
いわゆる「中居問題」で浮き彫りとなったフジテレビの問題点。その解決策として、ホリエモンこと堀江貴文氏は「サブスクの強化によって『広告収入』という昭和の時代から続く一本足打法から脱却しなくてはいけない」と提言する。
同社と因縁のある彼が思いの丈を明かした『フジテレビの正体』(宝島社)より一部抜粋、再編集してお届けする。〈全2回のうち2回目〉
スポンサーの顔色だけうかがうことを止めよ
フジテレビにまず求められることは「自分の価値に気づく」ことだ。
フジの機会損失の一例を挙げよう。いまは非常に人気のある『孤独のグルメ』というテレビ東京の番組がある。原作はコミックだが、これは『SPA!』というフジサンケイグループの出版社である扶桑社の雑誌に連載されていた。
当然、映像化の話はまずフジに持ち込まれたわけだが、フジ側は「地味だね」と見向きもしなかったという。そして企画はテレビ東京に流れて、結果は見ての通りである。自分たちの持っている「宝の山」の価値に気づいていない象徴的な例だ。
僕が最近、ネットフリックスで観たドラマのなかに『やまとなでしこ』がある。フジテレビが2000年に制作した松嶋菜々子主演のドラマだが、平均視聴率が26・4%とドラマ史上に残るヒットを記録した作品だ。
いまでも観たいと思うユーザーは多いはずだが、地上波では再放送されない。なぜかというと、このドラマが終わった後に、刑事事件を起こし有罪判決を受けた押尾学が出演しているからだ。
「コンプライアンス」上の理由で地上波放送には出演できない俳優も、ネトフリならできるという構図だが、実はそのコンプライアンスというのも実体がないルールなのだ。
中居氏の問題で軒並みスポンサーが撤退した後の2月24 日、フジテレビは『国民が選ぶ! 志村けんの爆笑ベストコント30』という番組を放送した。
ここで話題になったのが、何度も薬物事件で逮捕されている田代まさし氏がボカシもなく登場していたことである。
田代氏は長らく、フジテレビから存在を消されていた。志村けんのバラエティ番組では重要な役回りを演じていたにもかかわらず、事件を起こしてからは一切、画面に映してはもらえなくなった。
しかし、ここにきて突然の復活である。結局、犯罪タレントを出演させないというのはスポンサーへの忖度に過ぎないわけで、逆に言えばスポンサーのいない番組であれば、何の障害もないというテレビ局の基準が、図らずも露呈されたわけだ。
前科があるからといってテレビやラジオに出演できないという法律はない。フジとは規模が違うが、僕が経営しているラジオ局のCROSS FMでは現在、元参議院議員で有罪判決を受けたガーシー氏が番組を持っている。要は経営陣の判断次第なのだ。
よく言われる話だが、番組は作品であって、作品に罪はない。視聴者としても、田代まさし氏やピエール瀧氏をどうしても見たくないという人は少ないだろう。
地上波では再放送NGの番組でも、FODでは十分可能なのだから、今後は後者の考えを地上波にも当てはめればいいのである。
僕は最近、日清食品のCMに起用された。僕も服役経験があるわけだが、起用にあたって、それを問題視しないという考えの大手企業もあるわけだ。
何があってもナショナルクライアントが最優先、その方針が果たして時代に合っているのか。フジテレビはよく考えるべきだと思う。
広告収入からの脱却の鍵はサブスク強化
フジテレビが持つ価値は、過去の番組にとどまらない。これまで構築してきた番組制作能力、サプライチェーンとしての機能は一朝一夕に入手できるものではなく、それはサブスク展開においても非常に有利なポイントになる。
現在、ネットフリックスのオリジナルドラマは非常に大きな予算をかけている。おそらく、地上波のテレビと比べ3倍、4倍のコストをかけているはずで、日本のクリエイターは、本来の価値より高く買われていると言ってもいい。新興のネットフリックスにとって現状、武器となるのはカネの力しかない。
昔のように給料も上がらなくなったテレビ局には「ネトフリに転職できないかなあ」などとボヤいている社員もいるというが、フジテレビにはそこまで高いコストをかけなくても良質な番組を作るノウハウや人間関係があり、それはネトフリが逆立ちしても勝つことのできない強みなのである。
フジテレビは、サブスクの強化によって「広告収入」という昭和の時代から続く一本足打法から脱却しなくてはいけない。
