
全国各地で40度超えが続く猛暑の中、屋内でも異変が起きている。外気と室内の温度差などによって起こる窓ガラスの「熱割れ被害」だ。
「今年は例年よりも早い6月から修理依頼が入っています」
消防庁の調べによると7月末から8月3日までの1週間で熱中症で病院に運ばれた患者は全国で9500人を超えた。なるべく日中は屋内で過ごそうと考える人々が多い中、屋内でも異常現象が起きている。
マンションや戸建て、建物の構造に限らず、部屋の窓ガラスが突然割れる「熱割れ」だ。実際に「熱割れ」を経験した築3年の都内戸建てに住む女性に話を聞いた。
「家で昼間にリビングでテレビを見ていたら『ピシッ!』と音がして、なんの音だろうとその時はなんだかわかりませんでした。でも子供らが帰ってきた時に『ママ、ガラスが割れてるよ!』と気づきました。フレーム部分から横に広がる形でビシーっとヒビが入っていたんです」
このような窓ガラスの「熱割れ」は夏に起きる現象のひとつだが、今年は異常な件数で起きている。全国で4支社展開する窓ガラス修理店「ガラパゴス!」の高井実氏は言う。
「4、5年前から、7~9月頃の猛暑期の『熱割れ』による窓ガラス修理の依頼がどっと増えましたが、今年は例年よりも早い6月から前倒しで修理依頼が入っています。この7月だけで全国300件もの修理のご依頼が入りました。
なぜここまで異常な件数が起こるのか。また、戸建てかマンションか、その中でもどの部屋のどんなガラスが「熱割れ」しやすいのだろうか。
「なぜ『熱割れ』が起こるかというと、窓ガラスが最も直射日光を浴びるからです。昨今の40度もの日を浴びた状態と、室内の冷房による20度の温度差が原因です。また、最も『熱割れ』を起こしやすいのはワイヤー入りガラスです。太陽の熱でガラスが温められ、内部のワイヤーも熱で伸縮し、その伸び率にガラスが耐えられなった時に割れます。ワイヤー入りガラスは戸建てもマンションも関係なくリビングや寝室などどこでも使われていますから、特にどこの部屋が割れやすいということはありません」
高井氏によれば、創業当時の2005年に比べると「熱割れ」による窓ガラス修理は2倍以上の件数になるという。
「ここ10年ほどで開発された『ペアガラス』の『熱割れ』も多いですね。このガラスは2枚のガラスの間に空気の層があり、夏は冷房負荷を軽減し冬は室内の熱損失を抑制する機能がありますが、やはり猛暑には弱い一面があります。ガラスの外周にアルミがついているため、ここが熱され『熱割れ』を起こします。ワイヤーガラスの次に割れる率が高いですね」
高井氏は「窓ガラスの『熱割れ』により怪我したケースはほとんどありません」というが、まさか猛暑により窓ガラスが割れるとは、思いもよらないことだろう。
「修理してもらったら約4万円ですよ!」
ミュージシャンで文筆家の掟ポルシェ氏も自身のXで、ビルの窓拭きのバイトにおける『熱割れ』に関する思い出をこうつぶやいていた。
《ビルの窓拭き時代、夏場ガラスが割れるというクレームがある度に「熱割れと言いまして、ガラスが熱で膨張することによって割れることがありまして」と社員さんが説明するのをよく見た。あの時は「嘘臭え~」と思ってすみません!》
しかし窓拭き会社にどんなクレームが入ったというのか。掟氏に当時の話を聞いた。
「若手時代に7年間ほど窓拭きバイトをしてました。窓拭きにはブランコ型とゴンドラ型がありますが、そのどちらも位置を固定するために窓に『吸盤』をつけるんですよ。特にブランコ型の窓拭きの際は、体の位置を固定するためにビタッと力強く貼り付けるので、クレーム内容的には『吸盤をつける時の力が強くてヒビ割れたんじゃないの?』って言われました。
だから社員の方が『ガラスが熱で膨張して割れることがあるんです』と説明したんです。でも僕、当時は『社員は嘘をついている……』と本気で思ってしまってました。20年前の夏でも『熱割れ』してたんですから、そりゃこの酷暑じゃ割れますよね」
また、最近、窓ガラスの修理代の高さにも驚いたという。
「理由は『熱割れ』ではないんですけど、自宅リビングの1メートル四方くらいの窓が割れて修理してもらったら約4万円ですよ! 高すぎじゃないですか」(掟氏)
前出の高木氏が“業界の事情”を説明する。
「ガラス業界もコスト削減の努力はしていますが原材料費や物流費など諸々で年々、ガラス価格が高騰しています。弊社も大体1メートル四方のガラスは修理費用含め4万円ほどです。
酷暑で容赦なく窓ガラスは割れ、修理費もバカにならない。夏の暑さは心身だけでなく庶民の財布にも打撃を与えそうだ。
取材・文/河合桃子 集英社オンライン編集部ニュース班