
アメリカのドナルド・トランプ大統領が2期目の政権運営をスタートさせてから、早くも4ヶ月が過ぎた。トランプ関税問題の影響で世界中が大混乱に陥るなか、アメリカ国内ではトランプ氏にまつわる“メイク”が話題になっている。
トランプ政権の支持者や要人に共通する「MAGAメイク」
トランプ氏といえば、第1次政権の大統領就任前から「Make America Great Again」(アメリカを再び偉大な国に)をキャッチフレーズにしてきた。これは、各単語の頭文字をとって「MAGA」(マガ)と略され、今ではトランプ大統領支持者そのものを指す言葉としてもつかわれている。
ここからさらに派生し、昨今、アメリカで話題になっているのが、“トランプ支持者の女性がしがちなメイク”を意味する「MAGAメイク」だ。
主な特徴は、髪はブロンドのロングヘアーでセンターパート(分け)と、眉毛などがしっかり濃く描かれた派手めのメイク。同国発祥のバービー人形にたとえられることもしばしばだという。
MAGAメイクの女性として名高いのは、大統領夫人のメラニア氏や長女のイヴァンカ氏。閣僚では、トランプ氏の弾劾裁判で弁護人を務めた側近のパム・ボンディ司法長官や、ブロンドヘアーではないものの、著書で飼い犬の射殺を告白して話題を呼んだクリスティ・ノーム国土安全保障省長官らが代表的だといわれている。
特に、かつてのノーム氏はミディアムヘアーにナチュラルめのメイクで、どちらかといえばカジュアルな印象であった。
ところが、現在はハイトーンの髪色にロングヘアーのセンターパートへと変貌し、メイクもナチュラル風からは一変。その“イメチェン”ぶりは、トランプ氏に接近するうちにMAGAメイクになったとも揶揄されるほどだ。
こうしたMAGAメイクに対し、アメリカのSNSユーザーの間では、〈すべての保守的な女性はこのルックス〉〈MAGAガールは巨大なドレスを着て、金髪で、厚化粧で、ラインストーンをつけた女性を思い浮かべる〉〈彼女らは誰かに「このルックスを真似るべきだ」と言われるのでしょうか?それとも自然にこうなるのでしょうか?〉といった声が上がっている。
とりわけ、TikTokでは、女性ユーザーを中心に「maga makeup」「republican makeup」(共和党員のメイクアップ)というハッシュタグを付けたメイク動画が多数投稿されるなど、新たなネットミームといえるほどバズっているのだ。
日本ではあまり話題になっていないこのMAGAメイクには、いったい、どのような背景や特徴があるのだろうか。
メイクまでも「再び偉大」に? ポイントは「80年代」「強い印象」
YouTubeチャンネル「ALISAのメイク講座」を運営するALISAさんは、さまざまなメイク講師の資格を保有するほか、ロサンゼルスにメイク留学をした経歴の持ち主だ。日本のみならず、アメリカ国内のメイク事情にも詳しいその立場から、MAGAメイクについて「簡単に言うと『80年代風のレトロなメイク』です」と解説する。
「『Make America Great Again』と言うだけあって、トランプ氏はアメリカが元気だった80年代を懐古していて、支持者の間にも『この時代のメイクをして、共和党やトランプ氏の集会に行こう!』というムーブメントがあるんです。
伝統的な女性らしさや意志のはっきりとした女性像として、保守的な美意識を表現し『正統なメイクは誇らしくて美しい』と主張したいのだと思います」(ALISAさん、以下同)
ただ、TikTokのMAGAメイク動画には、“反トランプ派”による投稿も多いそうだ。
「動画を見ると、反対派が『共和党員やトランプ支持者って、こうやって無理して時代に合わないメイクをしてるよね』と、揶揄する目的でアップしているものも多いんです。
アメリカも最近は、馴染みのいいカラーメイクや素肌感を残したナチュラルメイクが主流なので、MAGAメイクが『流行に逆らった時代遅れのメイク』だと強調すべく、80年代に流行ったマット質感のベースメイクや赤リップを、あえてオーバーに施したりしています。
実際、最初から下地の量が多かったり、黄色味がかったファンデーションで厚塗りを表現したり、わざと雑にメイクしている投稿者も多いですね」
続いて、MAGAメイクのポイントを解説してもらった。ALISAさんによると、“意志の強さ”を印象づける、濃いアイメイクと鮮やかなリップが重要になるそうだ。
「アイシャドウやリップ、全体的に濃いカラーを使っているのが特徴ですね。女性は意志の強さを印象づけたいとき、眉やリップラインを濃く描くのですが、MAGAメイクも赤いリップで唇の輪郭を縁取り、しっかりと仕上げている人が多いんですよ。
これは80年代の流行であると同時に、共和党のテーマカラーともマッチしているので、“クラシックで強い女性”“昔の伝統を重んじる姿勢”が表現されています。
コントゥア(輪郭)やチークも、しっかりと入れることで濃く仕上げ、『誰にも負けない強い女性』を演出しています」
プロが「MAGAメイク」を実践! 衝撃のビフォーアフター
MAGAメイクにおいては、眉も重要なポイントだという。
「眉は顔の印象を左右するパーツなのですが、MAGAメイクの方を見ると、濃いだけでなく角度をつけ、強い意志を表現しているのがわかります。
メイクの動画も、最初に眉から描き始めている方が多いんですよ。メイクというのは強調したいパーツから進めるので、これも眉を強調したい表れでしょう」
せっかくなので、解説したポイントをふまえて、実際にMAGAメイクをしてもらうことにした。
まずこちらは、メイクを行なう前のALISAさん。
そして、MAGAメイクを施したものがこちら……。
こうして見ると、たしかに、アイシャドウやリップの濃さがポイントになっていることがわかる。真っ赤なリップは、ナチュラルめのメイクが主流の昨今ではあまり見かけず、力強さが強調されている印象を受ける。
イメージとしてはかなり変化したように感じられるが、そのぶん特別なメイク道具が必要なのだろうか。この点についてたずねてみると……。
「メイクのテクニックが古いだけなので、特別なアイテムは必要ありません。ドラッグストアや100円ショップで売っているようなプチプラでもできちゃいます」
ALISAさんはさらに、TikTokで反トランプ派がアップしている“わざとオーバーにしたMAGAメイク”もしてくれた。
先ほどと比べると、ハイライトやチークが目立ち、全体的なメイクがより濃くなっているのがおわかりだろうか。
MAGAメイクは80年代風の派手さが特徴だが、これは、年代的にも特徴的にも、日本でバブル時代に流行したメイクと似ているかもしれない。MAGAメイクを日本風にたとえるなら、バブリーなメイクをあえて今している感覚に近いのだろうか。
アメリカではバズっているMAGAメイク動画だが、現状、日本人ユーザーがアップしている様子はほとんど見受けられない。果たして、この流行は海を越えた日本にも広がるのだろうか。
取材・文/久保慎 集英社オンライン編集部ニュース班