〈日本初の女性総理目指すも〉参政党との“距離感”が懸念される高市氏では「有事勃発のリスクが高まる」仲間はウラ金問題で失職者続出、カギを握るキングメーカーの存在は?
〈日本初の女性総理目指すも〉参政党との“距離感”が懸念される高市氏では「有事勃発のリスクが高まる」仲間はウラ金問題で失職者続出、カギを握るキングメーカーの存在は?

石破茂首相の辞任表明を受け、「ポスト石破」レースが激化している。動向が注目されるのが、前回の総裁選で首相の座に肉薄した高市早苗前経済安保相だ。

安倍晋三元首相の後継者を自認する高市氏は、日銀と連携した「異次元の金融緩和」と大規模な財政出動によって株価を爆上げさせた「アベノミクス」を踏襲した政策を志向しており、財政規律を重視する財務省を敵視する「リフレ派」からの期待は強い。 

一方で「超」がつくほどの右派として知られる高市氏の台頭を警戒する向きも多く、自民党内には「高市だけは首相にしてはいけない」(党重鎮)との声も上がっているという。 

「日本初の女性宰相」へ野心をのぞかせる高市氏

「それは、心にとっくに決めています」。9月2日に自民党本部で開かれた両院議員総会。終了後に報道陣に囲まれた高市氏は総裁選出馬の意向についてこうほのめかした。

この日の総会では、出席議員による、7月の参院選大敗後も驚異の粘り腰を見せていた石破首相への批判が殺到していたが、自民党史上初めてとなる「臨時総裁選」の開催も現実味を帯び始め、「石破包囲網」が狭まりつつあるなかでの高市氏の発言に「早くも次期総裁選出馬にフラグを立てた」(全国紙政治部記者)との見方が強まった。

9月2日時点で首相の座への居座りを続けていた石破首相に対しては、「トップとしての責任のあり方はご自身が考えること」と述べるにとどめたが、いまや「日本初の女性宰相」への野心は隠しようもなかった。

昨年9月に行なわれた自民党総裁選では、河野太郎氏ら9人が名乗りをあげるなか、高市氏が1回目の投票で国会議員、党員・党友票でトップを奪取。石破氏との決選投票となった2回目の投票で涙をのんだが、「総理総裁」の椅子は手の届くところまで近づいていた。

「このとき、高市氏を推して有力候補に押し上げたのが、麻生太郎最高顧問でした。麻生氏を高市氏の支援に向かせた背景には、石破首相への怨念の深さがあります。石破首相は、麻生氏が首相在任時に農水相のポストにありながら『麻生おろし』に荷担しました。

このとき以来、『石破だけは総理総裁にしてはいけない』が持論となっており、優勢が伝えられていた石破氏の総裁選出を防ぐべく、高市氏に懸けたのです」(全国紙政治部記者)

麻生氏は当時、総裁選の投票日直前に、党で唯一残存している自身の派閥「麻生派(志公会)」の所属議員に高市氏への投票を厳命。

一部メディアに「高市支持」の情報をリークして党内で揺さぶりをかけた経緯もある。
「今回の『石破おろし』も流れを主導したのは麻生氏でした。参院選で敗北した後に早々と石破首相に退陣を促し、受け入れないとみるや、総裁選前倒しに向けた政局を仕掛けました。総裁選前倒しの可否を決める9月8日の総裁選管理委員会の会合の前には、永田町で麻生氏の周辺による票読みの数字も出回りました」(同)

「今回の総裁選では麻生氏は進次郎氏の支援に回るのでは」

今回の総裁選では、メディア各社が「高市氏と、党内に一定の影響力を持つ菅義偉元首相が後見役を務める小泉進次郎農水相が軸となる」と報じている。再び有力候補として総裁選に名乗りを上げるであろう高市氏にとっては、麻生氏のバックアップを得られるならこれほど頼りになることもないはずだが、前出の記者は「情勢は不透明だ」という。

