“僕たちは悪ですか?”風営法改正で色恋営業禁止に…歌舞伎町のトップホストに聞いた本音「恋愛ごっこは禁止できない」「詐欺か本気かは心の中をのぞいてみないとわからない」
“僕たちは悪ですか?”風営法改正で色恋営業禁止に…歌舞伎町のトップホストに聞いた本音「恋愛ごっこは禁止できない」「詐欺か本気かは心の中をのぞいてみないとわからない」

5月20日に衆議院本会議で可決された改正風営法。その中でも特に注目を集めているのが、「色恋営業の禁止」というワードだ。

とはいえ、今回の改正により、疑似恋愛的な会話や営業が完全に禁止されるわけではない。歌舞伎町のホストたちは、この改正風営法をどう受け止めているのか。路上で活動するホストや有名ホストたちの声を取材した。 

 

改正風営法では「色恋営業」が禁止に

近年、ホストクラブの利用客が高額なツケ払い(売掛)によって借金を抱え、その返済のために性風俗店を紹介されるといった、一部の悪質なホストの営業が社会問題となっている。

こうした実態を受け、悪質ホストの規制を目的とした改正風営法が、2024年6月28日より施行される。

今回の改正では、以下の6つのポイントが盛り込まれている。

まず1つ目は、「風俗営業不適格者の排除」だ。これは、親会社などが営業許可を取り消された法人や、警察による立入検査後に営業許可証を返納した者などに対して、新たに営業許可を与えないとする内容である。

2つ目は、いわゆる「色恋営業の禁止」として注目されている項目だが、正確には「客の正常な判断を著しく阻害する行為の規制」である。これは、客の恋愛感情につけ込み、高額な飲食代金を要求するケースや、客が注文していない商品を一方的に提供するといった行為を禁止するものだ。

3つ目は、高額な飲食代金を売掛金(いわゆるツケ払い)として設定する行為や、その売掛金の回収を口実に女性客を風俗店へ斡旋(あっせん)する行為の禁止である。

4つ目は、ホストが女性客を風俗業者に紹介し、業者から紹介料を受け取る行為――いわゆる「スカウトバック」と呼ばれる行為の禁止だ。

5つ目と6つ目は、そのようなスカウトバック行為を行なったホストと風俗業者双方に対する罰則の強化だ。

具体的には、拘禁刑または100万円以下の罰金が科されるほか、経営者個人に対しては最大3億円の罰金刑が科される可能性がある。

なかでも注目を集めている「色恋営業の禁止」について、現場のホストたちはどのように受け止めているのだろうか。取材班はその実態を探るべく、新宿・歌舞伎町を訪れ、彼らの声に耳を傾けた。

歌舞伎町のホストは「いきなり接客スタイルを変えるのは違和感ある」 

6月某日、週末の歌舞伎町で取材班は50人近いホストに声をかけた。しかし、「チッ」と舌打ちして足早に立ち去る者や、「店にも関わることなんで、なんも言えないです」と取材を断る者がほとんどで、いずれも口は堅かった。

そんな中、唯一取材に応じてくれたのは、某大手グループ店に所属する20代のホストだった。彼は次のように語る。

「“色恋禁止”ってワードだけが一人歩きしていて、条文の意味が正確に伝わってないですよね。今回の改正法は、完全に色恋禁止なわけじゃない。なので、うちの店では上から『色恋感情を利用して脅したり、“タワーしないなら関係切るよ”みたいなことを言ったりするのはダメ』って言われました。

でも実際、僕らって女の子たちの応援で成り立ってる仕事じゃないですか。だから、いきなり接客スタイルを変えるのも、逆に違和感あるんですよね」(20代男性)

次に話を聞いたのは、歌舞伎町を中心に全国30店舗を展開する大手ホストグループ「冬月グループ」の冬月本店初代No.1で、現在は同グループの副社長を務める「みとなつ」氏だ。

みとなつ氏といえば、昨年12月に改正案が国会に提出された際、自身のX(旧Twitter)で「アホかこいつら。

じゃあホストもキャバ嬢も誰ともデートもセックスも出来ないね」と怒りをあらわにして話題となった人物だ。彼は現在、従業員たちに対してどのような指導を行なっているのだろうか。

みとなつ氏によれば、「法案成立以降、特に何か(お店のホストに)注意喚起をしたわけではない」という。

「ただし、当然ながら暴力や恐喝行為がないよう、引き続き指導は徹底しています。また、結婚詐欺にあたるような発言については注意喚起していますが、そもそもそこまで手の込んだ営業をしているホストは、歌舞伎町でもあまりいないと思います。

ホストとお客様の間にある恋愛感情や恋愛関係は、切っても切り離せないもので、男女である以上、完全になくなることはありません。『それが本当の恋愛感情なのか、それとも詐欺なのか』という区分は、結局のところ、当人の心の中をのぞいてみない限りわからない。だから、判別は不可能だと思っています。なので、実際には誰もそこまで気にしていないし、注意のしようもないんですよね」(みとなつ氏)

今回の法改正は、「色恋営業そのものを禁じる」というものではない。

問題視されているのは、客の感情に乗じて不当な働きかけを行なう行為であり、たとえば「客が飲食をしないと、キャストとの関係が破綻することになると告げること」や、「キャストが降格や不利益を被らないためには、その客の飲食が不可欠であると告げること」などが該当する。

