「飲酒後のコーヒー、焼酎のコーヒー割はオススメできない」実は「医薬品」であるカフェインの摂取のコツと、驚くべき効果
「飲酒後のコーヒー、焼酎のコーヒー割はオススメできない」実は「医薬品」であるカフェインの摂取のコツと、驚くべき効果

集中力が高まる、記憶力が高まる、眠気がおさまる……カフェインには様々な効果が確認されている。そういった効能を活かし、ある「医薬品」にも配合されていることをご存じだろうか。

一般に広まっている健康知識の真実を東大教授が科学的根拠に基づいて解き明かした『よく聞く健康知識、どうなってるの?』より抜粋・再構成して、その意外な効果とNGな摂取の仕方について解説する。

実はカフェインは「医薬品」

「昨日レポート課題を二つ仕上げなきゃいけなくて、ほとんど寝てないの。講義中寝落ちしないように、今朝エナジードリンクを1本飲んできたの」「今日は、語学の小テストが1限からあるので、気合いを入れるためにブラックコーヒーを3杯飲んだから、ちょっと気持ち悪い」「コーヒーや栄養ドリンク剤って記憶力を向上させるんだって⁈」、学期末になると学生たちのこんな会話を耳にする機会が増えます。

それらの会話を聞いていて、「疲れがタモレば、ユ○○ルだ!」「ファイト!一発!」「24時間戦えますか?」といった栄養ドリンク剤のCMキャッチコピーがふと頭の中で蘇ります。

そこで筆者の研究室の学生たちにこれらのキャッチコピーを知っているか聞いてみたところ、「聞いたことはありますが、働き方改革が叫ばれている今では、そんなキャッチコピーはブラックですよ」と即答されました。

ただ、「疲れているときや集中したいとき、また風邪をひいているときには、コーヒーやエナジードリンク、栄養ドリンク剤をたまに飲むことがあります。でも、体調や飲む量によって気分が悪くなったり、友人のなかには、ほんのわずかなコーヒーですら気分が悪くなる人もいます」という答えもありました。

コーヒーやお茶、お酒、そしてたばこは、世界の三大嗜好品と呼ばれます。古くから、コーヒーやお茶の摂取によって、眠気がおさまったり、集中力が高まったりすることは経験的に知られていました。そのため、コーヒーやお茶に関する研究の多くは、主な成分であるカフェインの睡眠や覚醒、記憶力や運動能力への影響などについて焦点が当てられていました。

カフェインは、ドイツの化学者フリードリープ・フェルディナント・ルンゲによってコーヒーから単離されました。ちなみにコーヒーの有効成分を抽出してみるようにルンゲに進言したのは、ドイツの詩人ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテだったともいわれています。

カフェインは、コーヒー豆以外に茶葉(緑茶、ウーロン茶、紅茶)やカカオ豆に含まれています。

またカフェインは苦いため、風味付けの食品添加物とともにエナジードリンクや栄養ドリンクに添加されています。さらに、風邪薬や酔い止め、頭痛薬や鎮咳去痰薬(咳を鎮め痰を喉から排出しやすくする薬)にも配合され、医薬品としても用いられています。

たとえば、粉から淹れたコーヒー100ミリリットル中には、60ミリグラムのカフェインが含まれています。同量の煎茶には20ミリグラム、紅茶には30ミリグラムのカフェインが含まれています。エナジードリンクや栄養ドリンク剤、眠気覚まし用飲料のカフェイン濃度には幅があり30─300ミリグラムとなっています。一方で、頭痛薬や鎮咳去痰薬には、製品によって異なりますが、1回の摂取量あたり80─100ミリグラム程度含まれています。

カフェインを「解毒」するしくみ 

お茶やコーヒーに含まれているカフェインですが、食品などから抽出・精製されたものは、医療用医薬品として使用され、劇薬にも指定されています。カフェインは、摂取後素早く大部分が体内に吸収されます。ただ体内に吸収されるスピードには個人差があり、速い人では30分で血中濃度が最高値に到達しますが、遅い人では120分かかります。私たちのさまざまな臓器には、血管の中を流れる毒物などの有害物質が血流を介して臓器内に容易に流入してこないようにするために調節するしくみがあります。

このしくみを血液関門と呼び、脳、胎盤、乳腺、精巣に血液関門があります。しかしながら、カフェインはこれらの関門を容易に通過します。そのため、脳に届いて作用します。

また乳腺にも届くため、母乳を介して乳児がカフェインを摂取することもあります。

私たちが毎日摂取する食事に含まれる栄養素は、消化管から肝臓をつなぐ門脈を介して肝臓に輸送されます。そして、肝臓に存在する何百種類もの酵素によって分解され、分解されて得られた物質を用いて他の物質の産生を行います。これらの一連の過程を代謝と呼びます。

一方で、肝臓には、私たちの体にとって有害な薬剤や食品添加物、細菌などの病原体も運ばれ、無毒化が行われます。また、今回取り上げたカフェインも肝臓で無毒化されます。この一連の過程を解毒と呼びます。この解毒は、肝臓にある薬物代謝酵素、シトクロムP450(CYP シップ)によって行われます。このCYPは、異物を解毒して、水に溶ける物質へと分解し、尿として排出するために日々活躍しています。

ヒトには約60種類ものCYPが存在します。カフェインはそのうちのCYP1A2によって分解されます。CYP1A2によって分解されカフェインの血液中の濃度が半減するまでの時間は、約4時間だといわれていますが、これには個人差があり、2─8時間程度だと考えられています。

また、CYP1A2はエタノールの代謝、つまりお酒の代謝・解毒にも重要なはたらきをしています。酔いざましにコーヒーを飲むことも多いかもしれませんが、実は飲酒後のコーヒーは、エタノールの分解だけでなく、カフェインの分解を遅らせることになるため、避けるべきです。

ましてや、飲酒しながらコーヒーを飲む、焼酎のコーヒー割などはいちばんよくありません。一方、たばこに含まれるニコチンにはCYP1A2遺伝子の発現を誘導する作用があるため、習慣的に喫煙をしている人はカフェインの解毒能力が高くなっています。ヘビースモーカーといえば、コーヒーをたくさん飲んでいるイメージですが、その裏にはこのような理由があったのです。

文/坪井貴司

よく聞く健康知識、どうなってるの?

坪井 貴司 , 寺田 新
「飲酒後のコーヒー、焼酎のコーヒー割はオススメできない」実は「医薬品」であるカフェインの摂取のコツと、驚くべき効果
よく聞く健康知識、どうなってるの?
2025/3/282750 円(税込)280ページISBN: 978-4130634113「○○は健康によい」「××を食べるとヤセる!」――その健康情報、ほんとに正しいですか? 世の中に広く流布している、食事、栄養、運動、体に関する話題を取り上げ、科学的な根拠や理論を紹介しながらわかりやすく解説。『UP』で好評を博した連載、待望の書籍化!
編集部おすすめ