「ヤザワって誰?」からの大逆転劇! 矢沢永吉がロンドン7万人を熱狂させた夜…世界のYAZAWAが魅せた“本物のロック”
「ヤザワって誰?」からの大逆転劇! 矢沢永吉がロンドン7万人を熱狂させた夜…世界のYAZAWAが魅せた“本物のロック”

今年でソロデビュー50周年を迎える矢沢永吉。9月14日で76歳となる彼だが、今も音楽界の第一線を走り続けている。

そんな矢沢永吉の不屈の魂が感じられるエピソードを紹介する。 

矢沢を待っていた、明らかな待遇差 

“キング・オブ・ロックンロール”のエルヴィス・プレスリーが亡くなってから、ちょうど20年の節目となった1997年8月16日。

ロンドンのウェンブリー・スタジアムでは、「Songs & Visions(ソングス・アンド・ヴィジョンズ)」というコンサートが催された。

世界を代表するスターが集まり、エルヴィスがデビューした1956年から40年間のヒット曲を振り返りながら、次々と豪華共演を果たすという内容で、その模様は世界20カ国のテレビで放送される運びとなっていた。

イギリスからはロッド・スチュワートやスティーヴ・ウィンウッド、ロバート・パーマー、アメリカからはジョン・ボン・ジョヴィやチャカ・カーン、メアリー・J・ブライジらが参加する中、日本からはアジア代表として矢沢永吉が出演することとなった。

世界という大舞台に心を躍らせた矢沢だったが、現地で待っていたのは、他のアーティストとの明らかな待遇差だった。

リハーサルの時間は他の出演者よりも圧倒的に少なく、音も悪くてトラブル続きだったという。

「それが現実なんだ。世界の壁はまだまだ厚いんだ。オレは悔しかった」

妻に電話すると、「こういうインターナショナルな催しは、もう二度とやらない」と珍しく不満を露わにした。

しかし、だからといって引き下がるわけにはいかなかった。どんな時でも勝つためにはどうすればいいのかを考え、常に最善を尽くすというのが、矢沢の信条だったからだ。

コンサート当日、会場は7万人以上もの大観衆で埋め尽くされた。

テンプテーションズの『パパ・ワズ・ア・ローリング・ストーン』のイントロが流れると、ロッド・スチュワートが登場して先陣を切り、続いてチャカ・カーンも登場。そこにスティーヴ・ウィンウッドとメアリー・J・ブライジも加わった。

豪華アーティストたちの共演に、会場は出だしから熱狂に包まれた。

「ヤザワ? フー? 東洋から来た誰?」 

セットリストが進むに従い、だんだんと年代を遡っていくという構成でコンサートは進み、終盤はエルヴィス・プレスリーのメドレーとなった。

トニ・ブラクストンが『ラヴ・ミー・テンダー』を歌うと、スティーヴ・ウィンウッドは『ハウンド・ドッグ』でそれに続き、ジョン・ボン・ジョヴィは『ザッツ・オール・ライト』を披露した。

そしてプログラムも残り3曲というところで、ようやく矢沢永吉の出番が回ってきた。

「日本のロックンローラーを紹介しよう。スペシャル・ゲスト、ヤザワ!」

意外なゲストの登場に会場がざわめく中、演奏が始まると矢沢はステージ中央に颯爽と登場した。それが自分の名前すら知らないであろう、7万人の観衆と対峙した瞬間だった。

矢沢が一歩も怯むことなく、渾身の気持ちを込めて歌い始めると、あっという間に会場の空気は変わっていった。ステージ全体を使った持ち前のパフォーマンスも披露し、矢沢がアクションをする度に会場から歓声も上がった。

次の出番は、男性シンガーたちによる『ハートブレイク・ホテル』のリレーだった。

ロッド・スチュワート、ロバート・パーマー、ジョン・ボン・ジョヴィ、スティーヴ・ウィンウッドと順番に歌いながら登場し、最後に矢沢がシャウトを響かせながら登場すると、他のアーティストに負けず劣らず盛大な歓声が湧いた。

自分のパートを歌い終わった矢沢はすっと後ろに下がったのだが、それに気づいたロッドがステージ中央に来るよう合図を出した。

それまで延々、ロッドはオレをシカトしてた。「ヤザワ? フー? 東洋から来た誰?」みたいな感じだった。それがオレの『ドント・ビー・クルーエル』を聴いて、ロッドは素直に思ったんじゃないのかな。かっこいいって。

左にロッド・スチュワート、右にジョン・ボン・ジョヴィ、そして中央に矢沢永吉という組み合わせに、会場のボルテージは最高潮に達した。

常に勝つことを考えて行動してきた矢沢は、ここでも圧倒的に不利な状況をはねのけて、勝ちを掴み取ってみせた。

文/TAP the POP

参考文献:『アー・ユー・ハッピー?』矢沢永吉著(角川文庫)

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