とはいえ、疑似恋愛的な関係が生まれたり、性的な一線を越えたりしたあとに、ホストから売上を理由に関係の破綻をほのめかされれば、多くの女性客は「応援しなければ」という心理に追い込まれてしまう可能性がある。

みとなつ氏は、そのあたりの定義をどう考えているのだろうか。

「性的な一線を越えるかどうかも含めて、すべては個人の自由だと思います。だからこそ、今後もそうした関係がなくなることはないし、それを一律に注意するような(ホストクラブの)グループも現れないでしょう。

ただし、私個人としては、結婚をほのめかしその感情を利用するような営業や、強引な会計へと誘導するような明らかに悪質な行為については、決して行なわないよう徹底的に指導していきます」(みとなつ氏)

「色恋がなくなったら、ただのカフェと同じ」 

次に話を聞いたのは、過去に年間売上2億円超えを記録し、2024年にはTikTokライブで年間18億円もの売上を叩き出したトップホストの「プリンスこうや」氏だ。 

彼が今年6月にオープンさせた「CLUB Princess」では、業界では異例ともいえる「ホストと女性客のLINE交換禁止」というルールを打ち出した。その背景には、過去に起きたある失敗が関係しているという。

「昨年1月にオープンしたばかりの店舗が、18歳未満の女性を入店させたことで風営法違反となり、営業停止処分を受けて閉店せざるを得ませんでした。今となっては言い訳にしかなりませんが、その女性は身分証を偽造して入店していたようです。

“トー横”界隈で補導された際、所持品検査でスマホの中身まで確認され、うちの従業員とのLINEのやりとりが証拠となって摘発されました。年齢確認を徹底していたつもりでも、偽造された身分証で入店されたら防ぎようがありません。

だからこそ、次に店を出すときは『LINE交換禁止』をコンセプトにしようと決めていたんです」(プリンスこうや氏)

また、LINE交換禁止をコンセプトにしたのには、次のような意図もあったという。

「お客様とのLINEのやりとりは、ある意味ホストの仕事の一部。でも、営業時間外にまで踏み込んで、女性客のメンタルをケアするような営業を続けるのは大きな負担ですし、法改正後はそれ自体がリスクにもなりかねません。

もちろん、LINEでのやりとりが、今回の法案にひっかかるような証拠として扱われることも避けたいという思いもあります。僕らとしても、以前のように店ごと摘発されるようなことになったら、本当にたまったもんじゃないですから」(プリンスこうや氏)

では、肝心の「恋愛感情を利用した営業」については、どのように考えているのか。

「別に、うちの店で『色恋禁止』なんて言ってませんよ。自由恋愛も恋愛ごっこも、全然アリです。ホストだってNo.1になるために必死なんですから。

お客様がホストのために頑張ってお金を使ってくれて、そのうえで性行為を求めてくるなら、“むしろ抱け”ってスタンスも変えるつもりはありません。性行為なんて、ただのスキンシップですし。それを求めてくる女性側からしたら、そういう関係がなくなったら、もうただのカフェと同じじゃないですか」(プリンスこうや氏)

とはいえ、女性客が「恋愛感情を利用され、より多く稼ぐために風俗で働かされた」と訴えた場合、今回の改正法のもとでは、ホスト側は非常に厳しい立場に立たされることになるだろう。その点については、どう考えているのか。

「正直、昔は僕も女性客に『もっと(お金)使えない?』って言ったことがあります。それに、お客さんから『もっと稼ぎたいから、いい風俗店紹介して』って頼まれて、スカウトを紹介したこともあります。

でも、今回の法改正以降は、そういう行為は完全にNGです。

その点だけは、従業員にもはっきりと伝えていますし、僕自身も今はスカウトとの関係を一切絶っています」(プリンスこうや氏)

では現在、プリンスこうや氏自身は色恋営業をどう位置づけているのか。

「疑似恋愛っぽさを求めてくる女性に対しては、ある程度そう接することもあります。でも、今の僕はアフターに行く時間すらないので、実際にお客様と関係を持つことはしていません。あくまで従業員に対して指導しているだけです。

ホストだって、誰かを不幸にしたくてやっているわけじゃない。ただ、自分の売上を伸ばすことに必死なだけ。だからこそ、従業員たちには“常識の範囲内で営業すること”を徹底して伝えています」(プリンスこうや氏)

取材中、歌舞伎町のホストクラブの看板の中でも一際目立っていたのは創業18年の老舗「シンスユーグループ」の看板に映し出された「僕たちは悪ですか?」の文字。創業者のゆうし氏は、この文言をどういう意図で作ったのか。

「ホスト=悪質と一括りにされてしまいがちですよね。実際『今日生きるために働く』っていう社会のレールから外れた奴が集まりやすい業界でもあるから。かつての僕もそうでした。でもホストとして働く中で意識が変わりました。

そんな真面目に真摯に働く奴もいてるんです。みんな悪ではないということを僕が代弁したかった」

改正風営法の施行により、ホスト業界とそこに集う女性たちの関係性は、果たして健全な方向へと変わっていくのだろうか。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班 

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