〈成年後見制度の闇〉居場所も伝えず高齢母を老人ホームに「軟禁」…全国で相次ぐ高齢者の連れ去り被害や金銭トラブルの実態とは
〈成年後見制度の闇〉居場所も伝えず高齢母を老人ホームに「軟禁」…全国で相次ぐ高齢者の連れ去り被害や金銭トラブルの実態とは

人口の約29%が65歳以上という“超高齢化社会”に突入した日本。認知症は発症率が増加し、さまざまな対策が講じられている。

その中の一つとして挙げられるのが、「成年後見制度」だ。認知症患者の生活や財産を守ることを目的とした制度だが、これを悪用し、高齢者の連れ去りや財産を「壊される」などのトラブルが相次いでいる。 

 

実際に高齢の母を無断で連れ去った成年後見人の男性弁護士の解任を求め、申し立てをしているという息子の土井さん(仮名)に話を伺った。 

高齢母を無断で連れ去り… 

「母が突然いなくなったあの日、これまで経験したことのないような恐怖と不安に襲われました。非人道的に母を連れ去った弁護士を到底許すことはできません」

そう怒りをあらわにするのは、60代の土井さん(仮名・男性)。現在、裁判所に母の成年後見人である弁護士の解任を求め、申し立てをしている最中だ。いったい何があったのか。

トラブルが発生したのは2024年6月28日早朝。マンションの一室で一人暮らしをしていた認知症を患う母(80代)が忽然と姿を消した―。

介護ヘルパーの女性からの連絡で慌てて勤務先を飛び出した土井さん。家族や警察官ら総勢7人で豪雨のなか、捜索を続けたが、母の姿は見つからなかった。

翌日、警察から「お母さまを連れ出したのは、成年後見人の男性弁護士だが、居場所は教えられないとのことです」と連絡が入ったという。

「成年後見制度」とは、「認知症、知的障害、精神障害などにより物事を判断する能力が十分でない方について、本人の権利を守る援助者(成年後見人)を選ぶことで、本人を法律的に支援する制度」である。

この後見人は本人の親族のほか、法律・福祉の専門家などの第三者も務めることがあり、契約などの法的行為を本人に代わって行なうことができる。

土井さんは母を連れ出した男性弁護士に強く抗議し、母の居場所の情報開示を求めたが、応じてはもらえなかった。母の携帯電話の電源も切断されていたため、土井さんは独自の調査を実施。母の居場所が判明したのは、その3カ月後。遠方にある高級老人ホームにいることが分かった。

「弁護士の行為は人権侵害を通り越して精神的虐待だと感じます」

そう憤る土井さん。さらに男性弁護士は後見人に就任後、ほとんど母に会いにくることもなく、預金口座を凍結して十分な生活費を渡していなかったことも判明。自宅に帰りたがる母だが、後見人の代理権はまだ弁護士にあるため、いまだに老人ホームでの「軟禁」状態が続いているという。

財産を「壊される」ケースも 

 いったいなぜこのようなことが起こりうるのか。多くの後見トラブルに対応してきた一般社団法人「後見の杜」の宮内康二代表はこう語る。

「一番の問題は報酬制度の矛盾にあります。本来、この制度は『本人の残りの人生を豊かに過ごすため医療や介護も含めてお金を適切に使おう』という思想のもと作られたものですが、後見人の報酬は本人の預貯金がある分だけ高くなるという仕組みとなっています」(宮内氏、以下同)

利用者の「管理財産の額」が高額になると、管理事務の複雑性から後見人の基本報酬が増える仕組みであることから、それを悪用するケースが全国で後を絶たないという。

「必要性がないのに株や不動産を勝手に売却して預貯金に換えられるなど後見人に財産を『壊される』トラブルや、嫌がる高齢者を施設にむりやり入居させ、施設を半年ごとに転々とさせることで後見人が紹介料をもらい続けるなどの悪質事案も確認されています」

報酬を得るために権利を濫用する一方、報酬に繋がらない業務のずさんさも確認されている。

「医療や介護に関する打合せに顔を出さないどころか、本人に一度も会いに来ないケースもあります。そのため肺がんのリスクがあった高齢者が末期状態に陥ってしまったり、後見人が電気料金を払い忘れたことで、真夏にクーラーや冷蔵庫が使えなくなった高齢者の方もいました」

トラブルを未然に防ぐには 

今回、起きた事例に関して宮内氏はこう見解を述べる。

「後見人の弁護士に手続きの代理権があるからといって、後見人が何をやってもいいわけではありません。認知症であっても被後見人の『意思』の確認と尊重、そして入居させる必要があったかなどの『必要性』、金銭や文化が見合っているかの『相当性』の3つを満たしている必要があります。

嫌がる被後見人をむりやり老人ホームに入れたとなれば、問題視される事案です」

実際に、このようなトラブルを未然に防ぐ方法はあるのだろうか。

「成年後見制度」には、判断能力のある本人が将来の後見人を自ら選ぶ「任意後見人」と、認知症などで判断能力がないことを条件に、家族や自治体などが申し立てをし、家庭裁判所によって選定される「法定後見人」の2種類がある。宮内氏は、

「この制度に関するトラブルのほとんどが悪質な『法定後見人』によって引き起こされています」

と指摘する。そのため認知症になったときに備え、約束事を公正証書に記す「任意後見人」の制度を宮内氏は勧めている。しかし、利用者件数全体の98.6%を「法定後見人」が占めているのが現状だ。

「認知症になった先のことまで考えている方はまだまだ少ないです。問題は誰が後見人になるかということ。『任意後見制度』を利用すれば、誰にどんなお願いをしたいか文書で裁判所に提出することもできるので、個人ができる最大の防衛策となります。

あとは、やはり家族が後見人になれるように事前に話し合いを進めておくことも大切です。家庭裁判所も本人のことを本当に考えてくれている家族や親族、信頼できる第三者を選任する責任があると思います」

超高齢化社会を迎えた今、成年後見制度は誰もが関わる可能性の高い仕組みでもある。本来守られるべき人が傷つくことのないように、私たちも関心を持ち続けていくべき問題だ。

取材・文/集英社オンライン編集部  

編集部おすすめ