
自身で射精するのが難しい障がい者を専門に、性風俗サービスを展開する小西理恵さん。今年2月には、その経験談をベースにしたセミフィクション漫画『障がい者専門風俗嬢のわたし』も発売された。
障がい者が風俗店の利用を断念する理由
──まず、障がい者専門の性風俗とは、どのようなサービスなのでしょうか。
小西理恵(以下同) 業態としては、風営法の許可を取得した、本番(挿入)なしの派遣型のサービスです。
一般的なデリバリーヘルスとほぼ同じ流れですが、通常の性風俗店と異なるのは、手だけで射精を行なう「射精介助コース」や、射精を伴わない外出がメインの「デートコース」を設けているところです。
最も利用が多いのは、一般的なデリバリーヘルスと同じ内容の「ヘルスコース」ですが、射精に限らず食事や外出をして女性と接点を持ちたい方もいます。障がいの度合いもさまざまな分、幅広い要望に対応できるよう、利用コースを複数そろえています。
──一般的な性風俗店だと、障がい者の方は対応してもらえないのでしょうか。
当店の派遣外のエリアからのお問い合わせに対しては、一般の風俗店の仲介も行なっていますが、実際、断られてしまうケースはかなり多いです。
最も多い理由としては、身体的な理由からプレイ前にシャワーを浴びるのが難しい方が衛生上の問題からお断りされてしまうことです。
加えて、大半のラブホテルが、バリアフリー対応していないことも大きなハードルです。プレイ中に尿意を催したときに対応できなかったり、トイレが狭くて車椅子で入れなかったり、そもそも受付時にホテルから断られてしまう場合もあります。
もちろんラブホテルのなかには、入室時に手伝ってくれる従業員の方もいらっしゃいますが、その理解は本当に人それぞれなので、寛容な性風俗店やラブホテルともコネクションを増やしている最中です。
母が、息子の子どもを妊娠するケースも
──小西さんはなぜこのようなサービスに携わることになったのでしょうか。
2019年頃、私が祖母の介護をしていた経緯から、福祉領域に興味を持つようになり、その一環で障がい者のグループホームに見学に行きました。
その際、「(障がいのせいで)何をしても楽しくないと話す方がいる」という話を、支援者の方から聞きました。私は風俗店に在籍していた過去もあったので、「女の子と遊んで発散したっていいのでは」と思っていたんです。
ただ、調べていくうちに、障がい者を受け入れる性風俗店が限られている現状を知り、性的サービスを提供したいと思うようになりました。その後、私自身が障がい者専門の風俗店のキャストとして勤務するようになったんです。
──実際に働き始めていかがでしたか?
働き始めて数ヶ月が経った頃、とある疑問を感じました。利用客の大半が身体的な障がいを抱える方ばかりだったのです。逆に言えば、重度の知的障がいを抱えている方など、情報にアクセスできない人が水面下に多数いるのではと感じました。
そこで、懇意にしていた介護教員の先生に相談したところ、「知的障がいを抱えた息子の性処理をお母さまが行なっている」という衝撃的なケースを聞きました。
しかも息子さんが感覚過敏だったために、コンドームを途中で外してしまい、過去に息子さんの子どもを妊娠した経験もあると聞きました。
お母さまからしたら、息子の性欲を発散しなければ、どこかで息子が性犯罪にはしってしまうかもしれない……そう懸念され、悩みを相談できる場もなかったそうです。
この話を聞いたとき、より幅広い支援ができないかと、2020年9月に現在の風俗店を開業しました。
──障がい者の方のご家族や支援者から依頼を受けることもあるのでしょうか。
はい。ご家族からの依頼で問題の深刻さを感じるのは、当事者のお姉さんや妹さんからの相談が集中していることです。障がいのある兄弟の性について理解をしたくても、どこまで踏み込んでいいのか分からないという声が多いです。
今年2月に発表された、私の経験談をベースにしたセミフィクション漫画『障がい者専門風俗嬢のわたし』内で、重度の知的障がい者である弟を持つ姉から「思春期の弟が自慰行為のようなことをしている」と相談が寄せられているエピソードがあります。
ソーシャルワーカーに相談しても具体的な回答を得られず、ほかの家族も気のせいだと見て見ぬふりをする。
上記はセミフィクションですが、実際に障がいを持つ家族の性処理について葛藤する家族がいるのは事実です。家族間で距離が近いからこそ性欲がある現実を直視したくないとか、理解してあげたいけど介入の線引きが分からないとか、性処理をしたら家族である関係が壊れてしまうなどなど…。
こうした葛藤を抱える家族の受け皿が少ないのも現実で、当店がその一助になれればと願っています。
取材・文/佐藤隼秀 写真/本人提供
障がい者専門風俗嬢のわたし (シリーズ立ち行かないわたしたち)
あらい ぴろよ (著)、小西 理恵 (企画・原案)
もう見ないふりも関係ないふりもできない――
長い間、蓋をされてきた「障がい者の性」の現実や偏見に立ち向かう――。
『マツコの知らない世界』などを手掛けてきたディレクター三谷三四郎氏によるYouTube番組「街録ch あなたの人生、教えて下さい」に出演し800万回再生を記録した一般社団法人「輝き製作所」代表で現役風俗嬢の小西理恵氏と『虐待父がようやく死んだ』『女性の死に方』など、センセーショナルなテーマを描いた作品に定評のある漫画家・あらいぴろよ氏によるセミフィクション。
【あらすじ】デリヘルで学費を稼ぎ、念願の看護師になった主人公つくしは、ある動画配信で「障がい者専門の風俗嬢」の存在を知る。そこで語られていたのは、あることがないことにされタブー視される「障がい者の性」の実態だった。
【解説】坂爪真吾(ホワイトハンズ・NPO法人風テラス創業者)