
石破茂総理は、7月の参院選の自民党の公約に、物価高対策の一環として国民一人あたり2万円の現金給付案を盛り込むと発表した。しかし、選挙目当ての露骨な「ばらまき」との批判が噴出。
「どうせやるにしても、2万円という金額はあまりにケチすぎます」
「決してばらまきではなく、本当に困っている方々に重点をおいた給付金を公約に盛り込むよう検討を指示した」
石破総理は6月13日の会見でそう語り、参院選の目玉公約として国民1人あたり一律2万円の現金給付案を掲げた。子どもと、住民税非課税世帯の大人には、さらに1人2万円を加算するという。ただ、露骨すぎる“選挙対策”に歓迎ムードは乏しい。
「これまで財政規律の観点から、野党が求めるような減税はできないし、現金給付もなしだと説明してきた。いまさら有権者にどう説明すればいいのか……」
石破総理の“変節”に、そう苦言を呈するのは、自民党のベテラン参院議員だ。確かに、野党が消費減税や現金給付を求める中、石破総理は一貫して否定的な立場をとってきた。
たとえば、4月14日の衆院予算委員会では、現金給付や減税の是非を問われ、「選挙目当てのばらまきをすることは考えていない」と強調。その後も、「日本の財政はギリシャより悪い」などと、物価高対策をするにしても財源が乏しい現状を強調してきた経緯がある。
石破総理は会見で、現金給付の財源については「税収動向などを見極めながら適切に確保し、赤字国債に依存しない」と語り、2024年度の税収の上振れ分を充てる方針だ。
しかし、そもそも石破総理は2月の衆院予算員会で「税収の上振れ分を国民にお戻しする財政状況ではない」と税収の還元に否定的な見解を語っていた。
当時の発言との整合性も問われており、「あまりに一貫性がないし、場当たり的すぎる」(前出・ベテラン参院議員)との批判も高まっている。
自民党内からは「給付は一回限りですから、持続性のある消費減税よりも物価高対策への効果は乏しいのが実態。どうせやるにしても、2万円という金額はあまりにケチすぎます」(衆院中堅)といった声もあがる。
衆院の若手議員は「公金受け取り口座を活用した現金給付は、物価高対策だけではなく、今後の有事に備えたシミュレーションとしては大義がある。ただ、選挙前というタイミングが残念。現金給付は、野党第一党の立憲民主党も掲げている案だし、本当は立憲が言い出す前にいち早くやるべきだった」と指摘する。
内閣不信任決議案の提出は見送り公算が高いとの報道も出ているが…
現金給付が不評を買う半面、冒頭の共同通信の6月世論調査では、石破内閣の支持率は37.0%と、5月の調査よりも5ポイントほど上昇した。しかし、自民党の重要閣僚経験者はこう危惧している。
「支持率の若干の上昇は、小泉進次郎農水相がスピード感ある対応で、備蓄米を放出したことへの評価もあるでしょう。しかし、今回の現金給付案は、進次郎で上げた支持率を下げる危険性すらもあると考えています」
いったい、どういうことなのか。
「参院選の主要な争点をコメ問題に絞れば、自民党にとっては有利だったと思います。しかし、野党の掲げる消費減税と、今回の2万円の現金給付を比べると、どうしても物価高対策としてインパクトの弱さが際立ってしまう。それだったらむしろやらないほうが潔かったでしょう」(同前)
国会は6月22日の会期末まで残り1週間となっている。
自民党の麻生太郎最高顧問は6月12日の麻生派の会合で、内閣不信任決議案が可決されれば、「内閣総辞職という選択肢はあり得ず、(衆院)解散・総選挙となる」と指摘した。
いっぽうの立憲の野田佳彦代表は、内閣不信任決議案について「総合的に適時、適切に判断」と重ねて説明。日米交渉への影響や、石破政権の支持率が回復傾向にあることなどから、提出は見送りの公算が高いとの報道も出ている。
野党関係者も「不信任決議案を提出しても、維新や国民民主などが欠席すれば、成立せず、ハードルは極めて高い。W選になることはない」とみる。
ただし、立憲の小沢一郎衆院議員は6月14日の青森県内の講演で「(日本維新の会や国民民主党は)反対できない。反対や棄権をしたら、自公政権を助けることになって国民から見放される」と指摘。さらに、「野党が選挙を恐れていて、いつ政権をとれるのか」と内閣不信任決議案の提出を決断すべきだと強調した。
前出の自民党重要閣僚経験者はこう見る。
「野田さんも追い詰められている。
立憲としては、仮に衆院選になっても、消費税を下げない石破政権と、消費税を下げる立憲民主党かっていう選挙戦に持っていけば、勝算は見えてくる。野田さんが不信任決議案の提出を本当に見送るかどうかは、最後までわからないと見ています」
果たして野田氏の決断は――。
取材・文/河野嘉誠 集英社オンライン編集部ニュース班