
「異性とキスをしている写真」「ラブホテルや旅館の宿泊レシート」「親密なLINEのやり取り」……素人目には明らかに浮気をしている証拠だと思われるが、実は日本の裁判において、これら単体では証拠として弱いのだという。では、何なら強いのか。
探偵小沢著『事件はラブホで起きている』より抜粋・再構成し、「一撃で相手をKOできる」強い証拠について詳しく解説する。
「これって浮気の証拠になりますか」
「旦那のスーツの内ポケットからラブホテルのポイントカードが出てきたんですが、これって浮気の証拠になりますか?」
「クレジットカードの引き落としに女性モノのバッグの購入履歴があったんですが、これって浮気の証拠になりますか?」
「浮気相手とのLINEで“愛してる”ってやり取りがあったんですが、これって浮気の証拠になりますか?」
探偵を長くやっているけど、依頼者さんから聞かれる質問でいちばん多いのがこの手の質問。
聞かれまくる。もう、マジで聞かれまくる。コンビニやスーパーで毎回「レジ袋おつけしますか?」って聞かれるのと同じぐらいの頻度で聞かれる。
探偵の僕はこうした質問をダイレクトメッセージや電話などでされるけど、その度に「それは、ちょっとわからないですね」と答えている。別に僕が無知だからというわけではない。僕はこれが誠意ある回答だと考えている。
なぜなら、それが浮気の証拠になるかどうかに関しては、コンビニのレジ袋の質問のように「はい」「いいえ」と、ひと言で答えられないから。
「浮気」「不倫」は法律用語では「不貞」
ところで「浮気」や「不倫」という言葉は法律用語ではないので、法的な場面においては法律用語である「不貞」が用いられる。
浮気や不倫という言葉の定義は人それぞれ異なると思うけど、不貞に関しては民法上における明確な定義が存在している。
「配偶者のある者が、自由な意思にもとづいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと」
要するに「セックスをしたかどうか」が争点となってくる。
あなたが手に入れた(見つけてしまった)浮気の証拠(らしきものが)が、不貞を証明する証拠になり得るか否かについて、結論からいえば、「ケースバイケース」ということになる。つまり、質問者さんの背景をきちんと知っていなければ「答えようがない」ということだ。
質問者さんの背景や事情を知らずに「証拠になりますよ」「証拠にならないですよ」と答えることは、非常に無責任と言わざるを得ない。なぜなら、その回答が、その人の人生を大きく左右する要因となる可能性があるからだ。
質問者さんが割とカジュアルかつお気軽に聞いてくるこの手の質問に対して、真剣に答えようとすると、平気で1時間くらいかかる。
探偵に相談するという行為は一見すると、浮気調査の依頼を「する」か「しない」かの二択の判断を下すためのものと思われがちだけど、ある意味で人生相談に近いものがあるし、実はかなりヘヴィな行為なんだよね。
なので、探偵に調査の相談をするなら、まずはあなた自身のことを話してもらわないと始まらない。
さぁ、崖っぷちの人生相談を始めようか。
なぜ、探偵に依頼するのかを自問自答することが大事
浮気調査を専門とする探偵の僕が、相談されたときに最も重要視することがある。それは、あなたの「目的」だ。
当たり前のことだが、なぜ浮気の証拠が必要かといえば、あなたには解決したい問題があって、その問題を解決することによって、実現したい未来(目的)があるからだ。
探偵というサービスを利用する行為は、目的を達成するためのひとつの手段となる。そして、探偵は浮気の証拠を入手することによって問題解決の手伝いはできるけど、最終的にあなたの問題を解決するのは、あなた自身であることを忘れないでほしい。
そのため、探偵に相談をする前に、ある程度はあなたの目的を明確にしておく必要がある。
浮気の証拠を使って、どうしたいのか。
パートナーが浮気をしていることがわかった今、まずは自身の感情と真剣に向き合い、自分が本当に今後どうしていきたいのかを、一度シッカリと自問自答してみてほしい。
言うまでもなく、これは非常に辛く困難を伴う作業である。
なぜなら、最も信じていた人間から裏切られたばかりの極限の精神状態では、自分の感情と折り合いをつけることすら難しいだろう。
でも、やらなきゃいけない。逃げちゃダメだ。
自分の今後の人生を賭けた戦いは、今、この瞬間から始まるんだから。
ちなみに、この段階で設定する目標は「現時点のもの」「漠然としたもの」でも構わない。前述のとおり、探偵に依頼をした当初の目的というのは、調査の過程で変わっていくことも多い。なので、考えた結果「今はわからない」という結論になることもあるだろうし、それはそれでOK。ここで必要なことは、最終目標をガチガチに定めることではなく、自分自身の心と向き合う作業。それが最も大事なこと。
世の中の多くの探偵会社は、依頼欲しさにゴリゴリの営業をかけてくる。
同情を装い、非常に耳障りのいい言葉をかけてくれるが、結局はあなたの目的を捻じ曲げてでも依頼を獲得する方向へと誘導してくる。時には、依頼を獲得するために、探偵に依頼する必要がないようなケースでも契約を迫ってくる。探偵に依頼をしてバッチリ証拠は撮れたけれど、最終的に自分の目的は達成できなかった……なんて事態は本末転倒。
大事なことなので、もう一度書いておく。
あなたは、なぜ、探偵に依頼をするのか。
あなたは、浮気の証拠を使って、どうしたいのか。
あなたは、結局、何を望んでいるのか――。
浮気の証拠には「強い」「弱い」という概念が存在する
自分がこれからどうしていきたいのか――この目標がある程度定まってくると、自ずと証拠を使うことになる相手も決まってくる。
