安倍元首相ものまね芸人が、業界を激震させたATSUSHIものまね芸人・RYOの騒動を語る「葬儀の場は違う」
安倍元首相ものまね芸人が、業界を激震させたATSUSHIものまね芸人・RYOの騒動を語る「葬儀の場は違う」

9月9日、ものまね芸人・RYOが、親交のない歌手・橋幸夫さんの通夜に、EXILE ATSUSHI本人になりすまして参列した件について批判の声が続出し、ものまね芸のモラルが問われる事態となった。 一方、安倍晋三元首相のものまね芸人・ビスケッティ佐竹さんは銃撃事件直後の半年間は活動自粛に入ったものの、妻・昭恵さんからの承認をいただいたことで、今でも安倍さんのものまね芸を続け、SNS上でも応援の声が相次いでいる。

佐竹さんの活動再開から現在までを追うとともに、騒動についての意見をうかがった。(前後編の後編) 

安倍元首相ものまね芸、「不謹慎だ」と言われたことも… 

安倍晋三元首相が亡くなってから半年経った2023年1月、妻・昭恵さんからの承認をいただいたことで、安倍さんのものまね芸で活動を再開した。

復帰の舞台に選んだのは、東日本大震災の被災地・福島県楢葉町。安倍さんが復興支援のため、自らトラックを運転し、何度も足を運んだ場所だった。

安倍さんゆかりの地を訪れる自身のYouTube企画「あべさんぽ」の一環で、町を歩いていると、町民の反応は温かかった。最初は驚きつつも、笑顔で手を振ったり、安倍さんとの思い出話を語ったり、なかには感極まって目頭を押さえる人までいた。

「これからも安倍さんのものまねをやっても大丈夫、待っていてくださる方はたくさんいるんだと、実感することができました」(ビスケッティ佐竹さん、以下同)

活動再開から約2年半。“安倍晋三”のものまねをする佐竹さんの現在の活動状況は、基本的にショーパブでの披露のほか、結婚式や中小企業の周年パーティーにて“安倍晋三”として祝辞を求められることが多い。

「正直、地上波や公のイベントでの“安倍晋三”としてのオファーは全くない状況です。まだ事件を思い出して悲しくなってしまう人も多く、『不謹慎』と捉えられかねないので…僕も無理して広げてほしいとは思っていないです」

とはいえ、徐々に“安倍晋三”としての仕事が増えつつある佐竹さん。芸を披露する前には必ず「安倍元総理公認のものまね芸人である」こと、「妻の昭恵さんから了承を得ている」ことなどを伝えているという。

「お客様の中には『亡くなった方のものまねをして大丈夫なの?』と心配される方もいます。不安を抱えたまま、芸を楽しんでもらうことはできない。

だから『安心して見てくださいね』という意味を込めて毎度、伝えさせていただいてます」

芸を見る前の段階で「不謹慎だ!」と言われたことはこれまでもあったというが、実際に、説明をしたうえで芸を披露した後は、「頑張ってね」「応援してます」と温かい言葉をかけられることがほとんどだったという。

今でも続く妻・昭恵さんとの交流、安倍さん逝去後の芸風に変化も 

安倍さんの首相時代は、多くのテレビ番組やイベントに「偽の安倍晋三」として呼ばれ、妻の昭恵さんとも交流を深めていた佐竹さん。活動再開後の2年半、昭恵さんとの交流は今でも続いているのか。

「もちろん続いています。お互いの誕生日や正月にはLINEでお祝いのメッセージを送り合いますし、今年の正月には新宿区の餅つき大会に参加されていたので、娘を連れて挨拶にいきました。

いつも通りフランクな感じで、『娘さんかわいいね!』と一緒に写真を撮ってくださって、『これからも主人のものまね、よろしくね』と笑顔で声かけしてくださいました」

実際に、安倍さんの生前と亡くなられた後では、芸を披露する際に求められる配慮の度合いも変わってくるが、芸風や表現内容で変化を加えた部分はあったのだろうか。

「現役の総理だったときは、テレビで安倍さんが言いそうな切り返しを上手く織り交ぜながら笑いを取っていたんですが、亡くなられてからは、安倍さんに扮するだけで、安倍さんに会いたかった人やロスになった人に『ありがとう』って言われることが増えたんです。

そういった意味では、お笑い的なスタンスからは少し逸れてますが、『安倍さんの存在を忘れない』という意味を込めて、全国行脚して、みなさんと触れ合っていく活動にシフトしていきました」

そんななか、今後の活動についての意気込みも語ってくれた。

「人は新しく前を向くうえで、悲惨な出来事だけでなく、よかった印象を思い出される方が多く、“安倍晋三”としての仕事や活動が増えている状況です。まずはそれにしっかり応えていきたいです」

騒動について「ものまね芸は、ご本人あっての表現」 

今月、EXILE ATSUSHIのものまね芸人・RYOが、親交のない歌手・橋幸夫さんの通夜に参列した件について物議を醸しているが、この騒動について同じものまね芸人としてどう思うのか。率直な意見を聞いてみた。 

「ものまね芸はご本人あっての表現だと思うので、自身の言動がご本人に迷惑をかけてしまうことは避けるべきだと思います。そもそも故人の冥福を祈り、別れを告げる葬儀という場で、自分のやりたいことを持ち出すのは違うんじゃないかと思います」 

今回の騒動に関しては、同じものまね芸人の仲間内でも話題にあがったという。

「『あれはさすがにないよね…』っていうのがみんなの共通認識です。そもそも皆さん、RYOという芸人にショーパブなどの会場や現場で『会ったことがない』と言うんです。

どこに所属していて、どこで出演している芸人なのか、誰も情報を持っていない。逆にいうと表現の場がないから、ああいう変な方向に向かってしまったのかもしれません」

今回の騒動は、業界に深刻な影響を与えている。八代亜紀さんなどのレパートリーを持つものまね芸人・りょうは、物議を醸しているRYOと同名であることから混同されていると明かし、自身の公式サイトで〈報道に出ている方とは全くの別人です〉と声明を発表した。

「今回の件で、『ものまね芸人=不謹慎な人たち』という偏見が広がってしまうことは、業界としてもすごく残念ですし、祝辞イベントに呼ばれる件数も減っていくと思います。

もちろん、ものまね芸って本人の特徴を誇張したり、腐してしまう部分はあって、もともとのベースとして失礼になってしまいがちな芸ではあります。だからこそ、まずは一度立ち止まって、自分の芸がご本人にどう思われるのかを念頭に置きつつ、場に適した行動を取っていくべきだと思います。配慮がないと、ものまね芸を続けることは難しいと思いますので」

笑わせるためのものまね芸が、いつの間にか誰かを傷つけていないかーー。その境界線は非常に繊細で、そして意外と紙一重……。だからこそ、ものまね芸人はあらゆる場面で、マナーとモラルが求められているのだろう。

#1「―安倍元首相亡き後も、ものまねを続けるきっかけとなった妻・昭恵さんからの言葉と涙」はこちらから

取材・文/木下未希 撮影/石垣星児

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