〈吹奏楽部・増える廃部〉2年で200団体減少、部活から地域活動へ…でも「移行するには予算が1ケタ足りない」「過疎地にターゲットを絞って」全日本吹奏楽連盟トップが指摘する課題
〈吹奏楽部・増える廃部〉2年で200団体減少、部活から地域活動へ…でも「移行するには予算が1ケタ足りない」「過疎地にターゲットを絞って」全日本吹奏楽連盟トップが指摘する課題

未曾有の少子化、教員の働き方改革――時代の荒波の中で、いま日本の「吹奏楽部」が危機に直面している。そうした中、国が主導する形で休日を中心に部活動を民間クラブに広げる「部活動の地域展開」が進められているが、さまざまな問題が浮上しているという。

吹奏楽専門誌『バンドジャーナル』編集部への取材を踏まえて、日本の吹奏楽部の行く末について、全日本吹奏楽連盟の石津谷治法理事長に話を聞いた。

この2年間で加盟団体が200団体も減少

――教員の長時間労働の是正や少子化、さまざまな影響で学校や地域によっては吹奏楽部の存続が厳しい状況にあると聞きますが、現在の吹奏楽部が置かれている状況についてうかがえますでしょうか。

石津谷理事長(以下、同)
 廃部や統廃合、また地域展開に伴う地域バンド化の影響を受け、全日本吹奏楽連盟の加盟団体数も、この2年間で小学校・中学校・高校・大学・一般職場をあわせて200団体ぐらい減っています。

中高はまだそれなりの団体数があり、減ったといってもそれほど多くはありませんが、小学校はクラブ活動をさせてもらえないところが増え、団体数が激減しています。ただし、楽器人口は確実に減っているのが現状です。

――そうした現状を踏まえ、令和4年2月から「文化部活動の地域移行に関する検討会議」が始まり、現在、国の主導で部活動の地域展開が進められています。その会議にも参加されているとのことですが、いかがでしたか。

令和4年度の会議では私はまず「欧米型のクラブ活動を目指すのか」と聞きました。欧米では地域にサッカーや音楽などのクラブがあり、学校が終わったら親が送迎をして子どもが活動するという形をとっており、学校の部活動がないんです。

それに対し、「それを目指すわけではないが、少子化等の現状に鑑みた時に、地域の力を借りなければいけない」というお話でした。連盟でも確かに地方部は深刻な状況だったので、その時の地域移行に協力することは述べました。

ですが、予算が取れていなかったのです。当時、私は最低でも4~500億円はないと移行するのは難しいと伝えましたが、実際の予算は10億や20億円という規模でした。

――先日取材した吹奏楽専門誌『バンドジャーナル』編集部は、吹奏楽部の地域移行に関して、「お金」と「練習場所」の課題を挙げられていました。

そうですね。あと、指導者の問題もあります。地域で指導者を確保しなければいけません。そこで文科省が示してきたのは「兼職兼業」制度の利用です。

希望した教員に土日分の報酬を払い、運営に関わってもらうというものですが、当初文科省はこの制度について、残業時間の合計が月45時間以内の者とするというルールを設けました。それでは、希望した教員が携われない可能性が出てくるんです。

結局、「指導者」「お金」「場所」の3点を解消していかないと、地域移行はうまくいきません。これについては、令和4年度の段階から強く言っていました。

あと、都市部と地方の過疎部では、状況が大きく異なります。過疎部はとにかくお金が必要ですし、早く地域移行を進めないといけない。

一方で、都市部は「まだうちには50人いるし、先生の数も多いから、誰かが対応できるだろう」という空気感もある。

つまり、都市部と過疎部にすごい温度差が出てきているんです。

――おっしゃったように、「都市部と過疎部の温度差」はきっと想像以上のものがあるのでしょうね。

はい。ですから、「全国一律に地域移行を進めましょう」というのは現実的ではありません。むしろ国は、本当に吹奏楽をやりたくてもできない過疎地にターゲットを絞って、まずはそこを重点的に支援すべきなんです。

一方、都市部ではまだうまく機能しているケースもある。それを一律にして進める改革は避けるべきだと、私たちは提言していました。

ただ、国の方針としては、どうしても「全国一斉にやる」という発想になってしまう。「人口の少ない地域だけ先に始めて、他は後で」ということには当初、消極的な印象も受けましたが、令和7年度の実行会議では地域の実情等に合った望ましいあり方を見い出して進めても良いことになりました。

