
すき家ではネズミとゴキブリ、ジョイフルではカタツムリ、はま寿司ではクッキングペーパー、そして来来亭では小さな虫……。飲食店の「安心・安全」神話は過去のものになりつつあるのか。
チェーン店で異物混入が多発
大手ラーメンチェーン「来来亭」は6月10日、浜松市内の店舗で異物混入が発生したと発表。SNS上では、ラーメンの豚肉の上に小さな虫がうごめいているとされる動画が拡散され、話題になっていた。
今年1月には、大手牛丼チェーン「すき家」の鳥取県内の店舗で提供されたみそ汁にネズミが混入していた画像がSNSで拡散された。さらに、3月には東京都内の店舗でテイクアウト商品にゴキブリが混入していたことが明らかとなり、一時全店舗で営業を停止したことが記憶に新しい。
こうした事態による消費者離れは顕著で、騒動後「すき家」の4月の売り上げはおよそ4年ぶりに前年同時期を下回り、5月の既存店客数は前年同月比で9%減少したと発表された。さらに客数の前年割れは3か月連続となった。
4月には島根県内のファミリーレストラン「ジョイフル」で提供されたピザに生きたカタツムリが混入していた画像がSNSにアップされた。同月、大分県内の「はま寿司」では提供された天ぷらに吸水シートが混入。食べた客はすぐ吐き出したため、健康被害はなかったというが…。
一体、なぜこんなにも異物混入が発生しているのだろうか? 『東京最高のレストラン2025』(ぴあ、共著)などの著作で食文化に詳しいジャーナリスト・松浦達也氏の話をもとに、その背景を見ていきたい。
「2025年の異物混入問題について大きく2つの軸があると思っています。ひとつ目は『なぜ発生するのか?』という飲食店側のマネジメントの問題。
遠い昔、コールドチェーンなど流通が発達しておらず、調理マニュアルが確立していなかった時代には、今よりも異物混入の件数は多かったはずだ。
「それが、近年ではSNSの普及により、すぐに情報が広まり、話が大きくなってしまいます。すき家の件についても、『ネズミが味噌汁の中に入っていた』という非常にインパクトの強い内容でした。誰が見てもショックを受けるし、それがSNSでバズるのも当然の流れです」
バズるための行為も過激に
SNSの発達によって、異物混入が以前よりも可視化された一方で、話が大きくなりすぎてしまう側面もある。
「現在の飲食店業界は個人店が減少し、チェーン店が増えています。このため、すき家のとあるひとつの店舗で起きた出来事であっても、『すき家全体の問題』と捉えられてしまう傾向があります。
昔であれば『あの店でネズミが出た!』というローカルな話で済んでいたかもしれません。それで近隣住民の足は遠のいても、遠くから来る客にはほとんど影響がなかったでしょう。しかし現代では、実際には一店舗の問題であっても、全国の店舗すべてが同じような問題を抱えているかのように見えてしまう。
つまり、イメージダウンがチェーン全体に波及するのです。そういう意味で、今回のケースは言葉は悪いですが、“バズる”条件があまりにも整いすぎていたという気がします」
SNSでも「すき家にネズミが混入しているなんてありえない。客側の自作自演行為ではないのか?」という声が上がった。
「今年に入って起きた異物混入が自作自演だったのかどうかという点はさておき、これは今後、自作自演になり得る話だと思います。
その行き着く先が、醤油ボトルや湯呑みを舐めて元の場所に戻す迷惑動画が拡散された『スシロー迷惑動画事件』や、くら寿司で皿を戻す投入口に開封済みの避妊具を置いたという事件です」
また、フードデリバリー大手「出前館」が届けた商品の袋の中に、生きたネズミが入っていたという事件もあった。これも結局、混入経路は特定できず、誰がやったのかは不明なままだ。
炎上をきっかけに見直される衛生面
とはいえ、客側としてはまさかネズミが入っていたなんてということが立て続けに起きると、この国の飲食チェーンの衛生状態も心配になってしまう。
「立て続けに“起きている”というより、“可視化されている”と言った方が正確だと思います。もちろん、現在は昔と比べて現場のチェック体制も厳しくなっています。かつては企業側に『黙っていれば済むだろう』という空気もあったでしょう。今回のすき家の初期対応も、それに近い印象で、『ずいぶん放っておいたな』という印象を受けました。
とはいえ、『放っておいても良いことはない』と、企業側も少しずつ理解してきているのではないでしょうか。今では、炎上するくらいなら、むしろ先に公表してしまった方が良いという判断が主流になりつつあります」
多くの企業が情報を公表している中で、自社だけが隠していても結局は悪目立ちしてしまう。それならば、自分たちも公表した方が目立たず、傷も浅く済む……。そのような考え方に変わってきているのかもしれない。
「企業として『隠蔽すること』が非常に悪いことであるという認識も広がっており、特に食品を扱う企業では、何か起きたときのダメージが極めて大きくなります。だからこそ、問題が起きた際には、速やかに公表し、情報をつまびらかにし、必要があれば謝罪する。そうした適切な対応を取っていこうという流れが、いまのトレンドになっていると思います」
また、すき家は24時間営業をやめ、午前3時から午前4時の間、営業を休止して、店舗営業中に実施しづらい機器の裏側の清掃など、集中的に清掃作業を行う時間を確保することになった。
「清掃の時間を設けるようになったのは、評価すべきであり、やはりそこに、日本の飲食店のいわゆる“ブラック”な働き方の問題があったと考えられます。リーズナブルに美味しいものが楽しめるというのは、日本の飲食店の良いところです。
ただ、それを何が支えてきたかというと、従業員の厳しい労働環境や、無理のある賃金・労働体系がベースになっていたという点は見逃せません」
価格、美味しさ、スピード、接客…飲食店に求められるものは多い。中でも衛生面は消費者にとって重要なことの一つだ。とはいえ、飲食店も完璧ではない。異物混入があった飲食店がこれからどのようにして信頼回復をしていくのか見守っていきたい。
取材・文/千駄木雄大