が行われた。いよいよ日本初となるカジノリゾートの建設が始まったのだ。
統合型リゾートには年間2000万人が訪れるとされており、経済波及効果は1兆1400億円に及ぶという。しかし、その前哨戦とも言える万博の来場者は目標に届いていない。早くも政府や日本維新の会肝入りの事業に暗雲が漂っている。
目標を下方修正した万博のチケット販売
大阪・関西万博は、4月23日に総来場者数が100万人を突破し、記念セレモニーが開かれた。開催前は冷めた目線が多かっただけに、想定外の盛況ぶりにSNSなどでは称賛の声も聞こえてくる。
大阪府の吉村洋文知事は4月21日の会見で、「空気が変わっている。今までのように批判一辺倒ではなくなっている」とコメントし、来場者数のさらなる伸びに期待感を示している。
しかし、事前の計画に比べると来場者数は各段に少ない。万博は184日間の開催期間中で、2820万人の来場者を予想していた。1日当たり15.3万人だ。10日で153万人。ところが、オープンから10日の実際の来場者数は約92.8万人だった。
しかも、前売り券の販売目標は1400万枚だったが、実績は969万枚止まり。団体旅行予約分を含めても1200万枚程度に留まった。会期中のトータルでの目標販売枚数は2300万枚だが、吉村知事は「損益分岐点である1800万枚を目標にして進めたい」などと下方修正するありさまである。
カジノの経済波及効果は年間1兆円を超えると予想しているが、その目算の土台となっているのが、年間2000万人という来訪者だ。しかし、この見通しに甘さがあることは、今回の万博がすでに物語っているのではないか。
全国10競馬場の総来場者数の2倍の人が夢洲カジノを訪れる?
年間2000万人の来訪者うち、カジノの利用者数は1600万人と見込んでいる。そして想定では7割が国内在住者だ。つまり、1120万人の日本人がカジノを利用するとの計画だ。
本当に、たった1つの施設にこれだけの人が訪れるのだろうか?
JRAの全国10競馬場の総来場者数は年間513万人、全国5箇所のオートレースの総来場者数は84万人ほどだ。夢洲のカジノには、それを遥かに上回る人が押し掛けるというのだ。
仮にこの1120万人のうち6割が大阪府の住民だとすると、月1回カジノを訪れる府民は56万人という計算だ。
こうした数字を見ていくと、カジノの来訪者見通しは甘いと言わざるを得ないのではないか。
しかも、カジノにはギャンブル依存症対策が設けられている。マイナンバーカードで本人確認をし、1週間に3回まで、4週間で10回までという厳しい入場制限が課されているのだ。加えて、日本人や国内在住の外国人に対しては6000円の入場料も徴収する。ギャンブル依存症対策として必要な措置ではあるが、集客という側面だけで見ると足かせとなっている。
5200億円という収益計画も海外の施設と比較すれば眉唾ものである。シンガポールを代表する「マリーナベイ・サンズ」のカジノの開業3年目の収益は2332億円だ。10年経過後でも3413億円に過ぎない。マカオの「ザ・ベネチアン・マカオ」のカジノは3年目が1882億円、10年目が3180億円である。
夢洲のカジノ構想はスロットマシンの台数が6400台であり、上記の海外施設と比較すると2~3倍多い。
巨額投資で許されなくなったカジノ目標の未達
日本維新の会は万博のインフラ整備費用として、9.7兆円を国に要望した。
この計画は170事業で構成されており、そのうち92事業にかかる9.4兆円分の費用便益分析をすると28.8兆円のリターンに達する、というのが維新の会の言い分だ。もちろん明言はしていないが、年間1兆1400億円ものカジノによる経済波及効果がその中核にあるだろう。
インフラ整備計画では、道路の耐震対策や河川の強靭化など安心・安全な万博運営費に2.5兆円、道路や鉄道の整備など夢洲へのアクセス性の向上に7580億円、万博会場周辺の下水道整備などインフラ整備に810億円が投じられる。少なくとも、合計3.3兆円もの巨額費用が、万博とカジノのセットプランに直接かかっているに等しい。
カジノ施設運営の中核を担う大阪IR株式会社は、カジノリゾートの世界的な企業であるMGMとオリックスがそれぞれ40%を出資し、少数株主が20%という構成だ。日本政府が全額出資するJRAのような形態とは異なる完全な民間法人である。集客が不十分だったとしても、政府は「民間の自主性に任せる」などと突き放すこともできるわけだ。
しかし、夢洲開発に多額の税金を投じている以上、政府は人集めに尽力しなければならないだろう。今回の万博のようにしれっと目標を下方修正することは許されない事業だ。
取材・文/不破聡 写真/shutterstock