――とはいえ、現場では差し迫った課題が山積していますよね。

そうなんです。文化庁やスポーツ庁が頑張ってくれている成果で、実際は少しずつですが予算も増えています。

ただ、それでも地域移行に本当に必要な金額にはほど遠い。

だからこそ、来年から始まる6年間の改革実行期間の中で段階的に予算を増やしていって、特に財政基盤の弱い地域を国がしっかり援助する——。そうでないと、この改革はうまくいかないと考えています。

 「日本の文化予算は韓国の3分の1」

――そもそも、日本の文化予算は世界的に見て非常に水準が低いと聞きます。

先日あるシンポジウムに出席したのですが、元衆議院議員のご挨拶の中で、日本の文化予算は韓国の3分の1だというお話がありました。

教育予算もそうです。2024年9月16日の報道によれば、日本の公的支出に占める教育費の割合は8%です。これはOECD加盟国36カ国中、ギリシャ、イタリアに次いで下から3番目という低さです。

国としては、「子どもたちにとって文化活動やスポーツ活動は大切であるから、この活動は続けなければいけない」と言います。ですが、やはり予算・人材面などでかなり後れをとっているという現状認識で会議は進められています。

――改革の背景にある教員の働き方改革についてはどのようにお考えでしょうか。

連盟としては、教員の働き方改革をしっかり進めていただきたいという考えです。部活が教員の多忙化に関係していないとは言いませんが、部活だけが要因ではありません。

最近は保護者対応や生徒指導、SNSに関する問題など、昔にはなかったようなさまざまな問題が出てきています。

ほかにも教員の多忙化の要因として、配当教員数の少なさが挙げられます。今、教員の長期欠席者が増えています。文科省の「令和5年度公立学校教職員の人事行政状況調査について」という資料によれば、令和5年度の教職員の精神疾患による休職者数は、全国の公立の小中高を合わせて7119人です。

その原因を突き詰めないと、部活を地域展開したからすべてが解決するというわけではありません。

――全国の自治体ではどういった動きがありますか。

たとえば熊本県熊本市では、顧問と副顧問に報酬を支払い、地域と連携して学校部活動を継続する、という方針で動いています。

埼玉県ふじみ野市は、部活動自体はなくさず、平日でも施設が空いている分に関しては地域に開放し、地域の要望があればどんどん使ってもらうという方針です。

「なぜそこまでやるのかと言われれば、子どもたちの夢を実現させるためです」 

――吹奏楽に親しむ子どもたちのモチベーションの一つに大会があるかと思いますが、どういった改革を進めていらっしゃいますか。

地域展開の会議の中で、大会のあり方を再考するという課題も出されました。

これまでは「職場・一般」部門以外は学校単位の加盟・出場しか認められておらず、例えば中学生だけで構成された地域バンドでも「職場・一般」部門に出なければなりませんでした。

でもそれはおかしいから、修正してほしいという要望がありました。

すぐに改定に着手し、学校同士の合同バンドや地域バンドが、中学校の部門などにも出場できるようになりました。

実際に去年、合同バンドが全国大会に出てきたり、地方の地域バンドが支部大会に出てきたりしています。

さらに今、高校の部員減少を踏まえ、高校部門の改定に向けて動いています。たとえば2つの高校が合同バンドを組んで出場したりできるように、門戸を開く準備を進めています。

――大会の審査基準も改定したとうかがいました。

金賞の数を増やすなど、音楽を奏でた人たちも納得できるような方法を模索した中での改定を行ないました。でもこれが未来永劫続くわけではありません。

実際に、去年実施して若干問題も出てきています。様子を見つつ、得られた事実からもう一回検証し直して、さらに改革していこうと考えています。

吹奏楽連盟としては、時代の流れに乗りつつも、さまざまなアイデアを出し、工夫を重ねながら、吹奏楽活動を守っていきたいと強く感じています。なぜそこまでやるのかと言われれば、子どもたちの夢を実現させるためです。

ベースになるのは子どもたちです。

それを私はいつも自分の肝に銘じています。我々はやっぱり夢先案内人にならないといけないと思っていますから。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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