つまり、「配偶者」に対して使う証拠になるのか、「浮気相手」に対して使う証拠になるのか、ということだ。または「婚約者」に対して使う証拠なのか、あるいは「義理の両親」や「共通の友人」に見せるため、場合によっては「会社」に提出する証拠になるというように、想定されるケースは実にさまざまだ。
また、証拠を使う相手が同じ「配偶者」であっても、「離婚するため」に使う場合と、「夫婦関係の再構築を目指すため」に使う場合とでは、証拠の使い方がまったく異なる。
「浮気相手」に対して使うケースでも、弁護士を通して正式な慰謝料請求をする場合と、直接会いに行って示談交渉をする場合とでは、証拠の活かし方がまるで違う。
つまり、目的によって必要な証拠が変わってくるということだ。
それぞれの目的に応じた証拠の使い方に関しては、それこそ超個別になってくるため、書き出したらキリがない。なのでここでは割愛させていただくけど、ここまで書いてきたように、この段階まできてようやく先の質問にあったような浮気の証拠が、目的達成に向けての証拠と成り得るか否かの回答ができる。
さて、ここでメチャクチャ重要となる概念についても触れておきたい。
便宜上「必要な証拠が変わってくる」と書いたけど、正確にいえば「求められる証拠の強さが変わってくる」という意味。つまり、浮気の証拠には「強い」「弱い」という概念が存在するということ。
例えば、まずは次のような浮気の証拠を見てほしい。
・異性とのLINEでの親密なやり取り
・異性との頻繁な通話履歴
・異性からの手紙や贈り物
・異性と手をつないでいる写真
・異性とキスをしている写真
・ラブホテルや旅館の宿泊レシート
・身に覚えのない避妊具や大人のおもちゃの購入履歴
ここでちょっと想像してみてほしい。
もし、あなたに配偶者がいるとして、これらの証拠を見つけてしまったら?
あなたは配偶者が「浮気をしている」と思うだろうか?
または「浮気はしていない」と思うだろうか?
では、これらの証拠をもとに、弁護士を通じて配偶者に慰謝料請求ができるか――結論をいえば、正直微妙だ。なぜなら、これらの証拠は「弱い」からだ。
「は? なんで弱いの? 常識的に考えて、これもう完全にデキてますやんw」
おそらく誰もがそう思うだろう。だけど、これらの証拠であっても、出るところに出て戦った場合、割と泥沼化するケースがほとんど。
離婚調停や離婚裁判でガチガチに法廷バトルをすることになった場合、当然相手方にも弁護士がつくことになるので、解釈の余地がある証拠に対しては必ずアレコレ(苦し紛れな)言い訳をしてくるもの。そうなってくると、これらの証拠単体では弱く、確実に「不貞行為」があったことを立証するための証拠としては使えない。
じゃあ、次のような浮気の証拠の場合はどうだろうか?
・異性とふたりでラブホテルに出入りしている写真や動画
・異性とふたりでビジネスホテルに出入りしている写真や動画
・異性とふたりで相手の家に宿泊している写真や動画
・異性とふたりで温泉旅館に宿泊している写真や動画
これらは強い証拠。特にラブホテルの出入りの写真や動画の証拠はメチャクチャ強い。
なぜなら、ラブホテルは社会通念上「セックスをするための施設」として広く知られているから、言い訳が通用しない決定的な不貞の証拠といえる。
また、ラブホテルほどではないにしても、ビジネスホテルの出入りや、相手の家や温泉旅館でのお泊まりともなれば、証拠の強さとしては十分。
法廷で「不貞行為」の立証を確実にするには、このレベルの強さの証拠が必要となる。
そして、必然的に僕ら探偵が提供することになるのは、こうした「強い」浮気の証拠の写真や動画となるのだ。
裁判ではすべての状況や証拠が、客観的かつ総合的に判断される
さらに実用的な話をしておきたい。
不貞行為の認定において、裁判実務は決して「強い証拠の有無」だけで決まるという単純なものではない。もちろんラブホテルの出入りなどの強い証拠であれば「一撃KO」も可能だけど、裁判ではすべての状況や証拠が、あくまで客観的かつ総合的に判断される。
「弱い証拠は使えない」とは書いたが、それはあくまで「単体」での話。
離婚調停や離婚裁判は、ある意味で「ボクシング」に似ているかもしれない。実際の法廷では、強い証拠がなくとも、弱い証拠を複数積み上げることで勝ちにつながることがある。たとえ証拠一つひとつが間接的で弱いものであっても、それらを複合的に見てストーリーに整合性があれば、肉体関係の存在を推認させるに足る主張が成立する。一撃KOが無理でも、細かなポイントを重ねて判定勝ちに持ち込む――まさに、そんなイメージだ。
だからこそ、探偵に依頼して強い証拠を狙いつつも、あなた自身も日常生活において、小さな証拠を集め続ける努力が必要不可欠となる。
優秀な探偵に依頼したら、「はい、これでもう安心」というわけにはいかない。
探偵はあくまでも手助けをする伏兵であって、戦の主役、つまり総大将はあなた自身。
離婚調停や訴訟の成果は、次の掛け算で決まるといっても過言ではない。
・離婚調停の成果=依頼者の頑張り×弁護士の能力×探偵の能力
要するに、探偵や弁護士がいくら優秀でも、依頼者自身が途中で旗を折ってしまえば意味がない。また、探偵が証拠を何もつかめなければ、優秀な弁護士でも戦えない。さらに、探偵が強力な証拠を撮ってきても、それを活かせない弁護士では成果が薄れる。
離婚調停はボクシングに似ていると言ったけど、同時に「自分自身との戦い」でもある。
依頼者が自身の傷ついた心に打ち勝たないかぎり、この戦いで勝利をつかむことはできない。
文/探偵小沢
『事件はラブホで起きている 秘密の「浮気」調査報告書』二見書房
探偵小沢