「麻生氏は前回の総裁選でも高市氏を全面的に支援したわけではありませんでした。当初は麻生派の河野太郎氏の支援を模索しましたが、総裁選で勝利するめどが立たないことがわかり、高市氏の支援に回ったというのが実情でした。あくまで石破首相誕生を阻止するための『当て馬』だったわけです。

それに、高市氏は総裁選後に麻生氏へのお礼参りをおざなりにして麻生氏の不興を買ったとも言われています。今回の総裁選では麻生氏は進次郎氏の支援に回るのでは、との観測も出ており、情勢は不透明といえます」(同)

高市氏にとって痛手なのは、自身と近い議員の多くが昨年の衆院選、今夏の参院選で失職してしまったことだ。自民党凋落の一因ともなった「裏金問題」が、「旧安倍派(清和会)」が震源地となったことも影響している。

「五人衆」といわれた派閥幹部の1人、高木毅氏ら多くの所属議員が政治の表舞台から消えた。高市氏の夫である山本拓氏も衆院選で落選し、総裁選で推薦人となった杉田水脈氏も参院選で議席を得ることは叶わなかった。

「推薦人となることが期待される仲間も、『裏金問題』の当事者になった人や、沖縄戦の歴史認識を巡る『ひめゆり発言』で大炎上した西田昌司参院議員ら問題を抱える人が目立ちます。高市氏が首相になって、彼ら『すねに傷』を持つ人たちが前面に立つことを忌避する向きも党内にはあります。

高市氏は右派色の強いエキセントリックな言動も災いして党内での支持基盤が強いとは言えない。前回の総裁選以上に仲間集めには苦労するのではないでしょうか」(永田町関係者)

「『反高市』を公言する議員も少なくありません」 

2度の国政選挙で少数与党に転落した自民にとっては、野党との連携が政権運営のために必要となってくる。高市氏のライバルと目される進次郎氏が総裁となった場合は、「日本維新の会」と近い菅義偉元首相を通じた維新との連携が期待されている。 

一方の高市氏は、中国への強硬姿勢を貫く外交政策や積極財政を唱える経済政策で、「日本人ファースト」を掲げて先の参院選で急伸した参政党や、「手取りを増やす」として減税政策を前面に押し出した国民民主党との親和性の高さが指摘されている。

ただ、こうした新興勢力との「合体」を警戒する声も党内には根強い。

「霞が関では、高市氏が首相になった場合のリスクが懸念されています。彼女が主張する“減税”や大規模な“財政出動”を警戒する財務省はもちろん、防衛省内でも危機感が広がっている。

A級戦犯の合祀問題がくすぶる靖国参拝を断行するなど、特に中国に対して強気な姿勢を貫く高市氏ですが、省内では『高市氏が首相になって中国を刺激すれば本当に“台湾有事”が起きかねない』との危機感があります。台湾での有事を見据えて、米軍とともに敷く防衛体制『南西シフト』の最前線に立たされている制服組(自衛隊幹部)の中にも『あの人だけはダメだ』との声が根強くある。

ましてや主張が似通っている参政党なんかと接近すれば、有事勃発のリスクはより高まる。

党内でもそうした官僚たちの声は共有されており、『反高市』を公言する議員も少なくありません」(前出記者)

高市氏は昨年の総裁選に破れて以降は、石破首相から提示された総務会長のポストを固辞し、無役を貫いていた。メディアに取り上げられるような表だった動きも見せず、非主流派として雌伏の時を過ごした。

「総裁選以降はメディア露出を控えていた一方で、地方行脚に精を出していた。各地の講演会はいつも盛況で、在野の支持者からは相変わらず人気のようでした」(同)

自民党は9月9日、次の総裁選について、議員票と都道府県連代表のみの「簡易型」ではなく、地方の党員からの投票も受け付ける「フルスペック型」で実施することを決めた。

地方人気の高い高市氏にとっては、有利な材料にもなり得るが、最大の課題は「党内での求心力をどこまで高められるか」にかかっていそうだ。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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