今回のフジテレビ問題で、他局から「意見をお聞きしたい」とお声がかかり、番組に出演したことがある。そのとき僕はこんな内容のことを話した。
「これまでお付き合いでフジテレビに広告を出してきたスポンサー企業も、今回の一件で撤退したのだったら、今後はもう出す必要がなくなったのではないですか」
そうしたらADが顔を真っ青にしてこう言ってきた。
「堀江さん、そういうことは言わないでください……」
おいおい、フジだけじゃなくて君らもそうなんだよ。何もスポンサーを捨てろと言っているのではない。スポンサーの顔色だけをうかがう世界は、もう消えていくことを分かってほしい。
仮にスポンサーが離れても、テレビ局と企業の付き合いが完全に切れるということではない。むしろそこから生まれるチャンスもあると僕は考えている。
そもそも、スポンサー離れの根底にあるものは地上波の弱体化である。
長年、CMを出稿してきた企業も、地上波における広告効果の測定が難しくなっていることを受け、オウンドメディア(自社で運用するメディア)に軸足を移すケースも最近では珍しくない。トヨタ自動車の「トヨタイムズ」などが好例だ。
ただ、一般の企業にはそのオウンドメディアをどう運用していくか、いまはまだノウハウがない。その点、テレビ局は映像で何をどう伝えるか、最大に効果を上げる方法を熟知している。
僕は、テレビ局がただ単に「広告を出してください」とお願いするのではなく、企業と組んでオウンドメディアの構築サポートに回り、そうした専門の部署を作って人材を配置し、収益をあげられるシステムを作ればいいと思うのだが、テレビマンはプライドが高いせいか、そうしたことはあまりやりたがらないようだ。
眠らせている知的財産の発掘と活用
フジテレビとグループ全体が保有するIP(知的財産)も、今後の収益の柱となり得る大きな資産だ。このIPに関して言えば、FODと同じでフジが本腰を入れて取り組んでこなかったため、宝の持ち腐れとなっていた感があった。
もっとも、フジ内部でも資産活用の必要性という認識はあったのだろう。2024年10月、フジはFCP(フジ・コンシューマ・プロダクツ)という合同会社を設立し、遅ればせながらIP活用の本格展開に乗り出している。
いまは中居氏の問題の陰に隠れてしまってはいるが、きちんと機能すれば経営を支える大きな柱になることは間違いない。
フジの清水賢治社長は、アニメ『Dr.スランプ アラレちゃん』『ドラゴンボール』『ちびまる子ちゃん』『ゲゲゲの鬼太郎』『幽☆遊☆白書』『みどりのマキバオー』『こちら葛飾区亀有公園前派出所』といった、フジテレビが手がけたアニメの多くに関わっており、業界に精通している。
こうしたIPの活用には明るいはずで、その点は今後のフジにとって明るい材料のひとつと言えるかもしれない。
前述のFCP設立時には、会社の設立趣旨としてこんな説明があった。
「ガチャピン、ムックをはじめ、タケちゃんマンや仮面ノリダー、バカ殿、ゴリエなど、フジテレビはいままで多くの人気キャラを生み出しました。これを強みとし、FCPは自社保有のキャラクターを活用したIP 事業を展開。そしてその価値を最大化するライセンスビジネス分野を強化していこうという目的で設立されました」
実際、フジは『めざましテレビ』の〝ちいかわ〟などの売れるコンテンツを持っているし、古くは『トリビアの泉』の〝へぇ~ボタン〟、『脳内エステIQサプリ』の〝モヤッとボール〟などのアイテムを商品化し、収益につなげている。
ただ、フジの持っているIP全体を見渡すと、それらの成功は「たったそれだけ?」という評価でしかないのだ。
ガチャピン、ムックはその代表例だが、予算を潤沢に使えた時代の番組から生まれたキャラクターは、国民的な知名度を持っているものが多く、その価値は非常に高い。
現在、世界でもっとも売上金額の大きいIPコンテンツは「ポケモン」で、2位が「ハローキティ」だ。その後は「くまのプーさん」「ミッキーマウス」と続くが、ポケモンやハローキティの売上は世界で10兆円を超えている。強力なIPはそれほど大きな収益を上げる潜在能力があるということだ。
パチンコ・パチスロ機の開発・販売を手掛けるフィールズが「ウルトラマン」の円谷プロダクションを買収し、子会社化してIP活用に成功しているように、時代は古くても知名度のあるIPの価値は落ちない。
フジが眠らせているIPをどう発掘し、活用していくか。これは最優先で取り組むべき事項である。
文/堀江貴文 写真/Shutterstock
フジテレビの正体
堀江貴文